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「小梅さん、あの目白さんのボールですが、『ふわり、とん、しゅっ!』 です」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

ハーフタイムを迎え、ピッチへと戻るイレブンを迎えるのはマネージャーのまつりとカスミ。


「みんな、お疲れっしょ~!!特にしょこたんの爆裂シュート、マジあげじゃん!!」


「いやいや、その前に、あのえげつないチェイン・バウンドに耐えたディフェンス陣がグッジョブなんよ!」


 二人が差し出す冷たいスポーツドリンクやタオルを受け取りながら、「一文字の仁野並みの下品ダンス」で牡丹にお説教されていた萩子も「へへん、見たか稲ブリィ!」とニカッと白い歯を見せる。

 点数上は1-0。前半をリードで折り返した八々花のベンチ前には、確かな勝機と笑顔の輪が広がっていた。


 ――だが、その歓喜の輪の少し後ろ。

 冷えたドリンクを受け取ることもせず、自らのスパイクと土のグラウンドを凝視したまま、ぽつりと一人だけで立ち尽くす少女がいた。


「……っ、う……、うう……っ」


 左サイドバックの小梅は、溢れ出そうになる涙を必死に堪えて、両肩を小さく震わせていた。

 試合中、仲間たちのタフな言葉に背中を押され、足を引っ張るまいと必死に張り詰めていた強がりの糸が、ハーフタイムという静寂の中でプツンと切れてしまったのだ。


 カスミはディフェンス陣がグッジョブだと言ってくれた。

 けれど、自分のサイドをズタズタに崩され、カバーに入ってくれた桜の胸に弾丸を突き刺し、自分を護ろうとした藤乃の太ももを泥塗れにさせてしまったという『罪悪感』が、孤独な劇薬となって小梅の心を深く、深く沈み込ませていく。


(うち、何もできなかった……。うちが『壁』にされただけで、うちのせいで皆があんな痛い目に遭ったのに、うちだけみんなの笑顔の輪に入る資格なんて……ない……っ)


 頭のてっぺんのアホ毛は、中学時代のトラウマと激しい自己嫌悪に完全に押し潰され、力なくしょんぼりと萎びてしまっていた。

 その絶望のド真ん中へ、泥だらけの太ももの痛みを堪えながら、藤乃が猛然と歩み寄る――。


「……っ、う……、うう……っ」


 小梅が自分のふがいなさへの罪悪感に押しつぶされ、涙の向こうに自分の世界を閉ざしかけていた、その時だった。


「――梅。小梅!」


 激しい耳鳴りの向こうから、聞き馴染んだ幼馴染の声が、閉ざした心の壁を突き破るようにして飛び込んできた。

 けれど、今の小梅には顔を上げるだけの気力すら残っていない。


「ハァ。」


 溜息を一つつくと、藤乃は両手で小梅の頬を掴み、強引にその顔を上へと向けさせる。


「?はぇ?」


 涙で(にじ)む視界のド真ん中に、誰よりも真っ直ぐな藤乃の瞳が映り込んだ――と、思った次の瞬間だった。


 ――ガツッ!!


