「アハッ。相変わらず良い角度で跳ね返してくれるわね、小梅さん。貴女って本当――最高の『壁』だわァ」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
https://ncode.syosetu.com/n7086km/58
主審の手によって高々と投げ上げられたコインが、夏の強烈な陽光を反射して、土のグラウンドへとパチリと落ちた。
コイントスの結果、稲田ブリリアント女学院の先攻――すなわち、稲ブリ側のキックオフで試合が始まることとなった。
「それじゃあ小梅さん。アタクシたちをしっっっっかりと惹きたてるよう、ダンスのパートナー、よろしくお願いしますわね?」
自陣のセンターサークルへと歩きながら、目白智以子が毒々しく輝く蛍光ピンクの背番号10番を揺らし、振り返りざまにそう言い放った。
対する八々花の左サイドバック、小梅はぎゅっと拳を握りしめ、言葉を呑み込んで定位置につく。その頭上のアホ毛は、不安を押し殺すようにピンと張り詰めていた。
――ピッ、ピーーーッ!!!
他校から招聘された公式主審のホイッスルが、夏の青空を切り裂いて鋭く鳴り響いた。 前半戦、キックオフ。
稲ブリのFWが、センターサークルからちょんとボールを後ろへ下げる。
ゆっくりと回り始めたボールが、ハーフウェイラインの手前で待ち構えていた目白智以子の足元へと収まった。
試合開始の瞬間。
普通なら、前線のスペースへロングボールを放り込むか、中盤の手堅いパス回しから様子を見る場面だ。
しかし、智以子は違った。ボールをトラップしたその瞬間、アタクシの独壇場だと言わんばかりの傲慢な薄笑いを浮かべると、一直線に小梅の守る左サイドへと、どぎついスプリントを開始したのだ。
「さあ、お遊びの同好会様ァ! 本物のサッカーをお上品に躾けて差し上げますわァ!」
毒々しい蛍光ピンクの嵐が、小梅の目の前へと迫る。
恐怖に足が竦みそうになるのを必死に堪え、小梅はおでこを出した凛々しい顔を上げ、アホ毛をピンと張り詰めさせて泥臭く身構えた。
(うちが、みんなの足を引っ張るわけにはいかない……! ここで、絶対に止めなきゃっ……!)
だが、智以子の狙いは、小梅をドリブルで抜き去ることではなかった。
マッチアップの瞬間。智以子は小梅の目前でピタッとステップを緩めると、お上品な仮面の奥の瞳を冷酷に細めた。
――ドガッ!!!
「ひゃいっ……!?」
至近距離から放たれた、容赦のない強烈な弾丸ライナー。
それは小梅のディフェンスを破るためのパスでもシュートでもなく、小梅の「右膝の硬い骨」を狙って意図的にへこまされた、あまりにも悪質な『壁当て』だった。
硬いボールが容赦なく膝を打ち抜く、鈍い衝撃と激痛。
物理演算の障害物のように、小梅の身体で綺麗に角度を変えて弾んだボールを、智以子は当然のように、あらかじめ予測していた最高のリバウンドコースで難なく自らの足元へと回収する。
「アハッ。相変わらず良い角度で跳ね返してくれるわね、小梅さん。貴女って本当――最高の『壁』だわァ」
体勢を崩され、激痛に顔を歪める小梅を嘲笑いながら、智以子はスピードを緩めることすらなく、完全に無力化された左サイドを悠々と突破していく。
肉体への確かな痛み。そして何より、中学時代の鴨端中でのあの冷酷な言葉がリアルタイムでフラッシュバックし、小梅の頭の上で健気に強がっていたアホ毛が、恐怖と絶望に一瞬にして「――っ、あ……」と力なくしょんぼりとヘコんでしまった。
「――小梅さんっ、そこを動かないで!」
突破された左サイドのスペースを埋めるべく、センターバックの桜が、音もなく疾走して智以子のドリブルコースへと鋭く先回りした。
神園学園出身の桜にとって、リバウンド(跳ね返り)の軌道を予測して先回りするなど造作もない。長い前髪の奥の瞳が、智以子の足元にあるボールを完璧に捕捉する。
(このまま、パスカットする――!)
「アハッ、やっぱり来たわね神園のセンターバックさァん! でもアタクシの計算は、貴女の予測のさらにその先を行っていてよ!」
マッチアップの瞬間。智以子はボールを奪いにきた桜の静止を嘲笑うように、自ら桜の身体へと激しく突っ込んだ。
――そして、至近距離から桜の『胸元』へと、弾丸のような強烈なインステップキックを叩き込んだのだ。
――ドゴッ!!!
