「桐子さんの怪我を嗤いましたね……。――いいですよ、その安いプライドごと、桜の樹の下に埋めてあげます」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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燦々と照りつける夏の太陽が、八々花女子高校のグラウンドを容赦なく灼いていた。
新設されたばかりの我が女子サッカー同好会に、正規のサッカー場などあるはずもない。
他部活の隙間を縫うようにして確保した土のグラウンドには、あちこちに泥が剥き出しの凹凸があり、用意されたゴールも折りたたみ式の心もとないものだった。
そんな手狭なピッチの向こうから、砂埃を揺らしてやってきたのは、事前情報の通り、目がチカチカするほどにどぎついピンク色のユニフォームに身を包んだ、稲田ブリリアント女学院のイレブンだった。
試合前の整列と挨拶のために、両チームがピッチ中央で対面する。
稲ブリの先頭に立つ背番号10番――あの、自意識過剰な自撮りアイコンそのもののキメ顔をした少女、目白智以子が、周囲の不十分な設備をこれ見よがしに見回し、お上品ぶった薄笑いを浮かべた。
「あらあら、随分と……『かわいらしい』グラウンドですこと。ラインも歪んでいますし、このような泥臭い場所でサッカーをされていて、怪我でもなさいませんの?」
――クスクス。
ハンカチで小さく口元を覆いながら、わざとらしくため息をつく智以子と、それに追従するように嘲笑する稲ブリのイレブン。
そして、智以子はその視線を真っ直ぐに小梅へとロックオンした。
「ご無沙汰かしら、小梅さん。高校でお遊びの同好会に拾われたって聞いたから、アタシの新しいシュートを身体で止めてもらうために、わざわざこんな辺境まで出向いてあげたわ。今日も素晴らしい角度で跳ね返る『壁』になってちょうだいね?」
智以子はそう言って、隠しきれない悪意を乗せたクスクスという高い笑い声を漏らした。
「っ……!」
リアルに突きつけられた過去のトラウマに、小梅の身体がビクンと強張る。ぎゅっと拳を握りしめ、唇を噛んで下を向いてしまう小梅の頭の上で、アホ毛が恐怖に細かく震え出した。
その瞬間、小梅の前に猛然と立ちはだかり、智以子をドスの利いた目で睨みつけたのは藤乃だった。
「おいクソアマ。さっきから聞いてりゃお上品な口調でゴチャゴチャとやかましいんじゃ。スマホの加工画面と実物のブスさ加減が一緒で安心したわ。うちの小梅をこれ以上『壁』呼ばわりしてみぃ、そのどぎついピンクのツラ、ボールごとゴールネットに叩き込んでやるからな!」
「あらあら。これだから野蛮人は嫌ですわ。お遊びの同好会には、まともな言葉遣いのできる人間もいらっしゃらないのかしら?」
「試合が始まったら、そんな泥臭い威勢の良さも、アタクシのシュートの前にすぐ鳴りを潜めることになるでしょうけれど」
藤乃の凄まじい気迫に一瞬だけ身を引いたものの、智以子はすぐに冷たい薄笑いを取り戻し、肩をすくめて見せた。
そこへ、一歩前に歩み出、左右の縦ロールを気高く揺らしながら、智以子を憐れむように見下ろしたのが牡丹。
「――まともな言葉遣い、ですって? 相手を『壁』などとモノ扱いするそのさもしい精神性から零れ落ちた言葉を、お上品と勘違いしていらっしゃるなんて。随分と、下品で耳障りな日本語ですこと」
「な、何ですって……!?」
本物の名門の品格によって、ハリボテのお上品マウントを完膚なきまでに叩き潰され、智以子は屈辱に顔を真っ赤に染めて激昂した。
「まぁまぁ、そこまでにしときなよ牡丹。神園の落ちこぼれがネットにでも流したゴミみたいな技術を、必死にありがたがってシステム化しちゃった勘違い女王様なんだからさ」
自身の前髪を無造作にかき上げながら、鼻で笑うように言い放ったのは鳳桐子だった。智以子の顔を完全に視界の外の雑魚として切り捨てる。
