「まだ第2幕(後半戦)のプロローグだ。さあ、ボクたちのダンスに、しっっっっかりと惹き込まれておくれ?」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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――ピッ、ピーーーッ!!!
主審のホイッスルが鋭く鳴り響き、八々花のキックオフで運命の後半戦が始まった。
だが、ハーフタイムを終えた八々花イレブンの進撃は、稲ブリの予想を遥かに超越していた。
キックオフと同時に中盤のセンターサークルで優雅にボールを受け取ったのは牡丹。
本物の名門の品格をピッチに漂わせる彼女の右足から、正確無比な一線が放たれる。
そのパスを完璧な位置で引き継いだ満月が、稲ブリのミッドフィルダー陣を翻弄する軽やかなステップで前線へ繋ぎ、最後は劇場型の華やかなスプリントで飛び出してきたキャプテンの鹿戸椛へとボールが託された。
「まだ第2幕(後半戦)のプロローグだ。さあ、ボクたちのダンスに、しっっっっかりと惹き込まれておくれ?」
後半開始わずか数十秒。
稲ブリのディフェンス陣が触れることすらできない完璧な和の旋律の果てに、椛が宝塚のトップスターを思わせるキザで不敵な笑みを浮かべ、その右足を一閃する。
放たれた鮮烈なシュートは、稲ブリのゴールキーパーの手を弾き飛ばし、ゴールネットを木っ端微塵に揺らした。
スコアは「2-0」。
後半が始まった瞬間に突きつけられた、あまりにも次元の違う格の違いに、稲ブリの陣営は完全に凍りついた。
静まり返るピッチの真ん中で、椛はゆっくりと稲ブリのベンチ、そして驚愕に顔を歪める目白智以子の方へと向き直る。
そして、宝塚のトップスターを思わせる流麗な仕草で、片足をスッと後ろに引き、胸元に優雅に手を当てると、まるで満員の劇場からの大喝采を浴びるかのように、完璧な美しさで深く一礼をしてみせた。
その指先一つにいたるまで洗練された佇まいは、ここが泥臭い土のグラウンドであることを一瞬で忘れさせ、格式高い大劇場のセンターへとピッチを塗り替えていく。
「な……ッ!? 嘘よ、アタクシたちの完璧なダンスが、どうして……っ!?」
自分が使った高慢なセリフも、お上品ぶったプライドも、本物のトップスターの気高いカーテンコールの前に完全に上書きされ、目白智以子は屈辱に顔を真っ赤に染めて激しく取り乱した。
――ピッ。
点を取られた稲ブリのキックオフで、再び試合が再開される。
「おのれおのれおのれおのれ!!」
完璧だったはずのアタクシのシステムを土足で踏みにじられ、智以子は焦りと怒りを露にし、怨嗟の言葉を吐き出す。その綺麗に整えられていたはずの顔は、屈辱で醜く引き歪んでいた。
「こうなったら、あの忌々しい壁(小梅)だけでも壊してあげないと、アタクシの気が収まりませんわ!」
――ピッ。
点を取られた稲ブリのキックオフで、再び試合が再開される。
ボールが後ろに下がったその瞬間、理性を完全に失った智以子は、ボールを強引に引き取ると、物凄い形相で小梅の守る左サイドへと一直線に突っ込んできた。
それはサッカーの進撃などではなく、ただの私怨による暴力的な特攻(ハメ殺し)だった。
「砕け散りなさいな、このお遊び同好会がァッ!!」
マッチアップの瞬間、智以子はありったけの殺意を乗せた『壁当て(チェイン・バウンド)』の弾丸ライナーを、至近距離から小梅の身体に向けて思い切り叩きつけた。
――ドガッ!!!
ピッチに鋭い破壊音が響き渡る。智以子は今度こそ、その小さな身体が激痛に這いつくばるのを確信し、歪んだ笑みを浮かべた。
はずだった。
「…………え?」
智以子は、我が目を疑った。
激突の瞬間、小梅の身体から完全に『芯』が抜けたのだ。
迫る弾丸の恐怖のド真ん中で、小梅の脳裏にはハーフタイムのひまりのあの謎のアドバイス、そして夏休みに主水たちのあのデタラメな悪球を受け続けた地獄の特訓の記憶が、一本の美しい線となってフラッシュバックしていた。
(そうか……! ぶつかる瞬間に、ふわり、と、力を抜く。うちが硬い壁になろうとするから、あの人の思うツボだった……っ!)
衝撃を『すんっ』とすべて無力化する、極上の【脱力トラップ(エコモード)】。
骨で跳ね返って智以子のもとへ戻るはずだったボールは、小梅の肉体に勢いを完全に殺され、智以子が緻密に計算していた完璧なリバウンドコースから不自然にズレて、誰もいない空間へとふわりと優雅に浮き上がった。
「な……ッ!? アタクシの物理演算が、狂っ……っ!?」
完璧だったはずのハメ技を、ただの『肉体の脱力』だけで完全に無力化され、智以子が驚愕に目を剥く。慌ててその浮いたルーズボールを追い、手を伸ばそうとした――まさに、その刹那だった。
どぎつい蛍光ピンクの視界のド真ん中、誰もいないはずだった空間に、濃緑に黒と赤の重ね衿を揺らした少女が、滑り込むような気配すらなく、舞うように入った。
神酒盃菊鞠。
「おうっ」
――ふわり。
凛とした気高い請い声が響くと同時に、ひまりはまるで境内の桜の木の下で舞うように、無音でその浮遊球の軌道へと滑り込んだ。
智以子の目の前で、重力を失ったかのようにボールがひまりの右足の甲へと吸い付いていく。
「ようっ」
――とんっ。
稲ブリのフォワードが慌てて奪い取ろうと足を伸ばすよりも速く、ひまりはさらに声を重ね、その右足を小さく跳ね上げて右膝でボールを優しく掬い上げた。
蹴鞠のルールに従い、左足に触れさせることはない。完全に右足一本の雅なコントロールだけで、迫る敵を軽やかにいなしていく。
「ありっ!!!」
――しゅっ!!!
仲間への確かな合図となる気高い請い声と同時に、ひまりの右足一閃から放たれたボールは。
稲ブリのすべての包囲網を嘲笑うように、大好きな仲間である中盤の椛、配置された楓へと繋がる美しい黄金比率の旋律(高速パス)へと姿を変えて、ピッチの向こうに、しゅるっと消え去っていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
菊鞠のおもてなしのパスが、稲ブリの陣地へと飛翔する。
それを受けるのは――!?
次回、
【「おう、見とったわ、小梅ェ! 小梅は僕の自慢の、最高の相棒やわ!」】
どうぞお楽しみに!
――
「ふわり、とん、しゅっって、そういうことかw」
「いや菊鞠のアドバイスw」
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