「それで皆さんが納得してくれるのなら――いいでしょう。やってやります!」
「違う、違うの菊鞠ちゃん……! ずっと、ずっと隠してて本当にごめんなさい……」
「実は私……小学生の頃、ガチのサッカークラブチームに所属してたの……!」
「……えっ?」
親友の口から飛び出した、あまりにも耳を疑う言葉に、菊鞠は完全に絶句する。
「その様子ですと、本当にご存知なかったようですわね」
縦ロールを揺らした牡丹が、ふっと憐れむような――けれど、どこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「『カスティーヨ江戸』っていう、Jリーグの下部組織のスクールがありまして」
「そこで男子に混ざって、バチバチにピッチを支配していたのが、そこの八橋あやめさんですわよ」
縦ロールの令嬢、牡丹があやめを見据える。
あやめは、ぽつぽつと涙ながらに話し始めた。
「……小学校卒業と同時に、お母さんに『お箏に専念しなさい』って言われて辞めちゃったんだけど……」
「菊鞠ちゃんが中学のとき、サッカー部の男子に嫌な目に遭わされて、サッカーが大嫌いになったって聞いてから……」
「ますます自分が元サッカー選手だなんて、言えなくなっちゃって……っ! 本当に、ごめんなさい、菊鞠ちゃん……っ!」
いま一度、大粒の涙をポロポロとこぼしながら、深々と謝罪するあやめ。
「……あ……ううん。知らなかったとはいえ、私も、そんな親友の目の前で、サッカーの悪口ばかり言ってたんだね……」
「……私の方こそ、お友達失格だよ……ごめんなさい……」
予想もしなかった、大親友の『ガチ勢』の過去。
その衝撃にフラフラになりながらも、菊鞠もまた、あやめに向けて深く頭を下げるのだった。
「ま、そんな感じで、アタシらは八橋あやめを勧誘しようって思ったわけよ」
ウルフカットの萩子が、頭の後ろで腕を組みながら、のんびりとした口調で喋る。
「ちょっと、萩子さん! 少しは空気をお読みなさい!」「えー、だってこのままじゃ、いつまで経っても話が進まないじゃんか」
牡丹から叱責を浴びるが、萩子は不満そうに口を尖らせた。
「……あー、そういうことなんだ。神酒盃さん」
二人のやり取りを他所に、椛が静かに、菊鞠を見据える。
「それで、八橋さんに対する僕たちの誤解が解けたところで、さっきの話に戻るんだけど」
「――本当に昨日のパスをくれたのは、君なのかな?」
親友あやめの驚愕の過去を知り、大きなショックを引きずっていた菊鞠。
しかし、椛の声が彼女の意識を、現実へと引き戻した。
「そ、そうです。それは間違いありません」
菊鞠は、キリッと椛を睨み返した。
「ちょっと、にわかには信じられませんわね」
縦ロールを揺らした牡丹が、冷ややかに言う。
「んー……ならさ! ならさ! ――ここでこの子に、実際にボールを蹴ってもらえば早いじゃん!」
「確かに、それは一理あるかな……?」
「萩子さんに同意するのは非常に癪ですが、その通りですわね」
「コラ、癪ってなんだよ!」
「だ、大丈夫……? 菊鞠ちゃん……?」
勝手に話を進めていく三人組と、おろおろと心配してくれるあやめ。
だが。
親友の平穏な高校生活を守るためなら、ここで逃げるわけにはいかない。
何より、自分自身の不始末だ。ケリをつけるべきは、自分だろう。
「……ええ、それで皆さんが納得してくれるのなら」
菊鞠は凛とした瞳で覚悟を決めると――
「――いいでしょう。やってやります!」
萩子が抱えていたボールを、すっと受け取った。
次の瞬間――。
周囲の空気が、ピン、と張り詰める。
菊鞠は高らかに、その声を張り上げた。
「――ありーやー、ありっ」
「「「!?!?」」」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【(やろうと思えば私――一晩中でも落とさずに続けられちゃうんだけどっ……!?)】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
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