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「それらを使わなくても、それすら凌駕する右足があればいいんでしょ!!」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

 正月、そして冬休みすら明けた放課後。

 八々花イレブンは天堂任見の号令で、グラウンドに集合する。


「先日も言ったけれど、今日からあなたたちの神域を、地獄に突き落とすわ。付いてこれる覚悟がなければ、全国は諦めなさい。」


 ストップウォッチの紐を指先に絡めながら、天堂任見は目深に被った赤地に白のラインが走るスポーツキャップの影からイレブンを冷酷に見据えた。

 初めてイレブンの前に現れた時の、どこか浮世離れしたシックなコート姿とは一転し、鮮烈な赤と白のコントラストが眩しい、シルエットの美しいウィンドブレーカーを纏った彼女は、まるで世界のエンターテインメント(戦術)を支配する絶対的な女王としての凄みを放っている。

 有無を言わせぬ王者のオーラに、萩子すらも気圧されたように言葉を呑む。


「……そこの背番号9番。神酒盃菊鞠、あなたよ」


 天堂の細い指先が、凜と佇む黒髪の少女を指し示した。


「今日から左足も、頭も、使える部分は全て使いなさい。右足だけの『欠陥品』のままじゃ、神園のイージスは1ミリも揺るがないわ」


「えっ、そんな!」


 突如、右足の封印を言い渡され、困惑どころか混乱する菊鞠。長年かけて磨き上げ、仲間を救うと誓った自身の絶対的なアイデンティティを真っ向から否定されたのだ。


「出来ないの?なら、早々に立ち去りなさい。何度も同じことを言わせないで」


 言い訳すら許さない冷酷なカット。

 天堂の圧倒的な威圧感に逃げ道を完全に塞がれ、菊鞠は奥歯を強く噛みしめて、泥のピッチへと一歩を踏み出すしかなかった。


 ――だが、それは文字通りの『地獄』の始まりだった。


 制限付きのミニゲームが課される。

 ピッチにボールが転がり、八々花のメンバーが動き出す。しかし、何かが決定的に違っていた。


 いつもなら、菊鞠の右足にボールが吸い付くたび、そこには彼女だけの優雅なリズムと、確かなボールタッチの余韻が生まれていた。それが、八々花女子高校サッカー同好会の、美しくも穏やかな日常の象徴だった。


 しかし、その絶対的な右足は、今日から使うことすら許されない。


 いつもの癖で右足を出そうとすれば、その瞬間に叱責が飛ぶ。


 長年かけて身体に染みついた「職人の習性」すらも、天堂の冷酷な瞳は見逃してはくれない。無意識に右足が動くたび、鋭いホイッスルと容赦のない言葉のナイフが、逃げ場のないピッチの上で菊鞠の心を抉っていく。


 右足を使えば、一瞬で、それこそ舞うように完璧にコントロールできるボールなのだ。それをわざわざ、苦手な部位で不格好に扱わなければならない。

 ボールがバウンドするたびに自分のサッカーが、積み上げてきた伝統の技術が、見る影もなく崩壊していく。

 髪を乱し、顔を泥で汚しながら立ち上がる菊鞠の胸の内に、右足を使わせてもらえない不甲斐なさ、そして天堂への猛烈なストレスが、ドス黒いマグマのように急速に膨れ上がっていく。


