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『私の家、菊堂神社の近くに、川があるのですが』

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

 あの煌びやかでラグジュアリーな、サファイアブルーの海で華やかな前線組が最高のバカンスを謳歌している、その一方――。


 午前十時すぎの『海チーム専用グループNINE』の画面内では、大寝坊によって1人、駅前ロータリーに置き去りにされた萩子の、血涙を流さんばかりの大号泣スタンプと恨み節が激しく爆発していた。


『ウチを置いて最高のビービーキュー肉食いに行くなんて冷酷非道じゃんかぁぁぁッ!!!!! 今すぐリムジンUターンしてウチを回収しに来てよぉぉぉッ!!!!!』


 だが、そんな大寝坊助の甘えに対して、すでに白い砂浜に設営された大型パラソルの特等席へと到着し、最高にラグジュアリーなサマーベッドの上で優雅にスマホを開いた前線組の面々から返ってきたのは、手加減という文字を1ミクロンも知らない絶対的な正論の集中砲火であった。


『わたくし達は、モーニングコールも含めて何度も何度もご連絡差し上げましたわ。約束の時間を守るのはイレブンとしての最低限のマナーですわよ』


 牡丹が上品な冷徹さで先制の右ストレートをビーチの上から叩き込めば、


『悪いけど、こればかりは大寝坊した萩子くんが完全にマズいね。ボクたち自身は、やるべきことはやったと思うよ』


 古馴染みである椛が、スマートな王子様ボイスのまま、一切のオブラートに包まない直球の左フックをクリーンヒットさせ、


『言い出しっぺの蝶名林さんが少し待とう、と言って、出発の時間を一時間も遅らせてあげたんだから、これでもアタシ達、かなり譲歩したほうだよー?』


 サマーベッドに寝そべる桐子が、気怠げなトーンで完璧なトドメのカウンターをブチ込むのだった。


 ぐうの音も出ない鉄壁の正論パンチを浴びて完全KOされ、海チームのタイムラインで完全に居場所を失った哀れな萩子。


 サウナのような炎天下のロータリーでいよいよ魂の抜け殻と化していた彼女は、今度は涙目で、八々花イレブンの全体グループ『NINE』へとスライディング土下座の勢いで恨み節のメッセージをマルチポストしたのだった。


『海チームがみんな冷たいんよォォォッ!!!!! ウチの楽しみにしていた夏休みが午前中の段階で完全消滅したんよぉぉぉッ!!!!! 誰かウチを救い出してぇぇぇッ!!!!!』


 全体グループに投下された、置いてけぼりの寝坊助さんの哀れな咆哮。


 炎天下の駅前ロータリーで魂の抜け殻と化していた萩子のスマホが、その直後、まるで大天使の羽ばたきのような小気味よい通知音を連続で響かせた。


ピロン♪


ピロン♪


 実家の神社にいた菊鞠が、そのおっとりとした微笑みのまま、傷心の相棒を救い上げるように優しく指先を動かしたのである。


『私の家、菊堂神社の近くに、川があるのですが』


『よろしければ皆さま、涼みに来られませんか?』


 グループトーク『NINE』に、小気味よい通知音が連続で響いたその瞬間。

 画面が割れんばかりの勢いで「秒」で最速の既読をブチ叩いたのは、他ならぬ萩子であった。


 ほんの1時間前、駅前ロータリーで大きな浮き輪を抱えたままリムジンに置いていかれ、白目で「肉があぁぁぁーーッ!!」と絶叫していた哀れな大ネボスケ。

 

地獄で蜘蛛の糸に出会った彼女の、指先がひび割れんばかりの大絶叫レスが真っ先にトーク画面を埋め尽くす。


『行くーーーーーッ!!!!! ウチも絶対行くから置いてかないでぇぇぇぇッ!!!!! 今からチャリ爆漕ぎで現地(川)に向かうからぁぁぁッ!!!!!』


 置いていかれたトラウマから完全に大パニックを起こし、今すぐ川へ突撃しようとする萩子。

 そんなあまりにも気が早すぎる彼女の暴走に、メッセージを送った張本人である菊鞠から、すぐさまおっとりとした声音を想像させる優しいたしなめの言葉が返された。


『猪目さん、気が早すぎますよ。今すぐの話ではないですからね? 皆さまお盆の用事などがあるのですから』


『あ、そっか。……あやうく、フライングしかけてたわ!』


 すでに全力でフライングをかまし終えていることにも気づかず、1秒で素真面目に我に返る萩子の愛すべきおバカな遅レス。

 その微笑ましいラリーに、大阪の実家で親戚たちに囲まれ、少し居心地悪そうに暇を持て余していた藤乃からの返信が届く。


『自分、大阪から戻ってからでよければ、やな。親戚に囲まれてやることなくて暇しとったところやねん。最低でもあと1日はこっちにおるから、戻ったら川で一気に冷却アイシングや!』


 その頼れる相棒の言葉がポップアップした瞬間に、スマホを握りしめて待っていた小梅が、頭の上のアホ毛を小さくぴこぴこと嬉しそうに揺らしながら後に続く。


『あ、藤乃ちゃんが戻ってから行くなら、うちも……っ! この前、藤乃ちゃんと一緒に選んだ新しいお気に入りの水着、せっかくだから着たいです……っ』


 あやめはというと、母親と一緒にお盆のお墓参りへと向かう道中、おことのお稽古日を確認しなきゃと思いつつ、少し遅れてスマホを開いて上品に言葉を添えた。


『お稽古の予定を確認して空いていたらになるけど、私も大丈夫だよ。菊鞠ちゃん、最高の提案をありがとう!』


 ──そして、太陽が傾き始めた夕方以降のこと。


 カスミたちは、何万人ものオタクたちが密集しすぎてモバイル電波が完全に死滅している聖戦コミュフェスの会場をようやく脱出する。


 電波の繋がる場所で一息ついたサークル主と、その最強のファンネルの2人から、大歓喜と控えめなレスが前後に並んで遅れて投下された。


『ぎゃああああッ!!! まさかの水着回なんよォォォッ!!! ウチらの目の前に本物の清流が広がってるんよ、行くに決まってるじゃんねぇぇぇッ!!!』


『わ、私も……行ってもいい、のかな……?』


 そうして、グループトークがすっかりお祭り騒ぎに染まりきった、一番最後のこと。


 同じくお盆のお墓参りに出かけていたため、これまでずっと『NINE』の通知に気づいていなかった満月が、帰宅してようやくスマホを開いた。

 いかにも彼女らしいお堅い表情で、やれやれとため息をつきながら、背筋を伸ばしてその澄ました文字をポチポチと打ち込み始めた。


『川、ですか。皆さんは相変わらず騒々しいですね。お盆の時期で家の手伝いもありますが……まぁ、皆さまがそこまで行くというのでしたら、ウチだけお断りするのも失礼ですし、少しだけ付き合わせていただきます』


 いかにも義務感混じりに、しぶしぶ参加するような態度を見せる遅レスの満月。

 そんな満月のスタンプ(お辞儀)を最後に、全員の予定が【後日の川遊び】へとカチッと美しくハメ合わさると、華やかな少女たちはめいめいの勝負水着を手に、期待に胸を膨らませて地元の清流へと繰り出すのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

 菊鞠の提案により、菊堂神社に集まった面々。

 果たして萩子は、ビービーキューのリベンジなるか!?

 

次回、

【「ちょっと待って無理しんどい尊死するじゃんねぇぇぇッ!!!!!(限界突破)」】

どうぞお楽しみに!


――

「よかったな萩子」

「これがゴネ得というやつか(違)」

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