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――システム、オールグリーン。【これより、八々花の処刑を開始します。】

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

「十文字。あなた、背中が煤けているのよ」


 後半戦のキックオフ直前。一文字学園のベンチ前で、監督の哭野竜子が、なんの感情もこもらない低く冷徹な声で告げた。


 その言葉と同時に、ピッチの脇で第四審判が『交代板』を無機質に掲げる。


 ――一文字学園一軍。データ収集フェーズ、終了。

 ――プレイヤー【十文字南】、戦闘貢献度データ不足により除外ディスカード

 ――リザーブ《ハク》白峯ぱいん、エントリー完了。

 ――対・八々花戦術、超攻撃的形態【オフェンシブモード】を起動します。


「なんで……向こうは十文字パイセンを、なんでここで下げるんよっ……!?」


 後半戦のピッチを鋭く見つめていたカスミが、その戦術的な異常さにいち早く気づき、チャッパチュプスをガリッと噛む。

 前半戦、他校のキャプテンとして誇り高く一文字のユニフォームを纏い、ピッチを駆けていた十文字南。だが、ハーフタイムが終わったピッチの上に、彼女の姿はもうない。


 どれほど実力のある一軍の正規プレイヤーであろうとも、配牌(データ収集)という目的を終えた哭野監督にとっては、ただの「不要牌」に過ぎなかったのだ。

 ベンチへと引き上げていく十文字南の背中には、同じ一軍の仲間たちからも、監督からも、一切の労いの言葉すら掛けられない。

 代わりに、死神のように静かにピッチへと滑り込んできたのは、幽霊のように白い肌をした少女――《ハク》白峯ぱいん。


「……神園あそこと同じ。選手をただの数値と効率だけで動かす、吐き気のするシステムね」


 八々花のベンチの底、深く腰掛けたままピッチを睨みつけていた鳳桐子が、低く、刃のように冷たい声で吐き捨てた。

 元・神園の天才ファンタジスタ。人間をパーツとして消費するエリート主義の傲慢に対する、プレイヤーとしての激しい嫌悪に、八々花ベンチの空気が一瞬で引き締まる。


 《白》《發》《中》の三元牌の三人がピッチに並ぶ。

 前半戦で引き尽くしたハッキングデータを元に、八々花をハコテンへと追い込むための、『国士無双システム』の超攻撃的布陣オフェンシブ・シーケンスが、ついにその完全な形を現したのだ。


 ――システム、オールグリーン。【これより、八々花の処刑を開始します。】


ピィーーーーーーッ!!!


 後半戦のホイッスル。それはまるで、終末を告げる喇叭のようでもあった。

 その終末の響きをかき消すように、八々花のキックオフからゲームが動く。


 ワントップの鹿戸椛からちょんと落とされたボールを受け取ったのは、左サイドハーフの猪目萩子だった。


「よっしゃあ! 後半もウチらのサッカーで、一気にブチ抜くじゃん!!」


 前半戦、一文字のディフェンス陣を肉体の強さでなぎ倒した充実感が、彼女の全身を突き動かしていた。

 野生の闘志を剥き出しにした、強引なまでの【暴走特急ドリブル】がピッチの芝生を激しく踏み荒らす。ただ猪のように、真っすぐにゴールへと向かうのみの凶暴な突進が、一文字の右サイドへと猛然と牙を剥いた。


 ――だが、その突撃の進路には、すでに冷徹な壁が静止していた。


 一文字の右ウイング、《チュン》中丸紅緒。

 前半戦、八々花の勢いに押されて静かに佇んでいたはずの彼女は、萩子が最高速へと加速するよりも早く、その一直線に突き進む「突進の軌道上」へと滑らかに先回りしていた。


 中丸紅緒は、萩子の最高速到達時における「左足首のわずか8.2度の傾き」から、その突破ルートをミリ単位で看破していたのだ。

 ――猪目萩子。荷重移動データ、完全同期。

 ――データの網より、解析結果を抽出。【アウトプット完了。】

 ――対象の無力化を開始します。


 ガツッ、と重い肉体衝突の音が響く。

 なぎ倒されるはずの一文字の壁は、1ミリもブレない。中丸紅緒は萩子の突進のパワーを完璧に右肩で受け止めて無力化すると、その足元から、まるで落ちている財布を拾い上げるかのような淡白さで、ノータイムでボールを強奪インターセプトしてみせた。


