「……はぇ? さ、サクラ、ちゃん……!?」
カスミと桜が、神社でお詣りするシーンを書いた後で、どうしても書きたくなった部分です。
カスミと桜の、お詣りのシーンはこちら↓。
https://ncode.syosetu.com/n7086km/35/
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
https://ncode.syosetu.com/n7086km/58
もの凄い人混みと熱気が渦巻く、夏のコミュフェス会場。
カスミは自身のサークルスペースで、うちわをパタパタと仰ぎながらため息をついていた。
「うぅ、サクラちゃん、無事に壁サークルの戦場から生還できるんかなぁ……。ウチの無茶振りのせいで、一般人のメンタルが粉砕されてなきゃいいけど……」
その時。
サークルスペースの前に、一人の美しいコスプレイヤーがスッと姿を現した。
鮮やかなブルーのショートボブ。
特徴的な長めの前髪が、片目を綺麗に隠している。
大人気作『リセットしてやり直す異世界冒険』、通称『リセット』のメインヒロイン、エムの完璧なコスプレ姿だった。あまりの再現度と美しさに、周囲の一般オタクたちの視線が釘付けになっている。
「……あの、お待たせ。これ、頼まれてた新刊、全部落とせたよ」
エムコスの美少女は、少し照れくさそうに頬を染め、ズッシリと重い戦利品の紙袋をカスミの机の上に置いた。
聞き覚えのあるその声に、カスミはポカンと口を開け、咥えたチャッパチュプスを床に落とした。
「……はぇ? さ、サクラ、ちゃん……!?」
長い前髪を揺らして微笑んだのは、まぎれもない、自分の最強のファンネル――幕之内桜だった。
普段のサッカー同好会での地味な擬態を完全に脱ぎ捨て、神絵師のイラストから飛び出してきたかのようなクオリティで降臨した相棒に、カスミは頭を抱えて限界化する。
「ぎゃあああ!!! ちょっと待って無理しんどい!!! ウチのサークルの目の前に本物のエムちゃんが立ってるんよ!!! ってかサクラちゃん、レイヤーだったんね!? これもう公式の最大手供給なんよ、脳汁が、脳汁がビッグウェーブなんよ……!」
「もう、声デカいってば……。それに、せっかくのコミュフェスだもん。今日くらいは『擬態』をやめて、自分の好きな姿になりたかったから」
桜は恥ずかしそうに視線を泳がせながらも、ふっと柔らかく、今までで一番優しい笑顔をカスミに向けた。
そのあまりにも眩しすぎる美少女レイヤー姿に、ポカンと口を開けて咥えたチャッパチュプスを床に落としながらも、カスミのオタク脳は、机の上にドンと置かれた戦利品の『異常な重さ』にふと気がついた。
「は、はれぇ……? ウチ、サクラちゃんに頼んでたのは、わずか二サークル分の薄い本だけなんよ……?」
目を白黒させながら、消え入りそうなオタク特有の声を漏らすカスミ。
そんな相棒の戸惑いを見透かしたように、桜はエムちゃんのコスプレ衣装の裾を少しだけ弄びながら、不器用ながらもどこか誇らしげに視線を逸らした。
「でも……サークル配置図、びっしり書き込まれてたから。たぶん、私に気を使ってくれたんだろうな、って」
「あ……」と、カスミは今度こそ言葉を失って完全に絶句した。
ファンネルとして動いてもらう桜の負担を考えてリストから泣く泣く外したはずの大手壁サークルの新刊や限定グッズが、目の前の美しいエムちゃん(桜)の不器用で最高に熱いサプライズとして、これでもかとギッシリ詰め込まれていたのである。
溢れ出る脳汁がビッグウェーブとなって決壊し、完全に思考の限界を迎えたカスミの口から、魂の底の言葉がポロリと漏れ出た。
「結婚しよ……」
「……はぇっ!? な、何言ってるの、カスミちゃん……!っ」
いつも頑なに「種村さん」と呼んでいた桜の口から、ふいに、当たり前のように紡がれた『カスミちゃん』という名前。
その破壊力は、西ホールのシャッターサークルの大混雑すらも一瞬で消し飛ばすほどの、純度百パーセントの特大質量兵器だった。
──だが、限界突破したカスミの脳内回路は、てぇてぇの暴力を浴びたことで、オタク特有の斜め上の深淵(妄商)へと一瞬で捩じ切れてしまった。
桜のほうがメイド服の袖を握りしめて顔を真っ赤にさせているのも構わず、カスミのオタク脳は、その尊さと感謝のあまり全く別方向の限界妄想を叩き出して大爆発を起こしていた。
(ひ、ひえぇぇぇーーーっ!!! サクラちゃんマジでウチの最高の旦那──じゃなくて戦友すぎて尊死するじゃんねぇぇぇッ!!! っていうか、こんなに不器用で健気で可愛いサクラちゃん、もしかしてネットの海のどこかに『裏垢』とか持ってて、そっちには人には見せられないようなあれやこれやの、あんなコスプレやこんなコスプレの写真がびっしりポスト(投稿)されてるんじゃろかァァァッ!!!)
自身の邪悪すぎる脳内妄想によって完全に脳汁が焼き切れたカスミは、ついにその場でサークルスペースのコンクリート床に崩れ落ち、這いつくばったまま額をガンガンと打ち付け始めた。
「あ、最大手公式の裏供給を教えろなんよォォォッ……!!」という魂の絶叫を、一切声には出さず、ただ脳内だけで激しくゴーストタイピングしながら、現実の肉体は無言で床に(ガン! ガン!)と頭をぶつけ続ける。
ブルーのショートボブを激しく揺らし、顔を耳まで真っ赤にして、急に床へ自傷行為を始めた相棒を必死に引っ張り起こそうとする桜。
そんな桜の必死の制止を受けて、カスミはズサァ……と這いつくばったまま、自分の見苦しい妄想の暴走をガチで反省するように深いため息をひとつついた。
「……ウチ、ちょっと頭冷やしてくるんよ」
そう言ってスンッと真顔に戻り、ふらふらとサークルスペースの席を立つカスミ。
だが、リセットのエムのコスプレ姿のままそれを見送る桜は、自分の可愛さのせいで相棒の脳が焼き切れたとは一ミリも気づいていなかった。
「え、あ、うん。……熱中症なら、絶対に無理しないで医務室に行ったほうがいいよ、カスミちゃん!」
長い前髪の奥の瞳を潤ませて、心底からカスミの体調を気遣う、純度百パーセントの天然の優しさ。
「熱中症(萌え死に)なのは間違いないじゃんね……」とカスミが心の中で限界の白目を剥く中、周囲のカメラ小僧たちのシャッター音が容赦なく鳴り響く。
喧騒と熱気に満ちた、夏の戦場。
だが、サークルスペースの机を挟んだ2人の間には、世界中の誰にも邪魔できない、最高に尊くて、最高に手遅れな秘密の同盟(てぇてぇ花園)が、どこまでも熱く咲き誇っているのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
「来週の土日ですが、わたくし、両親とプライベートビーチで過ごす予定だったのですが、その両親が都合が悪くなりまして。わたくし一人で使うのももったいないと思い、日ごろの感謝と労いの意味を込めて、皆さまをお誘いしようと思い至ったのですが、ご都合いかがですか?」
突然の牡丹の申し出。
まさかの海回。
まさかの水着回!?
次回、
【「牡丹くんのプライベートビーチか。久しぶりに楽しめると思うと、胸が高まるね」】
どうぞお楽しみに!
――
「桜ちゃんのコスプレ姿だと!?」
「薄い本が熱くなるな!」
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