『風そよぐ 楢の小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける』
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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菊堂神社の和室で美味しい素麺と西瓜を堪能し、めいめいの個性が詰まった勝負水着を身に纏った少女たち。
真夏の午後、神社の和室の畳の上で脳汁を大洪水させて限界突破を迎えていたカスミたちの耳に、襖の向こうからおっとりとした優しい声音が届いた。
「ふふ、皆さまお着替えは終わりましたか? それでは、いよいよ川へと向かいましょうね」
……すぅっ、と。
実家の神社の厳かな品格を体現するかのように、木製の襖がしとやかにスライドして開け放たれる。
最後にそこから、おっとりと廊下へ歩み出てきた菊鞠の姿を見た瞬間。
カスミの動きが、完全にピタッと静止した。
菊鞠がその身に纏っていたのは、彼女らしい奥ゆかしさに満ち溢れた、真っ白で清楚なワンピース水着。
──だが、その上から、神社の白衣を完璧に羽織り、前を淑やかにきっちりと閉めて、腰帯を凛と巻いた、正真正銘の「ガチ神事(禊)スタイル」であった。
すん。
溢れ出ていたすべての邪念と限界早口構文を、一瞬で綺麗に白紙化されたオープンオタク。
それまでハァハァと荒かった呼吸を一瞬で等速に戻し、完全に無(賢者)へと還った白目で、静かにその場に直立不動の姿勢を取るのだった。
「ヒ、ヒマリッチオ……ソ、ソレワ、イッタヒ……」
「思ってたのと違う! 違いすぎるじゃんね!」という特大の困惑が脳内で大爆発を起こし、恐怖とパニックで顎をガタガタと震わせたカスミが、なんとかそれだけの震え声を絞り出す。
その凄まじい気圧されっぷりの横で、彼女の性格をよく知る幼馴染のあやめが、引きつった笑みを浮かべながら、やや引き気味に言葉を溢した。
「は、はは。菊鞠ちゃん、ブレないね……」
あまりにもあんまりな装いの菊鞠に、他の面々も絶句していた。
──ただ一人を除いては。
『風そよぐ 楢の小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける』
静まり返った和室の畳の上に、澄み渡るような美しい美声で、朗々と百人一首の和歌を諳んじる声が響き渡る。
学校指定の新スクを纏った満月が、その丸い瞳をこの上なくギラギラと大覚醒させ、熱い吐息を漏らしながら菊鞠の元へと詰め寄った。
「素晴らしい! 素晴らしいです神酒盃さん!――まさかこんなところで、従二位家隆の一首を堪能する機会が得られるなんて……っ!」
「あの、ミッちゃんさん!? 今までで一番ボルテージ上がってるじゃんね!? ってかひまりっちのその白衣姿を見て急にスイッチ入ったよね!? ウチらの期待してた水着回の供給の方向性が完全に大迷子なんよォォォッ!!!」
さっきまで「ひまりっち……」とフリーズしていたはずのカスミが、今度は満月の謎のニッチ大覚醒を目の当たりにして、あのフランクなオタク語彙全開で激しくツッコミをブチ叩く。
だが、大興奮の生真面目ガールはそれを1ミリのブレもなく完全にスルーした。
「これこそが日本の正しい夏の『禊』のあるべき姿です! 神酒盃さん、もしよろしければ……私の分の予備の白衣をお貸し願えますか……っ!?」
「ええ、もちろん用意できますよ」とおっとり微笑む菊鞠から真っ白な白衣を手渡され、水着お披露目回のはずの和室に、一瞬にして【水着の上のダブル白衣】という鉄壁の修業空間が爆誕してしまうのだった。
――チチチ、チチチチ。
シャワシャワシャワシャワ……。
鳥や蝉の鳴き声と、清流の音とが涼やかなハーモニーを奏で、真夏の午後に涼を彩る、菊堂神社の禊場。
――ちょーん。
今までのハイテンションから一転して、完全に微妙な空気(すん。)になった面々とは反対に、意気揚々と川へと向かうダブル白衣の二人。
エメラルドグリーンの冷たい清流の前に並び立ち、浅瀬へとゴム草履をペタペタと鳴らしながら、しとやかにその身を浸していく。
お日様を反射して眩しくきらめく真っ白な白衣の裾が、涼やかな冷水にゆらゆらと優雅に揺らめいた。
「満月さん、ソラで唱えるのは難しいですから、こちらの冊子をお読みくださいね」
「あ、ありがとうございます。……お心遣いに感謝します、神酒盃さん」
清楚な白のワンピース水着の上に白衣と腰帯を凛と巻き、本職の気品すら漂わせて静かに佇む菊鞠。
その隣で、学校指定の紺色な新スクの上に同じく白衣を羽織り、カンペの冊子を両手でピシッと広げて真剣な目を落とす満月。
冷たい川の中に並び立った2人。
菊鞠が静かに目を閉じて流暢に祝詞を紡ぎ出す横で、満月は手元のフリガナを穴が開くほどガン見しながら、声を揃えて必死に音読ハモりを響かせ始めたのである。
『高天原に神留坐す神魯岐神魯美の命以て──』
「た、たかまがはらにかむづまります、かむろぎ、かむろみの、みこと、もちて……っ」
真夏の渓流に木霊する、あまりにもガチすぎる神聖な大祓詞のハモり。
そんな水着回のはずが完全な「ガチ修行空間」へと変貌してしまった浜辺の佇まいに、冷たい川に足を浸していた藤乃が、素で引きつった関西弁を漏らした。
「アカン。あいつら何おっぱじめてんねん。訳わからんわ」
「あの二人は放っておいて、私たちはこっちで楽しく泳いでましょ?」とあやめがあっさりと促し、小梅がアホ毛をぴこぴこ揺らしながらその後に続く。
「ヤマメ!イワナ!シャケ!アナゴ!」
川魚を獲りたいのか、魚の名前を連呼しながら飛び込む萩子。
ドボーン!!
