表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last Vane 〜片翼の女騎士が迎えに来た俺は、死んだ王の魂を宿して異世界の王座へ向かう〜  作者: 灰凪 宵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/27

第8話 - 「似ていく」①

王都・リュミエル。


巨大な白壁都市。


幾重にも重なる尖塔。

空中水路。光る街灯。聖堂の鐘。

遠目に見れば、まるで理想郷だった。


だが近づくほど、街の綻びが見えてくる。

外壁には亀裂。

光樹は半分以上が枯れ、枝先が黒く変色している。

空中水路はところどころ止まり、濁った水が石畳へ垂れていた。


そして街全体に漂う、妙な静けさ。

活気がない。

人々が笑っていない。

市場では、果物ひとつを巡って言い争いが起きている。


痩せた子供。疲れた商人。虚ろな目。


“聖王国”。


そう呼ばれるには、この国は少し疲れすぎていた。


そんな街へ、カノンと響は入っていく。

門兵たちは、カノンを見るなり顔色を変える。


敬礼。


だがその直後、視線が彼女の片翼へ落ちる。

一瞬だけ、空気が濁った。

恐れ。嫌悪。そして嫉妬。

片翼でありながら、数々の武勲を打ち立て、王に最も近かった女。

それがカノンだった。

民衆もざわめく。


「片翼だ」


「近衛団長……」


「帰ってきたのか」


「隣の男、誰だ?」


響は居心地の悪さを感じる。

だが同時に。

街を歩くたび、知らない記憶が脳裏を掠めた。


ここを知っている。

噴水広場。時計塔。聖堂前の坂道。

足が勝手に進む。


大通りを進めば王城は見える。

なのに響は、ふと横道へ入った。

石造りの細い路地。


傾いた街灯。剥がれた壁。水の止まった小さな水路。

初めて来たはずなのに、迷いがない。


次の角を左。

古い聖堂の裏を抜ける。

白いアーチの下を通れば、王城へ近い。


そんなこと、誰に教わったわけでもない。

響自身も、自分が自然に道を選んでいることに気づいていなかった。


「……」


カノンは足を止めかける。

その道は、かつて先王が人目を避けて使っていた近道だった。

護衛すら置き去りにして、王が一人で街へ降りる時の道。

知っている者は少ない。

なのに響は、当然みたいにそこを歩いている。

通りすがりの老人が、ふと響を見た。

少年の横顔。歩幅。視線の向け方。


その一瞬に何かを見たのか、老人は息を呑んで立ち止まる。


別の女も、言葉を失ったように響の背中を見送った。


誰もはっきりとは言わない。

けれど空気だけが揺れる。

まるで。


王都そのものが、死んだはずの誰かを思い出しているみたいだった。


その様子を見たカノンの胸がざわつく。

まるで本当に“帰ってきた”みたいだったから。


――


王都へ戻ったその日から、響は周囲の視線に晒され続けていた。


「王の器」。


そんな曖昧な存在を、誰もどう扱えばいいのか分からない。

敬うべきなのか。警戒すべきなのか。

王城の空気は、目に見えない棘みたいに張り詰めていた。

石造りの回廊を歩きながら、響は小さく肩を落とす。


「……居づら」


「当然です」


隣を歩くカノンは即答した。

山吹色の髪が、窓から差し込む夕陽を受けて淡く揺れる。


「あなたは世界侵食の中心にいる存在です。警戒されない理由がありません」


「言い方」


「事実ですので」


言いながら歩き、ユラに合流する。

彼女は灰色の長耳を揺らしながら、壁へ寄りかかるように言った。


「でもまあ、時間ないのも本当」


響が眉をひそめる。

ユラは続けた。


「世界の侵食を止めるには、先王の魂をお前の身体から引き離して循環に還すしかない」


その言葉に、回廊の空気が少し冷えた。


「……循環に、還す」


「放っとけば、そのうちお前ごと王になるよ」


軽い口調。

でも冗談じゃない。

響は無意識に自分の胸元を掴む。

最近ずっと、身体の奥に誰かがいる感覚があった。

夢。記憶。感情。

知らないものが、少しずつ混ざってきている。


ユラはそんな響を見て、少しだけ真面目な顔になる。


「引き離しの術は知ってる。でも術中、お前の中の王が暴れる可能性がある」


「準備がいる。触媒も、場所も、あんたの状態確認も」


「王が暴れる?」


「身体の主導権を奪われるって意味」


響の背筋に寒気が走る。

カノンが静かに口を開いた。


「危険ですので、広い場所で行います」


「……どこで?」


「訓練場です」


響が嫌そうな顔をする。


「嫌な予感しかしないんだけど」


「安心してください」


カノンは真顔だった。


「私が止めます」


全然安心できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