「ウチなんか『大凶』なんよ〜! いや違う、これはきっと、『大メ出たい』なんよ!」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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――ピロン♪
『皆、あけましておめでとうございます。今年こそ、全国を目指して頑張ろう!』
元旦の朝、キャプテンの鹿戸椛から届いたNINEの通知。
それに続くように、グループトークの画面には八々花イレブンそれぞれの個性がこれでもかと詰まった「明けましておめでとうございます」や「あけおめ」といった通知が爆速で並び始めた。
萩子やカスミ、まつりからは「アタイは今年も爆走するぜ!」「新春から生存確認通知なんよ☆」「ぶちアゲ!」といった、原型を留めていない騒がしいメッセージがスタンプと共に連打される。
一方でシンプルなのは桐子と千鶴、そして桜。
『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします』
一言一句、句読点の位置まで全く同じ。寸分の狂いもないクソ真面目な定型文が3通きれいに並ぶ光景は、もはや美しい戦術のグリッド(網)のようですらある。
そこから頭ひとつ、いや三つぐらい抜けて文字の多いのは満月。
『昨年中は大変お世話になりなりました。本年も何卒よろしくお願いいたします。』という文字から始まり、昨年やり残した悔いと、新年への抱負をこれでもか!と詰め込み、新年から文字の壁の怪文書を皆の元へと送りつけていた。
「いや、満月。おまえ長すぎるわ――って、柳のこれ、何なん?」
大阪の実家で画面を見ていた藤乃が、思わずみかんを剥く手を止めてツッコミを入れた。
『――賀。』
ただ一言、極限まで引き算された柳のメッセージ。
さらにその下には、小梅からの、文字が緊張で震えているかのような、『あ、明けましておめでとうご、ございます……!』 という初々しいメッセージが、「ホーホケキョ♪」と動くウグイスのアニメーションスタンプがポンと添えられる。
――ピロン♪
『菊鞠くんのいる菊堂神社に、皆で初詣に行こうと思うんだが、予定は空いてるかい?』
ひと通り挨拶が終えた頃合い。
再び椛からグループNINEへと初詣のお誘いが送信された。
『お誘いありがとうございます。ただ、ウチは元旦から家元の挨拶回りに駆り出されていまして……3日の昼からなら動けます!』
お琴の家ならではの事情を綴るあやめ。
『わたくしも元旦は父の会社の取引先へのご挨拶が……。3日なら空いておりますわ』と、さすが社長令嬢という他ない牡丹。
『ウチは今、大阪の祖父ちゃん家でみかん食うとるんや! 2日の夜の新幹線で戻るから、3日なら100%合流できるで!』と、安定の帰省報告をする藤乃。
そんな賑やかなタイムラインを、菊鞠は社務所のカウンターの裏で眺めていた。
三が日の境内は、文字通り不眠不休のフル稼働だ。
お守りや破魔矢を求める参拝客の波がひっきりなしに押し寄せ、息をつく暇すらない。
だが――そんな怒涛の喧騒が、奇跡のように「ふっ」と途切れた、わずかな一瞬。
冷たい正月の風が吹き抜ける無音の合間に、ひまりは冷え切った両手でスマホを包み込み、みんなのメッセージを見つめて、ふにゃりと愛おしそうに目を細める。
『神社は三が日ずっと大繁盛で忙しいけど、皆が3日に来てくれたらすっごく嬉しい! 待ってます!』
――明けて、1月3日の昼下がり。
雲一つない正月の青空の下、おめかしした衣装に身を包んだ八々花イレブンの面々は、ついに『菊堂神社』の鳥居をくぐっていた。
一般の参拝客でごった返す人混みの向こう。お守りや破魔矢を授与する社務所のカウンターに、白衣に緋袴を身にまとった、菊鞠の姿があった。
「あ、皆さん! あけましておめでとうございます!」
菊鞠が満面の笑顔で手を振る。だが、集まったイレブンは、社務所の前に並んだ瞬間、その視覚的な華やかさと圧倒的なオーラで境内の一角を完全に支配していた。
五月の薫風のような深い群青の振袖に菖蒲が咲き誇るあやめ。
闇夜のような漆黒の振袖に深紅の牡丹と瑠璃色の蝶を明滅させる牡丹。
ライムグリーンと漆黒のバイカラーに金の『あかよろし』のラメがギラギラ輝くまつり。
深い夜空の紺色に満月の帯を定規で測ったように締め、頭にお供え団子のようなパールの簪を刺した満月。
そして、眩しい純白の振袖に満開の桜と赤黒の『桜に幕』の意匠を流し、圧倒的な質量を帯で強調された幕ノ内桜が、カメラを構えるカスミに「カスミちゃん、ローアングルは禁止!」と牽制していた。