智以子は桐子の顔を凝視し、一瞬目を見開いた後、ネットのデマから得た不正確な知識を誇るようにニチャァ……と最悪な笑みを浮かべた。
「……あら? 誰かと思えば、神園学園の鳳桐子さんじゃありませんの。――でも、確かあなた、足の靭帯をやらかして半ば引退に追い込まれた、哀れな『壊れかけの天才』でしたわね? そんな落ちぶれたお方が、なんでこんな辺境の泥臭い同好会に混ざっていらっしゃるのかしら? アタクシの新しいシュートの、良い引き立て役になってくださるかしらね?」
(靭帯……? は? この馬鹿、何一つ本当のことを知らないくせに、ネットのデマに踊らされてドヤ顔してやがる……)
桐子の内心の呆れを代弁するかのように、白いキーパーユニフォームをまとった千鶴が、どっしりと桐子の前に立ちはだかった。その瞳からは、どぎついピンクを焦がさんとばかりに、圧倒的な炎が放たれているかのようだ。
「――おい。今、なんて言った?」
さらに、その背後から長い前髪の奥の瞳を完全に消した桜が、這い寄るような冷徹な威圧感を放ちながら吐き捨てるように告げた。
「桐子さんの怪我を嗤いましたね……。――いいですよ、その安いプライドごと、桜の樹の下に埋めてあげます」
その隣では、菊鞠がにこにこ笑顔のまま、瞳の光の消えた笑顔で、背後の修羅の業火を三倍に膨らませて静かに佇んでいた。
――ピッ、ピーーーッ!!!
重苦しい一触即発の空気を切り裂くように、ピッチ中央から鋭いホイッスルが鳴り響いた。
八々花の顧問の先生が、この日のために他校へわざわざ依頼して招聘した、公式ライセンスを持つ本物の主審の一喝だった。
「そこまでだ、両チーム! 挨拶代わりとばかりに随分とバチバチやっているようだが、お喋りはそこまでにして整列しろ! ここからは口じゃなく、ルールに則ったボール捌きで語ってもらうぞ!」
中立な大人の審判による厳格な制止に、智以子は一瞬、そのお高くとまったキメ顔を醜く歪ませ、「チッ……」と小さく舌打ちを漏らした。
だが、すぐに何事もなかったかのように再びお上品な仮面を貼り直すと、八々花イレブンへ向けて傲慢に背を向ける。
「それでは小梅さん、後ほどピッチの上で。――アタクシの『特等席』で、お待ちしておりますわね」
智以子はそれだけを言い残すと、喉の奥からねっとりとしたクスクス笑いを響かせながら、ゆっくりと自陣のピッチへと戻っていった。
「――挨拶代わりの、特大の煽り運転、本当に胸糞悪いじゃんね……。みんな、アイツの毒々ピンクのツラ、ぎゃふんと言わせてやるんよ!」
八々花のベンチ前で、スコアブックをぎゅっと握りしめながらカスミが激を飛ばす。
「言われなくてもそのつもりさ。さあ全員、ピッチへ行こう! 八々花の新しい美しい旋律を、あのピエロたちに聴かせてあげるんだ!」
キャプテンマークを腕に巻き直し、椛が不敵に笑ってイレブンを見渡した。
「「「「おーーっ!!!」」」」
他校から派遣された主審の正規のホイッスルが夏の青空に再び鳴り響く。
濃緑のシャツに黒と赤の重ね衿を凛と引き締めた八々花イレブンと、毒々しく輝く蛍光ピンクに染まった稲ブリイレブンによる、前半戦のキックオフの瞬間が訪れる――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
稲田ブリリアント女学院との練習試合のキックオフ。
試合開始早々、目白智以子のチェイン・バウンドが八々花イレブンを襲う!
次回、
【「アハッ。相変わらず良い角度で跳ね返してくれるわね、小梅さん。貴女って本当――最高の『壁』だわァ」】
どうぞお楽しみに!
――
「ヘイト管理の上手い10番w」
「これぞ悪役令嬢w」
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