「っ……、く……!?」
パスでもシュートでもない。ただ人間の肉体にボールを激突させるためだけの、無慈悲な衝撃。
桜がそのあまりの痛みに息を詰め、わずかに上半身を仰け反らせた瞬間。
物理演算の障害物と化した桜の胸で跳ね返ったボールを、智以子は当然のように最高のリバウンドコースで回収し、そのまま桜をも置き去りにしてペナルティエリアへと侵入していく。
「あははは! 素晴らしいわァ、さすが神園出身! 跳ね返りの弾性まで上等ですこと!」
「な、何やあのクソアマ……っ! パスやなくて、最初から桜の体にぶつけにいっとるんか!?」
その異質で悪質なハメ技の全貌をピッチ上で目撃し、サイドバックの藤乃の顔が怒りで怒涛の如く赤く染まる。
「上等や、小梅と桜を道具にしやがって……! 泥に塗れて這いつくばるのがどっちか、そのどぎついピンクのツラに教えたるわ!!」
キックオフからわずか数分。桜を抜いてゴール前へ迫る智以子に対し、藤乃が「今度こそ逃がさんぞワレェ!」とカバーのため猛然とスライディングタックルを敢行しようと距離を詰めた、その刹那。
「あら、そんなにアタクシに触れたいのかしらァ? だったら――そこが貴女の、新しい特等席(壁)よォ!」
智以子は今度は、藤乃が滑り込んでくる『太もも』の硬い骨へと、容赦なく全力の弾丸ライナーをぶち当てた。
――バシィィィンッ!!!
「ガッ……!? 痛っ、つぅ……っ!?」
藤乃の屈強な太ももを撃ち抜いたボールは、角度を変えて稲ブリのフォワードの足元へと綺麗に跳ね返る。 敵の肉体すらも「角度を変えるための壁」として利用する、完全なるチェイン・バウンド。
「キャハハッ! 筋肉質だから、よく弾んで最高だわァ。や、ば、ん、じ、ん、さんッ!」
激痛に顔を歪めて土のグラウンドを転がる藤乃をこれみよがしに見下しながら、智以子は楽しげな笑い声を響かせ、跳ね返ったボールを再び受け取って八々花のゴールマウスへと肉薄していく。
小梅がハメられ、桜の予測が肉体言語の暴力で破られ、執念の藤乃すらも壁にされた。
キックオフからわずか五分。稲ブリの圧倒的な『エゴシステム』の前に、八々花のバックラインは一瞬にして崩壊し、智以子は完全にフリーの状態でペナルティエリアへと侵入した。
「これで終わりですわァ、お遊びの同好会様ァッ!!」
お上品な仮面をかなぐり捨て、智以子が右足を一閃する。 放たれたのは、毒々しい蛍光ピンクの怨念を乗せたかのような、ゴールネットを揺らすためだけの強烈な弾丸シュート。
誰もが「決まった」と息を呑んだ、その刹那――。
「――ハッ。神園の落ちこぼれの、さらに劣化コピーが放つガラクタシュートが、この俺のゴールを破れるとでも思ったか?」
どっしりと、地響きを立てるかのような威風堂々たる佇まいで、白いキーパーユニフォームをまとった千鶴がその大砲の前に立ち塞がっていた。
その瞳に宿るのは、どぎついピンクの虚飾を焼き焦がさんとばかりに、圧倒的な野生の炎。
千鶴は恐怖など一ミリも浮かべることなく、眼前に迫る弾丸ライナーに対し、守護神の矜持――剥き出しの『修羅』の気迫で両腕を突き出した。
――ガァァァンッ!!!
肉体とボールが激突する、凄まじい破壊音がピッチに響き渡る。
智以子がドヤ顔で放った渾身のシュートは、千鶴の分厚いキーパーグローブによって完全に、そして無慈悲に上空へと弾き飛ばされ、そのままタッチラインの外へと転がっていった。
「な、何ですってえええぇぇぇ……!?」
完璧だったはずの物理演算を完膚なきまでに叩き潰され、智以子は信じられないものを見たかのように、驚愕に目を剥いて激しく取り乱した。
危機は脱した。しかし、ボールを弾き返した千鶴の背後、八々花の自陣のピッチには、肉体の激痛と過去のトラウマに囚われた、重苦しい絶望の沈黙が未だに立ち込めていた――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
稲ブリの目白智以子による悪質なチェイン・バウンドにより、八々花ディフェンス陣が崩れかける。
そんな中、萩子が――。
次回、
【「自分も、あんなナヨッちぃ球、屁でもないわ!」】
どうぞお楽しみに!
――
「一文字の仁野の再来w」
「ざまぁ展開はよ(バンバン!)」
と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




