「なにが『なのだ!』や! お前はどっかの枝豆か? あ?」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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「はーい、Aチーム交代の時間なんよー。次はBチーム、守備陣の皆さんと交代じゃんねー」
鞠庭の端から、カスミののんびりとしたアナウンスが響き渡る。
前代未聞の『特攻野郎チーム(Aチーム)』による怒濤の初座が終了し、鞠庭からは汗を拭うアタッカー陣たちが引き揚げてくる。
「お疲れ。どうだった?」
特訓を終え、鞠庭から降りてくる桐子を、千鶴は労いつつ尋ねる。
あの鞠を蹴る一瞬の驚きの表情を、千鶴はしっかりと捉えていたのだ。
「……悪くないわ。サッカーのセオリーとは真逆だけど、力を抜く(エコモード)ことの本当の意味が、少しだけ分かった気がする」
桐子は自分の足元を少しだけ見つめ、フッと口元を綻ばせた。
心拍数を上げず、体力を削られずに、あれだけの極上ロブが上げられる。翼をもがれた大鳥が、新しい風の掴み方を覚えた瞬間だった。
「なら良かった。……じゃあ、次は俺たちの番だな」
千鶴がすっと立ち上がる。
入れ替わるようにして、待機していた藤乃や小梅たちの『Bチーム』が、いよいよ神聖なる鞠庭へと足を進めていく――。
のだが、彼女たちが中の口(入り口)をくぐるよりも早く、保存会のメンバーが一人、これ幸いとばかりに『一の足(松の木の手前)』へとドカドカと陣取った。
見ればその男は、神聖な境内の風紀を何だと思っているのか、白いU首シャツにダボダボのステテコ、そしてウエストを包む立派な毛糸の腹巻という、昭和の頑固親父を煮詰めたような衝撃的な格好をしている。
その姿は、往年の国民的ギャグ漫画に登場する『あのパパ』そのものであった。
男は、自分のそんな異様なビジュアルを一切気にする様子もなく、威張って鼻の頭をこすった。
「がっはっは! あっちの譲二が特攻野郎なら、ここからは俺たちの出番なのだ! この羽賀主水率いる、作戦ネーム・バカボンチームなのだ!!」
「なにが『なのだ!』や! お前はどっかの枝豆か? あ?」
藤乃の、ドスの利いたキレ味抜群の関西弁ツッコミが、主水さんのステテコへ向かって真っ正面から突き刺さる。
「え、枝豆……!?」と、令和のネット妖精の概念をぶつけられた主水さんが、土下座の余韻のまま目を白黒させて狼狽した。
だが、すぐに我に返ると、ウエストの毛糸の腹巻をぐいっと引っ張り上げ、顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
「な、な、な、誰が枝豆なのだ! 失敬なのだ! 死刑なのだ!! 最近の若者は、大人を敬うという最低限の礼儀作法を知らないのだ! 実に、実に嘆かわしいことなのだ!!」
主水さんは鼻の頭を真っ赤にしてぷんすかと怒り散らしながら、本来ならゲームメーカーであるはずの菊鞠を押しのけ、神聖なる鞠庭の『軒』の位置へずかずかと踏み込んで仁王立ちになった。
完全にピッチの主導権を強奪された形なのだが、当の菊鞠はというと、怒鳴り返すでもなく。
「……。」
ただただ、おっとりとふわりとした笑みを浮かべたまま、その瞳の奥の光だけをスウッと完全に消失させていた。
大切な鞠庭をステテコ姿で不作法に荒らされたことへの、静かなる困惑、そして純度百パーセントの【おっとりプチ切れフリーズ】である。
だが、そんな菊鞠の背後に浮かび上がる般若の業火に気づいているのかいないのか、ステテコ姿の主水さんはこれみよがしに鼻の頭をこすると、何をトチ狂ったか、伝統の、神聖なる請い声を奇妙な節回しで歌うように張り上げた。
「あ~~~ぁありぃやああぁ~~ありいぃ~♪」
まるで寄席の都々逸か何かのような、無駄にノリノリで、おどけたおっさんの歌声が鞠庭に響き渡る。
「……(にこっ)」
その瞬間、菊鞠の背後の業火がボッ!!!とさらに三倍ほど巨大化したのを、ピッチ外のメンバーたちは確かに目撃した。顔は完璧に優しく微笑んでいる(にこっ)のに、瞳の光だけが完全に消え失せている。そのお祖母ちゃん譲りの静かなる怒りの圧に、待機席の藤乃すら「ヒエッ……」と身をすくませた。
しかし、そんな周囲の戦慄に全く気づかないまま、都々逸の余韻に浸る主水さんの足元から、空回るプライドと恐怖によって力加減が文字通りバグり散らかした一撃が放たれた。
――パコォォォンッ!!
伝統の鹿革の鞠は、ステテコ腹巻姿の全力インステップキックによって無慈悲な弾丸ライナーへと変貌。突風を切り裂き、牙を剥いて『五の足(あるいは小梅の守備位置)』へと襲いかかった。
「ひゃいっ!? な、なんですかあの球ぅーー!?」
その弾道の正面で構えていた小梅が、頭の上の【アホ毛】を恐怖にピン!と跳ね上げて悲鳴を上げる。
中学時代の苦い記憶が、最悪なタイミングで脳裏にフラッシュバックしていた。
地元の公立、鴨端中学校のサッカー部。
いつも部室の隅で、チームの足を引っ張るなと馬鹿にされていたあの頃。
当時のチームのエースだったあの少女は、小梅を練習のディフェンスラインに立たせると、人間ではなく、ただの『壁』か『ゴールネット』であるかのように扱った。
至近距離から、わざと身体の正面を狙って叩き込まれる、避けることもできない強烈なシュートや、悪意の混じった痛烈なパスの数々。
『小梅さん、そこに突っ立ってるだけなら、大人しくアタシのシュートの壁にでもなっててよ(クスクス)』
スポットライトを浴びていたあの少女の、冷ややかな笑顔と、あのとき身体に受けた衝撃の恐怖。それが、今まさに目の前のクソボールの軌道と完璧に重なってしまう。
(――う、うちには、やっぱり無理です……っ!)
――ポロッ……。
無軌道な悪球は、硬直した小梅の足先に無慈悲に当たり、そのまま地べたへと力なく転がった。
「あ……」と絶望にアホ毛をしょんぼりヘコませる小梅。
ラリーの強制終了を告げるかのように、神聖なる鞠庭の四隅の松や桜が、ただ冷たく静まり返るのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
バカボn……もとい、羽賀主水による悪球に、トラウマを呼び起こされる小梅
蹴鞠の修羅が動き出す!
次回、
【「こ、う、た、い――しましょう、ね?」】
どうぞお楽しみに!
――
「遥譲二もキャラ濃かったけど、こっちもなかなかw」
「いや、ネタ古いわw」
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