「――ふにゅううううっ!!」


 激しい衝撃と共に、お互いのおでこが至近距離で派手な音を立てて激突した。

 小梅が涙目で鼻頭を真っ赤にしながら、おでこの痛みに悶絶する。


「――痛ゥ! ……いや。……小梅、お前、ウジウジ下向いとる場合か!」


 自分もおでこを押さえながら、しかし藤乃の眼差しはすぐに、逃げ場をなくすほどの真剣な光を宿した。


「……藤乃、ちゃん」


「見てたやろ! あのいけ好かないメジロのクソボールなんざ、なんも効かへんやん!」


 藤乃は、先ほど弾き飛ばされたシュートの軌跡をなぞるように、泥のついた親指で自陣のゴールマウスを指し示す。


「で、でも……」


「デモもヘチマもあるかボケ! 自分はな、小梅がよぉ頑張ってるのを知ってる。ここにいる誰もが、小梅を認めとる。あんなクソメジロの悪口のほうを信じるんか?」


 小梅の小さな両肩をがっちりと掴み、藤乃はその魂を揺さぶるように、激しい熱量で言葉を叩き込んでいく。


「小梅が、小梅自身を信じられへんのやったら、ボク()を信じぃ!小梅を信じる、ボク()を信じぃ!!」


 真夏のじっとりとした空気の中、幼馴染の叫びがピッチサイドに痛烈に響き渡った。

 おでこに残るジーンとした痛み。そして、両肩から伝わってくる、泥臭くて誰よりも温かい絶対的な信頼。


 その瞬間、小梅の胸の奥で(くすぶ)っていた鴨端中時代のトラウマ(呪縛)が、音を立ててバキバキに砕け散っていった。

 恐怖に力なく(しなび)びかけていた頭のてっぺんのアホ毛が、敵をハメ殺すための冷徹なディフェンダーのレーダーとして、ピンと力強く完全覚醒を果たす。


 小梅は涙をグッと拭うと、至近距離にある藤乃の顔を、呆然と、けれどどこか嬉しそうに見つめた。


「藤乃ちゃん……いま、()()って……」


「あー、ついカッとなって出てもうた。アカン、恥ずいわ」


 小梅の指摘に、藤乃はハッと我に返ったように両頬からパッと手を離すと、耳まで真っ赤に染めてバツ悪そうに頭を掻いた。いつものぶっきらぼうな「自分」ではなく、小梅の前でしか出ないはずの「()()」という一人称が、熱さのあまりピッチの上で漏れ出てしまったのだ。


「あはは。相変わらず熱いねぇ、二人は」


 そんな幼馴染の愛らしいやり取りを見つめながら、自身の前髪を無造作にかき上げて歩み寄ってきたのは桐子だった。


「でも、小梅。無理をすることはないよ。アタシのこの身体だって、5分くらいならまだ全力で動かせる。――交代しようか?」


「――いえ。大丈夫、です。行けます。行きます!」


 自分の心に赤く(おこ)った火を確認するかのように胸に手を置くと、小梅は桐子の目を見て、力強く答えた。

 言葉の中に宿る、迷いのない確かな強者としての響き。

 その頼もしい眼差しを見届けた桐子は、フッと満足げに口元を緩め、不敵な笑みを浮かべた。


「あはは。良い目になったね、小梅。……よし、それじゃあ後半戦、あのどぎついピンクの鼻柱を、今度こそ木っ端微塵にへし折ってやろうじゃないか!」


「おーーっ!!!」と守備陣が拳を握りしめる中、それまで静かに微笑んでいたひまりが、おっとりとした歩調で小梅の隣へと滑り込んできた。


「小梅さん、あの目白さんのボールですが、『ふわり、とん、しゅっ!』 です」


「…………えっ?」


 あまりにも感覚的すぎる謎のアドバイスに、小梅の思考がピタッと停止した。頭のてっぺんのアホ毛までが疑問符の形にぐにゃりと曲がり、完全に宇宙猫のようなフリーズ状態に陥ってしまう。


 そんな小梅の横で、藤乃が眉をひそめてすかさずツッコミを入れにいった。


「菊鞠、アンタ、実は教え方ヘタクソやろ!」


「そんなことはありませんよ! 私、譲二さんや主水さんにもこれで教えてますから!」


「よけい説得力のォなったわ!」


 ひまりの胸を張った堂々たる弁明に、藤乃の鋭い一喝がベンチに響き渡る。そのあまりにもいつも通りの賑やかな掛け合いに、緊張の糸が小気味よく解けたイレブンの顔に、今度こそ本物の不敵な笑みが戻った。


(う、うち、何一つ理解できなかったけど……。でも、藤乃ちゃんが言う通り、あんな目白さんの悪口なんかより、菊鞠さんの意味不明な言葉のほうが、何百倍も安心する!)


 キャプテンマークを腕に巻き直した椛が、不敵な笑みを浮かべてイレブンへ右拳を突き出す。


八々花(はやつか)ァーーー!」


「「「「「ファイッ!!」」」」」



――ピッ、ピーーーッ!!!


 他校から派遣された主審の正規のホイッスルが、再び真夏の青空に鳴り響いた。

 ハーフタイムが明け、運命の後半戦が今ここに幕を開ける。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

 小梅の心を奮い立たせた藤乃。

 そして、八々花イレブンは後半戦屁と挑む。 

 

次回、

【「まだ第2幕(後半)のプロローグだ。さあ、ボクたちのダンスに、しっっっっかりと惹き込まれておくれ?」】

どうぞお楽しみに!


――

「いや、それグレンラガンw」

「カミナの兄貴ィ!」

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