【26】女子会〈2〉
「このマカロンが、ずっと食べたかったんだよね〜!」
リリアが幸せそうに声を弾ませ、色鮮やかなマカロンをひょいと口に放り込む。
「このケーキも、とてもおいしいわ」
セラフィナも、甘い誘惑に抗えないといった様子でふわりと頬を緩めた。
上品ながらもどこか楽しげにフォークを動かす彼女たちの姿に、エナも自然と笑顔になる。
病み上がりのエナを元気づけようと、勢いよく二人が連れ出してくれたのは学園の食堂だった。
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「ここの専属パティシエが作るマカロンが、絶品だって噂を聞いていたのよ」
「病み上がりの快気祝いは、とびきり甘いものじゃないとダメでしょう?」
リリアとセラフィナは柔らかく微笑んで、エナに視線を向けた。
このお茶会は、数日間寝込んでいたエナを元気づけるために二人が企画してくれたものだった。
(……嬉しいな)
エナは目尻を下げ、込み上げてくる熱いものを誤魔化すように、テーブルの上の華やかな一皿を見つめた。
三人が座るのは、全面ガラス張りのテラス席。降り注ぐ午後の陽射しが、琥珀色の紅茶や彩り豊かな菓子たちを、宝石のようにキラキラと輝かせている。昼時を過ぎた食堂は人気もまばらで、穏やかな静寂が心地よい。
「たまには食堂に来るのもいいわね」
セラフィナの言葉に頷きながらティーカップを口に運ぶ。湯気とともにアールグレイの華やかな香りが鼻腔をくすぐった。
(……いい匂い)
普段、聖女科の生徒が食堂を利用することはほとんどない。それは歴代の聖女たちが守ってきた慣習であり、彼女たちが現れるだけで押し寄せる生徒たちの熱視線や、好奇のざわめきを避けるためでもあった。
食事はいつも寮まで届けてもらうか、寮母のマダム・マリーナが腕を振るってくれる。時には自分たちでキッチンに立ち、賑やかに料理をすることもある。
(あの時、リリアが塩と砂糖を間違えそうになって、みんなで大慌てしたっけ……)
ふと思い出したエナは、可笑しさが込み上げて思わずクスクスと声を漏らして笑った。そんな温かな日々の断片をなぞるだけで、胸の奥にぽっと灯がともるような、確かな幸福感が込み上げてくる。
「おっ、きたきた〜」
マカロンが運ばれてくると、リリアが子供のようにはしゃいだ。学園一の美女と称される彼女の、近寄りがたいクールビューティーな外見と、中身の人懐っこい猫のような無邪気さ。そのギャップは、食事の時に最も顕著に現れる。
エナはにこにこと目を細めながら、その微笑ましい様子を眺めていた。
「エナも食べなよ、はい!」
リリアに勧められ、エナも「いただきます!」と宣言してマカロンを口にする。繊細な生地は歯を立てた瞬間に軽快に弾け、とろけるような甘さを残して跡形もなく消えてしまった。
「お、おいしい……っ!」
三人で顔を見合せて、深く、満足げに頷いた。
「一流の料理人達が揃っているっていう噂は、本当だったようね……」
セラフィナがうっとりと吐息を漏らせば、エナもうんうんと相槌を打った。
「いつもの食事もおいしいけど、これは特別だね」
あっという間に大皿の中のマカロンを空にすると、お腹が満たされひと段落着いた。
窓から差し込む柔らかな光が、琥珀色の紅茶を透かしていく。
「──それでね、お父様に聞いた話なんだけど」
リリアが身を乗り出したのを合図に、話題は次から次へと転がっていく。
最近流行り出した東方の果実を使った新作スイーツの噂から、最新の美容法、寝癖がつかないと評判のナイトキャップの使い心地。さらには、まだ少し先の季節を先取りするような春色のリップカラーの相談まで。話題は尽きることなく、女の子らしい華やかな話題が次から次へと飛び出して、テーブルは色とりどりの花が咲いたような賑わいを見せた。
「それにしても、エナの熱が下がってよかったわ」
「ほんと。心配してたんだから!」
「二人とも、ありがとう」
友人たちの温かな言葉に、エナがはにかむ。
「それじゃあ──そろそろ、星降祭での話、聞かせてくれるかしら?」
セラフィナが紅茶を一口含み、わざとらしく小首を傾げる。
(……あれ?)
それまで軽やかに舞っていた美容やファッションの話題が、ふわりと湿り気を帯びた恋バナの気配を纏い始めた。