「ハツミ、スイッチ――飛梅、バックラインの裏を焼きなさい」


 ボールを奪った中丸紅緒が、前線へと冷徹に、短く口頭で指示を飛ばした。


「させませんわ!」


 中丸紅緒が蹴ったボールを、蝶名林牡丹が必死の形修で追う。

 ――だが、そこには。


 萬屋一子。

 サイドバックの一翼として、一文字学園の底に控えていたはずの彼女が、八々花の前線にまで姿を現していたのだ。


 牡丹がスライディングを仕掛けるが、萬屋一子はそれすら完全に予知していたかのように、最小限のトラップで牡丹の滑り込みを紙一重でかわす。

 そして、右サイドからゴール前へ向けてアーリークロスを上げようとする――その刹那、藤乃が完璧なタイミングでその進路を塞ごうと身体を入れる。


 前半戦、執念で一文字の攻撃を封じ続けた絶対的なマンマーク。


 だが――その完璧な足踏みこそが、すでにデータの網に囚われた『罠』だった。

 ――時鳥藤乃。マーク時の重心の偏り、右12度。

 ――データの網より、解析結果を抽出。【アウトプット完了。】

 ――対象の無力化を開始します。


 一子がボールを蹴る直前、ヒールで短く真横へボールを流す。

 そこには、サイドバックだったはずの萬屋玖子が、いつの間にか走り込んできていた。

「――萬屋一子、萬屋玖子。位置情報ポジション同期。

【変則一九スイッチ】」


 左右のサイドバックが、タイムラグゼロの超高速スライドで中央を交差する。

 マークの「癖」を完全に逆手に取られ、進路をバグらされた藤乃は、触ることすらできずに虚空を掴むかのようにフリーズさせられた。

 フリーになった妹・玖子が、今度こそゴール前へとピンポイントの低空高速クロスを供給する。


 その鋭い弾道を、東風飛梅が極上のトラップでその足元へと収めた。


 ――させない。

 東風が前を向くよりも早く、泥をすするような執念の走りでその正面へと滑り込んできたのは、――小梅だ。


「前半だってできました! 後半だって、絶対にウチが止めますっ!!」


 幾度となく一文字の攻撃の芽を摘み取ってきた、意地をかけた絶対的な決死のブロック。

 だが――その完璧な壁の構えこそが、すでにデータの網に囚われた『罠』の枠内だった。


「おきばりやす。それ、前半にもう見たブロックですなぁ?」


 はんなりとした、けれど背筋が凍りつくような京ことばが、小梅の耳元に冷たく吹き付けられた。

 ――鴬塚小梅。正面ブロック時の重心の沈み込み、14.2センチ。

 ――データの網より、解析結果を抽出。【アウトプット完了。】

 ――対象の無力化を開始します。


 小梅が小さな身体を投げ出し、シュートコースを遮断しようとした、まさにそのコンマ数秒前。

 東風は最初から小梅がその角度で滑り込んでくることを予知していたかのように、軸足一つで、鋭くその逆を突くステップを刻んでいた。


「にゃっ――!?」


 前半戦は通用していたはずの執念のブロックを、あざ笑うかのようなステップワークで紙一重でかわされる。

 完全に進路をバグらされ、虚空を薙いだ小梅を置き去りにし、完全にフリーになった東風飛梅の右足が、八々花のゴールに向けて狂暴に振り抜かれた――。


 ドカッ!!!


 スタジアムの空気を引き裂くような爆音が響き、前半のハッキングデータを正確に反映した冷徹な軌道が、八々花のゴール左隅――千鶴の死角ブラインドへと突き刺さる。

 無情にも激しく揺れ動いたゴールネット。


 ――ピッ!!!


 後半開始早々、一文字学園先制。スコア、0-1。


「これが『国士無双システム』の本性や。ウチらの前で、同じ手は二度と通用せぇへんのよ」


 はんなりと微笑む飛梅の横で、膝を突き、芝生を握り締める小梅。


 前半戦の善戦という心地よい夢は、後半開始わずか数分で無残に打ち砕かれた。すべての個性をデータ化され、一歩の踏み込みすらもメタ(無効化)された八々花の少女たちの心に、完全なハコテン(破産)の恐怖が押し寄せていた。


 ――そんなピッチの惨状を、メインスタンドの最上段で見守っていた女性。

 彼女は、ピッチの上で一文字の冷徹なデータの網に必死で抗おうとする八々花のイレブン――特に、道風柳、松明千鶴たち。あるいは、ピッチ際で声を張り上げてチームを鼓舞する鳳桐子の姿を、帽子の影の鋭い瞳で静かに見つめ続けている。


 愛しさと、切なさと、あるいはどこか獰猛な執念を孕んだその視線。

 女性の手の中で、握りしめられたプログラム用紙が、くしゃりと音を立てて歪んだ。


 完全なる蹂躙の盤面。だが、最上段からすべてを見つめるその瞳は、これから八々花を襲う完全な蹂躙と、その先にある本当の絶望の盤面を、すでに冷徹に見据えていた――。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

 後半戦、ついにその本性を現した一文字学園一軍の『国士無双システム』。

 前半戦の確かな手応えすらも、すべては冷徹なデータの罠(配牌)に過ぎなかった。

 飛梅の先制弾によってデータの檻に閉じ込められ、ハコテン寸前まで追い詰められていく八々花イレブン。

 さらにピッチには、芝生の上を滑走する「緑一色」のドリブルと、無機質に「アリ」と請う幽霊の空中蹴鞠が襲いかかる。


 次回、【「――……、アリ。」】


どうぞお楽しみに!――

「一文字のシステム、絶望的すぎる……!」

「スタンドの謎の女性、一体何者なんだ!?」

と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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