「マ? あのキモおじ達、ただのバグったピッチングマシンとして“ちょーゆーしゅー”ってコト?」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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菊堂神社・社務所。
外の喧騒とは打って変わって、畳の香りが心地よい静かな空間だった。
「ちょっと待って、ガチで焦った。菊鞠のおばあちゃん何者? ビジュと強さのギャップえぐ笑。リアル無双とかマ人間やめてて最高」
まつりが湯呑みを両手で持ちながら、未だに興奮冷めやらぬ様子で言う。
「無駄のない重心移動、見事な気乗りの技ね。……あの人、絶対にタダモノじゃないわ」
桐子は深くお茶をズズッとすすりながら、冷徹なまでに鋭い目で、先ほどのお祖母ちゃんの体捌きを分析していた。
「同感だ。力任せの暴力ではなく、こちらの突進するベクトルを完全に予測して、その力をそのまま受け流している。……ディフェンスラインの統率に通じる、恐ろしいほどの戦術眼だな」
千鶴が、桐子の言葉に深く頷きながら静かに湯呑みを置く。
同じレベルで会話ができる二人の視線が交錯し、社務所の空気が一瞬だけ知的な緊迫感に包まれた。
「あはは……。実はお祖母ちゃん、若い頃に合気道の道場で……」
菊鞠がバツが悪そうに頭を掻く。
その時、静かな社務所に、遠く境内のほうからかすかな音が響いてきた。
『へぶっ!!!』
『ひぎぃっ! 絲子さん、ご勘弁をぉぉっ!』
『もうキャバクラなんて言いませんからぁぁっ!』
「それにしても、こちらの社務所のお茶、とても風味豊かで美味しいですわね。さすがは由緒正しき菊堂神社ですわ」
牡丹はまるで高級ホテルのティータイムかのように、優雅に茶托を扱っている。
「蝶名林さん、自分もそれ思った。……でもな、外の『ご勘弁をぉぉ!』ってBGMのせいで、お茶の味が全然入ってけえへんのやけど」
藤乃がじろりとお茶の表面を見つめる。
外で誰かが石畳に叩きつけられるたびに、湯呑みのお茶に小さな波紋が『ピチャン……』と広がっていた。
「……しかし、神酒盃さんのお祖母様の体捌き、サッカーのディフェンス面においても非常に参考になる点がありました。相手の突進する力を利用して重心を奪う……あれは究極のインターセプト(ボール奪取)の理論です」
お茶を飲むことも忘れ、背筋をピンと伸ばして大真面目に語りだしたのは、満月だ。
自慢のお団子髪を少し揺らしながら、あのバイオレンスな光景からサッカーの戦術を吸収しようとしている。
「うわぁ、出たよガチ勢。あの光景からサッカーの戦術を吸収しようとしてるじゃんね。真面目すぎて逆にブレないのウケるんよ」
カスミが呆れたようにのんびりとした声を上げた。
「アタイにはよく分かんねーけど、あのお婆さん、キレッキレなのは確かだな。アタイも一本背負いとか習っときゃ良かったぜ」
萩子がウルフカットの頭をガシガシと掻きながら、ぶっきらぼうに笑う。
おじさん達には申し訳ないが、完全に自業自得である。しばらくの間、14人は静かにお茶をすすり、聞こえなかった振りをすることにした。
「それにしても……今回は八橋さんがお留守なのが、少し寂しいですわね。今日はお母様のお教室の、大切なお稽古の日だと伺いましたけれど」
牡丹がふっと、空いた座布団に目を落とす。
お琴とサッカーの『両立』を懸けて日々を駆け抜けているあやめは、今日、苦渋の決断でこの約束(蹴鞠)への参加を断念していた。
「彼女も今頃、別の場所で自分の絃――サッカーへの情熱を必死に調絃しているはずさ。僕たちも負けていられないね」
「はい! あやめちゃん、次にみんなと合流するときまでに、びっくりするくらい蹴鞠を完璧にしておくね、って言ってくれたんです!」
幼馴染の固い絆を感じさせる菊鞠の笑顔に、一同の士気がふわりと高まった。
「……さて」
沈黙を破り、椛がふっと微笑んで湯呑みを置いた。
「しかし神酒盃くん。君のお祖母さんは、ただ怒りに任せて彼らを懲らしめているわけではなさそうだね。何か狙いがあるのかな?」
「あ、えっと……。狙いというか、お祖母ちゃん、さっき『直に揉む』って言ってましたよね? 保存会のおじさん達、技術がその……あまり高くなくて、蹴った鞠がどこに飛ぶか、本当にめちゃくちゃなんです」
菊鞠は少し遠い目をしながら、自分の足元を見つめた。
「でも……私、子供の頃から、あの人たちのあちこちに飛んでいく鞠を、落とさないように必死になって追いかけてたから、今の私があるんです」
その言葉に、萩子の目がピキィンと据わった。
「どこに飛ぶか分からない空中球を、落とさずにコントロールし続ける……」
「あら……!」
牡丹がぽんと手を打つ。
「それって、実戦で最も対応が難しいとされる『イレギュラーなルーズボール』の処理、そのものの練習になりませんこと?」
「マ? あのキモおじ達、ただのバグったピッチングマシンとして超優秀ってコト?」
まつりが驚愕の声を上げる。
そう、おじさん達の「下手さ」こそが、菊鞠という異次元のトラップ技術を持つ天才を育てた、最高の育成環境だったのだ。
「はい! だからお祖母ちゃん、おじさん達を『あの子たちの壁打ち要員にしなさい!』って……あ、外が静かになりましたね」
菊鞠が気づいて社務所の障子をガラリと開ける。
だが、そこにはもう、お祖母ちゃんもおじさん達の姿もなかった。ただ、嵐が去った後のような、不気味なほどの静寂だけが境内に満ちている。
そんな不気味な静寂を前に、菊鞠がふわりと微笑み、静かに先頭を歩き出した。
「――では皆さん。鞠庭に行きましょうか」
緑のピッチではなく、神聖なる鞠庭から、彼女たちの新しいサッカーが始まる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
阿鼻叫喚の声が止んだ境内。
そろそろ蹴鞠を始められるだろう、と鞠庭へ向かう八々花イレブンの一行。
そこで彼女たちが見たものは!
次回、
【「うわぁ……何その声の無駄遣い。声帯のポテンシャルだけは無駄にカンストしてるじゃんね」】
どうぞお楽しみに!
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