そんな強烈な『着物組』のすぐ横には、負けず劣らずスタイリッシュな『私服組』が並ぶ。
綿生地のシックなスラックスを履きこなすキャプテン、椛。
漆黒のタートルネックに鳳凰の炎の赤マフラー、黒ロングチェスターを羽織る桐子。
真っ白なオーバーサイズのミリタリーコートに、深緑のパーカーとスニーカーの赤を効かせた千鶴。
黒のテック系マウンテンパーカーのジップを上まで閉め、赤いバックパックを背負った柳。
さらに、大阪帰りのラフなレザーブルゾン姿の藤乃と、鶯色のキルティングコートの中から紅白の梅ニットを覗かせてアホ毛をぴこぴこさせる小梅。
パステル調の淡い青のダッフルコートにチェック柄のロングスカートを合わせ、ナチュラルガーリーな格好のカスミ。
そして、くすみピンクのきれいめコートにワインレッドのマフラー、白のレザースニーカーを履いた顧問の三芳野先生。
「はい、みんな、あけましておめでとう! 社務所の前で騒ぐのはそこまで!」
三芳野先生がパンと手を叩き、大人の笑みを浮かべた。
「せっかく神社の娘がチームにいるんですもの。事前に神酒盃さん(菊鞠の親御さん)にお願いして、今日のために枠を取ってもらいました。――全員で、拝殿へ上がって『必勝祈願の正式参拝』をしましょう!」
「「「えっ、正式参拝!?」」」
一般の参拝客の喧騒から離れ、ひまりの手引きで冷たい空気の満ちた拝殿の奥へと上がるイレブン。
菊鞠が叩く大太鼓の音がドォン……と重厚に響き、神職が奏上する祝詞の中に、「八々花女子高校サッカー同好会、必勝祈願――」と言葉が紡がれる。
椛を筆頭に、牡丹、あやめ、桐子たちが真剣な面持ちで玉串を捧げ、二礼二拍手一礼。
秋の敗戦でどこかガチガチになっていた少女たちの心が、神聖な神事によって、次なる全国への意志へと美しく「再調律」されていく。
――だが、厳かな拝殿から一歩外へ出た途端、緊張の糸が切れていつものカオスが復活した。
「よし! 神様への挨拶も済んだし、新春一発目のおみくじ引くじゃんね!」
まつりの掛け声と共に、全員で社務所のおみくじ筒をザカザカと振り始める。
「あ、大吉! 『東風に吹かれよ』って書いてある、良かったぁ!」と、あやめ。
「ウ、ウチも大吉です……! ふふ、嬉しい……!」と、小梅が頭の上でアホ毛をぴこぴこぴこぴこさせる。
「――吉。」と、柳が目を瞑ってポツリと呟く横で、境内の端から特大の悲鳴が上がった。
「待ち人:来ないじゃん!? アタイ、凶を引いたぞぉっ!!」
萩子が野生の咆哮をあげてショックを受け、その隣ではカスミも頭を抱えていた。
「ウチなんか『大凶』なんよ〜! いや違う、これはきっと、『大メ出たい』なんよ!」
「はいはい、凶と大凶を引いた2人は、そこの神木の枝にしっかり結びつけてきなさい!」
三芳野先生が笑いながら、2人の頭をポンポンと叩く。
敗戦の泥を落とし、お正月の境内に響き渡る、いつも通りの賑やかで温かい八々花女子の笑い声。
みんなのそんな楽しそうな姿を、社務所のカウンターの奥から眺めていたひまりは、パッと顔を輝かせた。
(そうだ、せっかくだから、あの神事にも誘ってみよう!)
ひまりは白衣の袖をパタパタと揺らしながら、カウンターから身を乗り出すようにして、イレブンたちの前へと一歩踏み出し、いたずらっぽく、けれど真っ直ぐに声を響かせた。
「皆さん。――初鞠神事に、出てみませんか?」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
おみくじの凶(大メ出たい)を笑い飛ばし、新年の必勝祈願を済ませ。
そんな彼女たちに、社務所のカウンターからひまりが放ったのは、まさかの『初鞠神事』への誘い!?
ユニフォームを脱ぎ捨て、日本の伝統衣装である『直垂』や『水干』に身を包んだ美少女イレブン!
大きな袖や長い裾に悪戦苦闘しながらも、四方の竹に囲まれた鞠庭で、地上にボールを落とさない本物の蹴鞠が幕を開ける。
これぞ、八々花女子高校サッカー同好会の原点にして、次なる覚醒へのステップ!
次回、
第92話【「――ありっ。相手を思いやり、鞠の痛みを殺して、そっと浮かせる。……私たちのサッカーも、きっと同じだと思うんです」】
どうぞお楽しみに!
――
「14人+先生の私服&振袖設定の解像度パネェ……!文字だけで完全に脳内再生できた!」
「カスミちゃんの大メ出たい構文ww新春一発目からキレッキレで最高!」
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