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……ん? とは思いましたけど、そのまま拾い上げれば良いだけでしたから

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

「……みんなの闘志に火がついたところで、そのクソアマのサッカーの戦術データなんだけどね」


 口元のチャッパチュプスをガリッと噛み砕き、画面を切り替える。


「パスじゃないんよ。こいつ、敵味方関係なく、至近距離から人間の胸やら背中にわざとクソ強いボールをぶつけて、その跳ね返ったリバウンドを自分で拾って相手を抜いていくんよ。ピッチ上の人間を誰一人人間じゃなく、ただの『動く壁』、物理演算の障害物としか思ってないサイコパス戦術じゃんね」


 ――敵味方関係なくボールをぶつけ、その跳ね返りを自分で拾う、サイコパス戦術。

 カスミが告げた『稲田ブリリアント女学院』のエース・目白智以子の真骨頂に、部室は水を打ったような静寂に包まれていた。


「……ハッ。何そのお粗末な戦術。神園の落ちこぼれがネットにでも流したゴミみたいな技術を、必死にありがたがってシステム化しちゃったわけ?」


 重苦しい沈黙を破り、鼻で笑うように鋭い声を響かせたのは桐子だった。自身の前髪を無造作にかき上げながら、完全に稲田ブリリアント女学院、略して稲ブリを視界の外の雑魚として切り捨てる。


「要するに、神園のレギュラーなら誰でも通る、初心者のコントロールミスを誘うハメ技の不格好な焼き直しだよ。……ねえ、菊鞠。アタシらがフットサル同好会だった頃、柳が君の足元にわざと悪球をぶつけたプレイ、覚えてる?」


「……はい、覚えていますよ。あの時、柳さんがわざわざ私の足元にボールをパスしてくださった、あの不思議なプレイのことですね。……ん? とは思いましたけど、そのまま拾い上げれば良いだけでしたから」


 と、菊鞠はお茶をすすりながら、おっとりと小首を傾げて微笑む。


「そうそう! 菊鞠には全く通用しなくて、アタシも柳も焦ったっけ」


「……(ふるふる。)」

 ひまりの無自覚な天才発言と桐子のからかいに、柳は思い出したように小さく身を縮め、当時は本当に悔しかったんだから、と抗議するように優しく首を振った。


「あの時、柳が『仕掛ける側』として使った技術は、あくまでも個人のコントロールを乱すためのトラップだったがな……」


 キーパーの千鶴が、コップのお茶をぐっと飲み干し、パイプ椅子から長い足を組んでフッと冷たい息を吐く。


「それをチーム全体の公式システムにまで悪化させているというのか。味方の胸や背中、対面するディフェンダーの膝を狙ってわざとぶつけ、相手が体勢を崩した瞬間にボールを毟り取っていく……。どぎついピンクと同じく、遣り口もどぎついな。本当に下品極まりない」


「同感です。――競技規則ルールの第一条には明記されていませんが、意図的に人間を障害物として扱うなど、サッカーという競技への冒涜ぼうとくに他なりません。神園の戦術思想はあくまで『勝利のための最適解の構築』であり、私利私欲の嫌がらせをシステム化することではないはずです。そんな歪んだお遊び断じて見過ごすわけにはいきませんね」


 お団子ヘアをふるふると静かに震わせ、生真面目な怒りを燃やす満月。


「物理演算だけの傲慢なパスコース……。満月さんの言う通り、小梅さんを『壁』扱いしたその女は、万死に値します。私たちがかつて捨てたような過去の遺物、その跳ね返りの軌道ごと、一ミリ残らず夜桜の深淵に沈めて差し上げます」


 桜も、長い前髪の向こうで、静かな怒りに目を光らせた。


 かつて名門・神園学園の頂点に君臨した天才たちが、冷徹なまでの『格の違い』を見せつけるように、画面の向こうの勘違い女王への包囲網を敷いていく。

 そしてその中心には、静かに《修羅の笑顔》を浮かべる菊鞠、積年の怒りを燃やす藤乃が、怯える小梅を挟むように立っていた。


 仲間たちの放つ圧倒的な熱量と、自分を「壁」なんかにはさせないという強い絆。


「……。」


 小梅は何も喋らなかった。ただ、ぎゅっと自分の拳を、そして震える唇を強く噛み締める。

 涙を必死に堪えて、おでこを出した顔をぐっと上げると、仲間たちに向けて小さく、力強くコクリと頷いてみせた。萎びかけていたアホ毛が、みんなの優しさに応えるようにぴょこんと健気に立ち上がる。


 その無言の決意をすべて汲み取るように、キャプテンの椛が最高の笑顔で応じた。


「よし! それじゃあ全員、夏休みの特訓の成果を、あのけばけばしいピンクの鼻柱に叩き込んでやろうじゃないか!!」


「八々花ーーーっ、」


「「「「おーーっ!!!」」」」


 八々花女子サッカー同好会イレブン――完全体となった彼女たちの、次なる旋律が今、ここに鳴り響く。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

 

  

次回、

【「桐子さんの怪我を嗤いましたね……。――いいですよ、その安いプライドごと、桜の樹の下に埋めてあげます」】

どうぞお楽しみに!


――

「もう既に噛ませの予感w」

「フラグしかないwww」

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