「自分も、あんなナヨッちぃ球、屁でもないわ!」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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「汚い! さすが稲ブリ汚いんよ!! サッカーのルールをハメ技の道具にするなんて、やってることがゲロ吐くほど下品じゃんね!!」
タッチラインの外側、八々花のベンチ前で、カスミが手にしたスコアブックを激しく震わせながら怒りを爆発させていた。
他校から招聘された主審は、稲ブリの意図的な肉体へのぶつけ合いを「正当なボディコンタクトの範囲内」とみなして笛を吹かない。
ルール上は合法、しかし精神性はあまりにも卑劣。その不条理に対するマネージャーとしての純粋な憤怒が、真夏のピッチサイドに響き渡る。
だが、その声さえも、八々花の自陣ペナルティエリア内に漂う重苦しい沈黙を打ち破るには至らなかった。
「……っ、う……、うう……っ」
土のグラウンドに膝をついたまま、左サイドバックの鴬塚小梅は、溢れ出そうになる涙を必死に堪えて肩を震わせていた。
右膝への確かな激痛。けれど、それ以上に小梅の心をズタズタに引き裂いていたのは、凄まじい罪悪感だった。
自分のせいで、カバーに入ってくれた桜さんの胸に強烈な弾丸が突き刺さり、自分を護ろうとしてくれた藤乃までが太ももを撃ち抜かれて泥塗れになって倒れ込んでいる。
(うちのせいだ……。うちが、あの人の言う通り『壁』にしかならないから、みんなまであんな酷い目にっ……)
頭のアホ毛は、過去のトラウマと激しい自己嫌悪に押し潰され、完全に力なくしょんぼりと萎びてしまっていた。
「……おい。桜、藤乃。立てるか?」
上空へと弾き返したボールが完全にタッチラインを割るのを見届け、白いキーパーユニフォームをまとった不動の守護神・松明千鶴が、鋭く力強い声をバックラインへと響かせた。
「ケホッ。――大丈夫です、ちづさん。こんなの、神園のスパルタ練習に比べたら大したことないですよ」
胸元を軽く手で押さえ、少しよろめきながらも土のグラウンドから立ち上がったのは桜だった。
長い前髪の奥の瞳には、怯えなど一ミリも存在しない。冷徹なまでの元エリートの意地が、静かに炎を燃やしていた。
「自分も、あんなナヨッちぃ球、屁でもないわ!」
すかさず藤乃が泥だらけの太ももをパチンと叩き、凄まじい眼光で稲ブリの陣営を睨みつけながら吠えた。
激痛などその強靭なメンタルとフィジカルで強引にねじ伏せ、闘志をさらに燃え上がらせる。
二人のその不敵な佇まいに、千鶴は「フッ……」と満足げに口元を緩めた。
だが、頼もしい先輩たちの言葉を聞けば聞くほど、その背後で立ち尽くす小梅の胸には、言葉にならない罪悪感が重くのしかかっていく――。
(みんなあんなに強いのに、うちだけが足引っ張ったら絶対にあかん。弱音なんか、今は絶対に吐かれへん……っ)
小梅はぎゅっと拳を握りしめ、不安を押し殺すようにピンと張り詰めさせて、必死に虚勢を張って再びピッチへ視線を戻した。
その八々花ディフェンス陣の意地の踏ん張りが、前線で最高の形で結実する。
――ピピーッ!!!
激しい肉弾戦の最中、ピッチに鋭く鳴り響いた主審のホイッスル。
カウンターから一気に前線へと供給されたボールを、がむしゃらに走って追いついた萩子が稲ブリのディフェンスごと泥臭く押し込んだのだ。
「よっっっしゃあああああああああああ!! 先制点どおだあああああああああ!!」
どうやら萩子がゴールを決めたらしい。
千鶴が上空へ弾き飛ばしたボールを、中盤が一線のロングパスに変えて前線へ供給し、それを信じて走っていた萩子が稲ブリのディフェンスごと泥臭く押し込んだのだ。
萩子は稲ブリのベンチ前にわざわざ爆走していくと、片手を耳に当て、もう片方の手で智以子を指差しながら、クネクネと下品に腰を躍らせる最低最悪の挑発ダンスを披露し始めた。
「おいおいおいおい稲ブリィちゅわあぁぁぁん!? アテクシたちを惹きたてる~ダンスのパァトナァはどうちたんでちゅか~! ほれほれもっと踊りまちょか~!!」
「な……ッ!? なんて下品な……っ! アタクシたちの完璧なシステムが、あんな泥臭い野蛮人に破られるなんて……!?」
ハリボテのお上品さをこれ以上ないほど最低な形で嘲笑われ、智以子は驚愕と屈辱に顔を真っ赤に染めて激しく取り乱した。
「萩子さん!!! 一文字学園の仁野さんのような、品性を疑われるパフォーマンスは自重なさい!!! 本当に汚らしい!!!」
自陣のディフェンダーラインから、牡丹が白いハンカチで口元を覆いながら、ピッチ全体に響き渡るような気高いお説教の声を張り上げた。
あまりの怒鳴られっぷりに、萩子は「げえっ、牡丹!?」と一瞬でロボットのように動きを止め、両手を上げて固まる。
――ピピィーーー、ピッ、ピッ!!!
グラウンド中央で、他校から招聘された主審の正規の前半終了ホイッスルが真夏の青空に鳴り響いた。
前半戦終了。スコアは「1-0」。八々花のリード。
「あはは! はぎっち、ナイスゴールじゃんね! 稲ブリのあのキメ顔アイコンの女、今にも泡吹いて倒れそうな顔してるんよ!」
ベンチ前でカスミが嬉しそうに冷たいスポーツドリンクを配り、キャプテンの椛や楓たちが「よくあの防戦一方から一本沈めたな!」と、笑顔で萩子の肩を叩きながらハーフタイムの輪を作っていく。
そんな、先制点に沸き立つ八々花ベンチの歓喜の輪。
――そこからぽつりと一人だけ外れて、自陣の土を凝視したまま立ち尽くす少女がいた。
「……っ、う……、うう……っ」
左サイドバックの小梅は、溢れ出そうになる涙を必死に堪えて、両肩を小さく震わせていた。
試合中、仲間たちのタフな言葉に背中を押され、足を引っ張るまいと必死に張り詰めていた強がりの糸が、ハーフタイムという静寂の中でプツンと切れてしまったのだ。
点数の上では勝っている。みんなは本当に強くて格好良い。
だからこそ、自分のサイドをズタズタに崩され、カバーに入ってくれた桜さんの胸に弾丸を突き刺し、自分を護ろうとした藤乃の太ももを泥塗れにさせてしまったという『罪悪感』が、孤独な劇薬となって小梅の心を深く、深く沈み込ませていく。
(うちは何もできなかった……。うちが『壁』にされただけで、うちのせいで藤乃ちゃんたちがあんな痛い目に遭ったのに、うちだけみんなの笑顔の輪に入る資格なんて……ない……っ)
頭のてっぺんのアホ毛は、中学時代のトラウマと激しい自己嫌悪に完全に押し潰され、力なくしょんぼりと萎びてしまっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
先制点を取ってハーフタイムを迎え、色めき立つ八々花イレブン。
しかしただ一人、小梅だけは浮かない顔でベンチへと戻るのだった。
次回、
【「小梅さん、あの目白さんのボールですが、『ふわり、とん、しゅっ!』 です」】
どうぞお楽しみに!
――
「萩子、煽りすぎwww」
「徹底的にザマァしてくれ」
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