「なぁに、その程度? 神域の主の覚悟なんて、右足を奪われただけで機能停止するほど安っぽかったかしら。使えないならピッチから失せなさい」


 非情な天堂の声が、冬の冷たいグラウンドに突き刺さった。


「てめぇ、言わせておけばッ!」


 泥に塗れた菊鞠の姿を見て、萩子が我慢の限界とばかりに牙を剥いた。

 ウルフカットを逆立て、今にも天堂に掴みかからんとする萩子の前に、左右の縦ロールを揺らした少女が毅然と立ちはだかる。


「萩子さん、おやめなさい!」


「止めるなよボッタン!――アタイ、馬鹿だからよく分かんないけど、言い過ぎだとは思わないのかよっ!」


 悔しさに拳を震わせる萩子の言葉を、牡丹は静かに受け止めた。その視線をゆっくりと、赤地に白のウェアを纏った天堂任見へと向ける。

 お嬢様としての気品を保ちつつも、その瞳には明確な強い意志の炎が宿っていた。


「ええ、思いますわ。――天堂先生。今は手探りの状態ですので、わたくしたちも従うほかありません。ですが、従うからには結果につなぐようにしてくださいまし」


 同好会のイレブンたちの視線が一斉に天堂へと集中する。

 反発と、微かな期待の入り混じった張り詰めた沈黙。


 しかし、天堂はストップウォッチの紐を指先で弄びながら、帽子の影から冷酷な笑みを浮かべるだけだった。


「――あら。結果を出すのは、貴方たち自身ではないの?」


 天堂は一歩、牡丹の方へと歩みを進める。その圧倒的な強者のオーラに、周囲の空気が一段と冷え切っていく。


「私は、神園にも一文字にも通じる手段を授けるだけ。貴女たちがそれを活かせるかは、貴女たち自身。違う?」


 逃げ場のない正論。

 冷たく突き放すような天堂の問いかけが、グラウンドの上に重く響き渡った。


「――違います」


 萩子でも、牡丹でもない。

 泥に塗れた地面から、髪を乱した菊鞠がゆっくりと、しかし信じられないほど力強い声で割って入った。

 膝を突き、両手で冷たい泥を握りしめながらも、その瞳は見たこともないほどギラギラとした野生の輝きを放っている。いつもはおっとりとした「お人形」のようだった少女が、初めてその内側にある剥き出しの闘志を露わにしていた。


「神園の規律トランプも、一文字のデータ(麻雀)も、私には関係ありません。……そして、左足も頭も、私には必要ありません!」


 菊鞠は泥を払い落としながら立ち上がり、赤地に白のウェアを纏う天堂を真っ直ぐに見据えて言い放つ。長年かけて磨き上げた、自身のたった一つの『絶対』を誇るように。


「それらを使わなくても、それすら凌駕する右足があればいいんでしょ!!」


 グラウンドの冷気を切り裂くような、傲慢とも言える右足へのこだわり。

 セオリーを真っ向から拒絶したその強烈なエゴを見た瞬間、天堂は目深に被ったキャップの影で、クッと深く深く、口元を歪めた。


「……へぇ。なぁに、その傲慢なエゴ。いい面構えになったじゃない」


 天堂はストップウォッチをポケットに放り込むと、パチン、と短く指を鳴らした。その瞳には、最初からこの覚悟エゴを引き出すために追い詰めていたのだと言わんばかりの、愉悦の色が浮かんでいる。


「お望み通り、その歪な右足を徹底的に尖らせてあげるわ。――桜、満月。入りなさい」


「えっ、わ、私ですか!?」

「イエス、マム!」


 突如名前を呼ばれ、目隠れボブを揺らして困惑する桜。それとは対照的に、かつてのボスからの号令に条件反射で直立不動の敬礼を返すかのように、クソ真面目に声を張り上げる満月。


 2人の反応を見届け、天堂は不敵に微笑んだ。


「これ以上ボールを地上に落としたくなければ、そのバラバラの花札あなたたちで『役』を揃えてみせなさい」


 ――こうして、右足一本で全てを凌駕すると誓った、菊鞠の泥臭い戦いが幕を開ける。


 それはまだ、完成には程遠い歪な挑戦。

 しかし、静まり返った地獄のピッチには、八々花だけの究極の戦術【花見】【月見】の微かな胎動が、確かに響き始めるのだった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!次回予告――


 「赤地に白」の鮮烈なウェアを纏い、グラウンドで牙を剥いた特別総監督・天堂任見。

 右足の封印というセオリーの強要によって、泥に塗れ、伝統のサッカーを崩壊させられていくひまり。

 職人としてのプライドが傷つけられ、胸の内にドス黒いストレスを溜め込んだ彼女だったが、ついに野生の挑戦者としてエゴを爆発させる!

 「右足一本でそれすら凌駕する」と誓った彼女の前に、天堂が投入したのは幕ノ内桜と薄満月。

 完成には程遠い歪な挑戦。しかし、地獄のピッチには、八々花だけの究極の役――【花見で一杯】【月見で一杯】の微かな胎動が、確かに響き始める!


 次回、第96話【「桜、いきまーすっ!」】どうぞお楽しみに!――


「天堂任見のウインドブレーカー、赤地に白www 法務部さんココですwww」

「満月の『イエス、マム!』のクソ真面目さwww条件反射かてwww」

と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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