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「これ絶対AIのバグか何かでしょ、ウケる!」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

 それは、選手権予選を目前に控えた、ある日の放課後のミーティングでのことだった。


 部室のホワイトボードには、カスミとまつりが仕入れた一文字学園一軍(完全体)の布陣図がずらりと並べられている。だが、部室の空気を完全に氷点下へと叩き落としたのは、ノートPCの画面で再生された、今夏のインターハイでの一文字の試合映像だった。


「みんな、落ち着いて画面を見てほしいんよ……」


 カスミが咥えたチャッパチュプスをピコピコと激しく震わせ、青ざめた顔でディスプレイを指差す。


「ウチらが夏の練習試合の前に裏路地で偵察したあの一文字のデータ……あれ、動きのテンポまで全部『少牌フェイク』だったんよ!」


 その言葉に、前髪の隙間から滑らかに再生される全国大会の激闘を凝視していた桜とあやめが、同時にハッと息を呑んだ。


「……嘘、です。マークの連動のテンポが、あの時と全く違う……っ」


 桜がその場に立ち尽くし、元・絶対王者の冷徹な知性を宿した瞳を戦慄に揺らす。

 あの偵察の際、桜は「神園のシステムに比べたら連動のテンポが一瞬遅い。あのタイミングならパスカットして潰せる」と冷静に対処法を口にしていた。だが、画面の中で恐ろしい速度でパスを回し、流れるように対戦相手を切り裂いていく本物の国士無双システムは、その予測を根底からあざ笑っていた。


「うん。あの時は二軍ベースだったから、ハメ技のテンポが遅くて神園より劣るように見えていただけだったんだよ」


 あやめが自身の小さな手元をぎゅっと握りしめ、ディスプレイの光に照らされながら、実体験に基づいた恐怖を絞り出すように言葉を継ぐ。


「1トップにあの東風飛梅が入り、白峰ぱいんの超合理的システムが絡むだけで、組織のハメ技のテンポが『神園をも凌駕する超高速』に進化してる……。ディフェンスがコースを警戒して一瞬でも重心を後ろに下げたら、一瞬でバイタルエリアをハコテンにされる!」


「待って、これマジでエグすぎっしょ!?」


 まつりがキーボードを叩いて動画を一時停止させ、ギャル特有のハイトーンで騒ぎ立てた。普段から動画の撮影と編集をこなす彼女の動態視力をもってしても、画面の中の動きは不気味そのものだった。


「あーし、戦術とかマジでミリも分かんないけど、この画面のシンクロ率ヤバくない!? 一糸乱れぬダンス動画見てるみたいで、これ絶対AIのバグか何かでしょ、ウケる!」


「そうなんよ、まつりちゃん……っ。それが、この完全体一軍の恐ろしさなんよ」


 カスミが咥えたチャッパチュプスの棒をピコピコピコッと激しく震わせ、データの海から最悪の答えを引っ張り出す。


「練習試合でハットトリックを決めた一竹すずめ先輩は、あの時は一人で暴走するしかなかったから、まだ止めようもあったんよ。でも一軍の完全体は違う。前線の飛梅ちゃんや三元牌が作った『システムのバグ(隙間)』に、すずめ先輩が中盤の底から1ミリの無駄もなく滑り込んでくる。……ウチらの『予測データ』の網を、完全に上回る速度でハメにきとるんよ」


 一瞬にして、部室の空気が氷点下へと凍りつく。あまりの不運。あまりの絶望。練習試合で死闘を演じたあの最強の壁が、進化して最初から自分たちを全力でハコテン(完封)にしにくるのだ。


「……上等じゃねえか。やってやろうじゃん!」


 その静寂を無理やりこじ開けるように吠えたのは、背番号7番・猪目萩子だ。175センチのウルフカットを荒々しく揺らし、拳を握りしめてディスプレイを睨みつける。


「相手がハメ技の弾丸なら、アタシがその前に立ちはだかって、正面から全部ぶち破ってやるよ!」


「居直るんじゃありませんわ、この暴走猪いのししが」


 すかさず冷ややかなツッコミを入れたのは、左右の縦ロールを揺らした牡丹だった。しかし、その端正なお嬢様の額には、うっすらと冷たい汗が滲んでいる。


「貴女、画面の『中(中丸紅緒)』の動きが見えなくて? あの方の直線突破は、貴女の単純なパワーの突進など、最初からすべて計算のうえで無力化ハッキングしてきますわ。同じ一軍として共に全国を制したあの頃よりも、あの方々の合理的な壁は――より冷徹に、完璧に洗練されていますのよ?」


「……っ! んなこと、アタシが一番よく分かってんだよ……っ!」


 かつての黄金期を共に支えた同胞だからこそ、その言葉の重みが容赦なく萩子の胸に突き刺さる。自分たちが一文字を飛び出し、泥臭く八々花の輪を紡いでいたその裏で、かつての古巣は自分たちの想像すら超える速度で『その先』へと進化を遂げていたのだ。


 元・一軍レギュラーとしてのプライドが、そしてかつての仲間たちが放つ底知れない冷徹さが、萩子の拳を悔しそうに、きつく、きつく握りしめさせる。

 部室を支配する、あまりにも重い静寂。誰もがその見えない進化の壁の前に圧倒され、言葉を失いかけたその瞬間――。


「ふっ、のぞむところだよ」


 サラリと、ベリーショートの美しい髪をかき上げながら、不敵で気高き笑みを浮かべたのは、キャプテンの椛だった。172センチの長身から、圧倒的な華が放たれる。


「あの人たちが僕たちのいた頃よりもさらに美しく、完璧な『国士無双システム』へと劇場の舞台を整えたというのなら――僕たちの新しい公式戦の幕開けとして、これ以上面白いお披露目のステージはないだろう?」


「……っ!」


「しがらみを飛び出して、この11人の最高の仲間たちと出会えた。データ?それがどうした!。僕たちの新しい『パス』の旋律で、一文字の冷徹な盤面をめちゃくちゃに狂わせてあげよう! さあ、明日は僕たちの初舞台だ。最高のオープニングアクトを飾ろうじゃないか!」


 椛の気高き劇的な宣言に、部室を包んでいた重苦しい絶望の空気は、一瞬にして爆発的な闘志へと反転した。

 一文字のデータの網がどれほど完璧であろうとも、もう誰も怯えてなどいない。今の彼女たちには、重力を忘れさせるひまりの右足があり、泥臭く信頼を繋ぎ合う『八々花の輪』がある。


 ――そして、運命の公式戦当日の朝がやってくる。

 秋の冷たい風が吹き抜けるピッチの袖で、少女たちはユニフォームの袖を強く引き締め、決戦のホイッスルを静かに待っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

 ついに、冬の選手権の予選が始まる。

 一文字学園の一軍を前に、八々花イレブンの調べは通用するのか!?

 

次回、

【「小梅ちゃあん、来はったよー♪」】

どうぞお楽しみに!


――

「滲み出る、一文字学園の強者感!」

「これもうラスボスだろ」

と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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