「やれやれ。僕たちのサッカー同好会を、“和モダン同好会”とは、なかなかに辛辣だね」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
https://ncode.syosetu.com/n7086km/58
コミュフェス、そして海や川。
それぞれが練習のないお盆休みを満喫した八々花イレブンは再び、夏休み期間中の学校に集まって練習を再開していた。
「ねーねー、牡丹さまー!前に あーしが上げたサッカー同好会の蹴鞠動画、なんか夏休みになったら三千超えてプチバズ状態なんですけどー! ガチでエグいっしょ!」
休憩時間、スマホを手にしたまつりが牡丹へとその画面を差し出す。
その画面には、春先に菊堂神社での蹴鞠保存会との練習風景が映し出されていた。
「あら、神酒盃さんが貴女に依頼しているという蹴鞠保存会のアカウントですわね。人気が出るのは結構なことですが、以前のようにまた個人が特定されることのないよう、お気をつけくださいましね?」
左右で綺麗に巻かれたお嬢様特有の縦ロールに指を絡めながら、牡丹は呆れたように息を吐く。しかし、その視線はまんざらでもない様子でまつりのスマホ画面を覗き込んでいた。
「ふふ、まつりさんの動画の切り取り方は、いつもとっても綺麗ですから。神社の境内が、まるで映画の舞台みたいに見えるって、保存会のお爺ちゃんたち、とくに譲二さんなんかは大喜びなんですよ」
水筒からお茶をコップに注ぎながら、菊鞠がおっとりと微笑む。
「喜んでるの、お爺ちゃんたちだけじゃないでしょ。菊鞠ちゃんだって、動画が上がるの、いつも楽しみにしてるじゃない」
隣でお茶菓子に手を伸ばしながら、あやめがいつもの気安いタメ口で、いたずらっぽくクスリと笑う。
「もう、あやめちゃんってば……。そんなことありませんよーだ!」
少しだけ頬を膨らませて、ひまりは幼馴染にだけは気安く言い返す。
カチカチカチカチッ――。
――ッターンッ!!
のどかなお茶飲みの空気を切り裂くように、部室の奥から激しいキーボードの打鍵音が響く。
「いやいや、喜んどる場合じゃないんよ。――確かに、てぇてぇ動画がバズるのは、限界オタクとしてマイナスイオン供給過多で寿命が延びるし、いずれ癌にも効くようになるから大歓迎なんだけどね」
「……なんだけど、そのバズのせいで、同好会の公式アカウントにちょっと看過できないメッセージが直撃しとるんよ」
口元のチャッパチュプスを不機嫌そうに転がしながら、ノートPCの画面を見つめるカスミの目が、すっと真面目なものに変わる。
「メッセージ? ボクたちの活動への嫌がらせかい?」
キャプテンの椛が、首を傾げながらカスミのデスクへと歩み寄った。
「いや、差出人はちゃんとした高校の女子サッカー部なんよ。私立の『稲田ブリリアント女学院』。……なんだけど、文面が最高にお上品に煽り運転しとるんじゃんね。これ、みんなで見てほしいんよ」
カスミが画面を共有するように、部室の机の上に置かれたタブレットの画面を全員の方へと向けた。
そこには、同好会の公式アカウント宛てに直接送りつけられてきた、一通のダイレクトメッセージ(DM)が表示されていた。
送信元のプロフィールに表示されているアカウント名は、『目白 智以子@稲ブリ10番』。
アイコンには、桜を思わせる華やかなそれとは全く違う、どこか人工的でお高くとまったピンク色のユニフォームを着た少女が写っている。そのお上品な見た目とは裏腹に、あまりにもトゲのある文面が画面に並んでいた。
