(やろうと思えば私――一晩中でも落とさずに続けられちゃうんだけどっ……!?)
前回から半月ほど空いてしまいました……。
ここを書く前に、フリースタイルフットボールというものを初めて知りました。
改めて、不勉強のまま書き始めてしまったな……と反省してます。
「――ありーやー、ありっ」
菊鞠は高らかに、その声を張り上げた。
「「「!?!?」」」
突如として放たれた、菊鞠の凛とした神聖な『請声』に、椛たちの肩がビクッと跳ね上がる。
――とーんっ!
右足の甲で、サッカーボールを真上へと高く蹴り上げた。
ふわり。
腰まである黒髪が、その動きに合わせてきれいに舞う。
「やあ」
――ぴた。
重力に従って落ちてきたボールを、再び右足の甲で完璧に受け止め。
今度はごく小さく、膝の高さへとリズミカルに蹴り上げ始めた。
「おう」
ぽん。
「あり」
とん。
「やあ」
とん。
自らの請声に合わせて、ボールがまるで生き物のように、規則正しく空中を跳ね続ける。
高く、低く、また高く。
伝統的な蹴鞠の、基本にして究極の特訓法『数鞠』――。
一足、二足、三足と、寸分の狂いもない姿勢のまま数を重ねていく。
だが。
優雅に舞う菊鞠の脳内は、別の焦りで埋め尽くされ始めていた。
(……あわ、あわわわわっっ……!)
(勢いで蹴り始めちゃったけど、一体何回まで蹴ればこの人たちは満足してくれるの!?)
(これ、やろうと思えば私――一晩中でも落とさずに続けられちゃうんだけどっ……!?)
さすがに、そこまでは求めていないだろう。
早く止めるタイミングを見つけなければ、と菊鞠は内心で冷や汗を流す。
そんな『天才』の焦りなど、知る由もない椛と牡丹。 二人は驚愕のあまり、言葉もなく目を見張っていた。
「なるほど……。リフティングのストリート競技――フリースタイルフットボールを彷彿とさせるけれど、身体の軸が全くブレていない。似て非なるものだね、これは」
「フリースタイルのような、トリック(魅せる技)はないのかしら……?」
二人の専門的な呟きが、菊鞠の耳に届く。
フリースタイルフットボール――。
その単語を聞いた瞬間。
菊鞠の脳裏に、中学時代の苦い記憶がフラッシュバックした。
――自称・フリースタイルの天才。
思えば、あの不誠実な男子たちとの勝負のなかにあって。
彼との対決こそが最も熱く、そして菊鞠に生まれて初めて『負けるかもしれない』という恐怖を味わわせた――最大の宿敵。
――あの中学時代。
一週間だけの、淡い記憶。
自称・フリースタイルの天才だった彼は、勝負を焦って大技を自爆。
結果的に、菊鞠が辛勝した。
けれど。
菊鞠自身は『勝負に勝って、試合に負けた』と、痛烈に悟っていた。
(彼ほどの技術があるなら、告白を受け入れてもいいかも……)
そう思って、モヤモヤした気持ちのまま。
彼が披露したフリースタイルの数々の技を必死に調べ、蹴鞠の技として取り込み――
血の滲むような練習で、自らのものへと習熟させたのだ。
『あいつに、もう一度リベンジを挑んで、今度こそ対等なお友達になるのっ!』
そうして、意気揚々と彼に再戦を申し込みに行った、まさにその時。
――彼は、すでに別の女子と付き合っていた。
その間、わずか一週間。
思えばあれが、菊鞠の淡い初恋であり。
同時に、あまりにも無惨な大失恋だった。
その一件が、一番心に堪えたのは確かだ。
自業自得。
逆恨み。
そんな後ろめたい気持ちを自覚しているからこそ、余計に意固地になって、
「サッカーなんて、大嫌い」
――そう言い張っていたのだ。
(あの時に、彼から奪い取った技。――ここで披露すべきか……。それとも、このまま無難に終わらせるべきか……)
悩みながら、ただ惰性でポンポンと数だけを重ねていると――。
「――それにしても、蹴鞠ってなんか単調なんだな」
「――っ!!」
悪気のない、何気ない一言を放ったのは、ウルフカットの少女、萩子。
その瞬間。
場の空気が、パキリ、と完全に凍りついた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「そこまで言うのなら――見せてあげるっ!」】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
「サッカー同好会のドタバタが大好き!」
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