そんな脳筋ガールに続き、「せやな! ウチらはウチらで日本の夏を満喫や!」と藤乃が満面の笑みで泳ぎ出し、長い前髪を揺らした【オタクを○す死神】こと桜も、楽しそうに冷たい清流へと一斉に飛び込んでいくのだった。
――だが。
皆は忘れていた。
菊鞠と満月のガチ大祓詞の奏上攻撃を真っ向から浴び、すっかり浄化されてしまった少女のことを。
大きな浮き輪の真ん中にすっぽりと体をハメ込み、ぽつんと水面に浮かんでいたオタク少女──カスミである。
2人の白衣から放たれる純度百パーセントの神聖なオーラをゼロ距離で浴び続けた結果、脳内の同人邪念をすべて綺麗に浄化され、完全に魂の抜けた白目を剥いていた。
萩子がブチかました爆音ダイブの波紋に優しく押し出されるようにして、カスミは大きな浮き輪ごと、水面をくるくると無駄に綺麗な円を描いて回転しながら、どんぶらこ、どんぶらこと下流へ向かってスピリチュアルに流されていく。
「ヨキカナ---……」
顎のガタガタ震えすら完全に消失し、悟りを開いたような極上の解脱ボイスを渓谷に響かせながら、サークル主の少女はくるくると回りながらエメラルドグリーンの彼方へと流されていくのだった。
そんな悟りを開いてどんぶらことフェードアウトしていくカスミの姿に、すぐ近くで水飛沫を上げていた桜が真っ先に気がつき、その長い前髪を激しく振り乱して飛び上がった。
「はわ、はわわっ! カスミちゃんが、どんぶらこされてますうううううぅぅぅっ!」
さっきまでの【オタクを○す死神】としてのミステリアスな気品を1ピクセル残さず完全パスカットされ、ウブな一年生としての素のパニックを渓谷に木霊させる桜。
「はぁ? アイツ何やらかしてんねん!」と藤乃が呆気に取られて引きつった怒声を上げれば、小梅がアホ毛をピンと立てて「はわわ、大変ですっ!」とオロオロと右往左往する。
――だが、誰もがパニックになるなかで、真っ先に動いたのは我らが脳筋ガール!
大寝坊の汚名を挽回とばかりに、ザバァッ!と力強く川面に飛び込むのだった。
「ここはアタイに任せろおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
ザッッ――パン!
ザッッ――パン!!
ザッッ――パン!!!
浅瀬の川底を足で蹴り飛ばし、萩子が真夏の清流を全力のバタフライで猛烈に爆走し始めた。
渓谷全体にゴジラ襲来のごとき凄まじい水飛沫を叩き上げ、濁流を力業の筋力だけで強引にねじ伏せながら、くるくる回るカスミの元へと肉迫していく。
「いや、普通に足つくやん! 無駄にバタフライすんなや!」
藤乃が容赦のない呆れ声を上げるが、萩子には届かない。
菊鞠と満月の祝詞奏上に、萩子のバタフライの大音声。
清らかな禊場は一転、カオスと化していた。
――カナカナカナ。
――カナカナカナカナ。
夕暮れが静かに近づく渓谷に、どこか哀愁を帯びてエコーするひぐらしの鳴き声。
萩子によって助けられたカスミは、渓流の中心で哀を叫ぶ。
「もうっ!!!!! 川遊びはこりごりなんよぉぉぉぉぉッ!!!!!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
プチバズした蹴鞠保存会の動画。
その動画を見たと思われる者からDMが届く。
次回、
【「やれやれ。僕たちのサッカー同好会を、“和モダン同好会”とは、なかなかに辛辣だね」】
どうぞお楽しみに!
――
「いや、水着回ってこれ、なんか違う!」
「スピリチュアルやねw」
と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