『ネットで噂の、可愛らしい「和モダン同好会」様。お遊びにしては素晴らしい技術ですわね。もしよろしければ、我が校の練習相手になってくれませんこと? 本物のサッカーがどういうものか、お上品に躾けて差し上げますわ。……ああ、それと。そちらのメンバー表に見知った名前がありましたの。鴨端中でウチの特等席(壁)だった鴬塚小梅さん。またアタシのシュート、身体で止めてくれるのを楽しみにしておりますわね(クスクス)』
「やれやれ。僕たちのサッカー同好会を、“和モダン同好会”とは、なかなかに辛辣だね」
キャプテンの椛は、ふうと小さくため息をつきながら苦笑いを浮かべる。しかしその目は笑っておらず、飄々としたいつもの佇まいの裏で、静かに闘志の火を灯していた。
「……は? 私の愛してやまない蹴鞠を“お遊び”? ……いいでしょう、その煽り運転、こちらから蹴り返して差し上げましょうよ」
おっとりとした声のトーンはそのままに、ひまりの背後から部室の温度を一瞬で氷点下に引き下げるほどの、凄まじい修羅の圧が放たれる。
(((……あ、これ、神酒盃(菊鞠ちゃん)がガチで怒ってるときのやつだ)))
部室の全員が本能的な恐怖で背筋を凍らせた。
その圧は、前に蹴鞠保存会の練習のときに見せた、羽賀主水へのお仕置き時の比ではない。
その絶対的な冷気は、自分たちではなく画面の向こうの不届き者に向けられたものだと誰もが理解していた。
「あ、ああ……っ……!」
しかし、その静寂の中で、指名手配犯の名前でも見たかのように小梅の身体がビクンと激しく跳ね上がる。
タブレットに刻まれた『鴬塚小梅さん』『ウチの特等席(壁)』という呪いのような文字列。それを見つめる小梅の頭のてっぺんの【アホ毛】が、過去の恐怖にピンと強張ったままガタガタと震え出した。顔からは一瞬で血の気が引き、涙目が床を見つめたまま言葉を失ってしまう。
「目白……智以子……。――ッ、あいつか……! あの、鴨中の時のクソアマか……っ!!」
机をガタッと鳴らして立ち上がり、拳を真っ白になるまで握りしめる藤乃。
「――どうやら、小梅さんと藤乃さんにとっても、因縁のお相手のようですわね。それにしても、随分と下品な文章ですこと。――それで椛さん、どうされますの?答えは分かりきってはおりますが、念のためお伺いいたしますわ」
左右の縦ロールを上品に揺らし、泥に塗れた悪意を一刀両断するように冷たく言い放つ牡丹。
「もちろん、売られた喧嘩は買ってさしあげようじゃないか」
腰に手を当てて、キャプテンとしての不敵な笑みを浮かべて力強く頷く。
「舐められたら舐め返す!倍返しじゃんか!」
すかさず萩子が拳を突き上げ、部室の天井に届かんばかりの勢いで吠えた。
「……舐め返す必要は、ございませんのよ、萩子さん」
そんな萩子の言葉に、牡丹が即座に冷ややかな視線を向け、ピシャリとツッコミを入れる。
「……みんなの闘志に火がついたところで、そのクソアマのサッカーの戦術データなんだけどね」
口元のチュッパチャプスをガリッと噛み砕き、画面を切り替える。
「パスじゃないんよ。こいつ、敵味方関係なく、至近距離から人間の胸やら背中にわざとクソ強いボールをぶつけて、その跳ね返ったリバウンドを自分で拾って相手を抜いていくんよ。ピッチ上の人間を誰一人人間じゃなく、ただの『動く壁』、物理演算の障害物としか思ってないサイコパス戦術じゃんね」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
稲田ブリリアント女学院の目白智以子を名乗るアカウントからの煽り。
その煽りを見て、八々花イレブンは闘志を燃やすのであった。
次回、
【……ん? とは思いましたけど、そのまま拾い上げれば良いだけでしたから】
どうぞお楽しみに!
――
「久しぶりの試合だ!」
「待ってたぜこの瞬間をよぉ!」
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