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「マ? あのキモおじ達、ただのバグったピッチングマシンとして“ちょーゆーしゅー”ってコト?」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

 菊堂神社・社務所。

 外の喧騒とは打って変わって、畳の香りが心地よい静かな空間だった。


「ちょっと待って、ガチで焦った。菊鞠のおばあちゃん何者? ビジュと強さのギャップえぐ笑。リアル無双とかマ人間やめてて最高」


 まつりが湯呑みを両手で持ちながら、未だに興奮冷めやらぬ様子で言う。


「無駄のない重心移動、見事な気乗りの技ね。……あの人、絶対にタダモノじゃないわ」


 桐子きりこは深くお茶をズズッとすすりながら、冷徹なまでに鋭い目で、先ほどのお祖母ちゃんの体捌きを分析していた。


「同感だ。力任せの暴力ではなく、こちらの突進するベクトルを完全に予測して、その力をそのまま受け流している。……ディフェンスラインの統率コントロールに通じる、恐ろしいほどの戦術眼だな」


 千鶴ちづるが、桐子の言葉に深く頷きながら静かに湯呑みを置く。

 同じレベルで会話ができる二人の視線が交錯し、社務所の空気が一瞬だけ知的な緊迫感に包まれた。


「あはは……。実はお祖母ちゃん、若い頃に合気道の道場で……」


 菊鞠がバツが悪そうに頭を掻く。


 その時、静かな社務所に、遠く境内のほうからかすかな音が響いてきた。


『へぶっ!!!』

『ひぎぃっ! 絲子さん、ご勘弁をぉぉっ!』

『もうキャバクラなんて言いませんからぁぁっ!』


「それにしても、こちらの社務所のお茶、とても風味豊かで美味しいですわね。さすがは由緒正しき菊堂神社ですわ」


 牡丹はまるで高級ホテルのティータイムかのように、優雅に茶托ちゃたくを扱っている。


「蝶名林さん、自分もそれ思った。……でもな、外の『ご勘弁をぉぉ!』ってBGMのせいで、お茶の味が全然入ってけえへんのやけど」


 藤乃がじろりとお茶の表面を見つめる。

 外で誰かが石畳に叩きつけられるたびに、湯呑みのお茶に小さな波紋が『ピチャン……』と広がっていた。


「……しかし、神酒盃さんのお祖母様の体捌き、サッカーのディフェンス面においても非常に参考になる点がありました。相手の突進する力を利用して重心を奪う……あれは究極のインターセプト(ボール奪取)の理論です」


 お茶を飲むことも忘れ、背筋をピンと伸ばして大真面目に語りだしたのは、満月みつきだ。


 自慢のお団子髪を少し揺らしながら、あのバイオレンスな光景からサッカーの戦術を吸収しようとしている。


「うわぁ、出たよガチ勢。あの光景からサッカーの戦術を吸収しようとしてるじゃんね。真面目すぎて逆にブレないのウケるんよ」


 カスミが呆れたようにのんびりとした声を上げた。


「アタイにはよく分かんねーけど、あのお婆さん、キレッキレなのは確かだな。アタイも一本背負いとか習っときゃ良かったぜ」


 萩子がウルフカットの頭をガシガシと掻きながら、ぶっきらぼうに笑う。


 おじさん達には申し訳ないが、完全に自業自得である。しばらくの間、14人は静かにお茶をすすり、聞こえなかった振りをすることにした。


「それにしても……今回は八橋やつはしさんがお留守なのが、少し寂しいですわね。今日はお母様のお教室の、大切なお稽古の日だと伺いましたけれど」


 牡丹がふっと、空いた座布団に目を落とす。

 お琴とサッカーの『両立』を懸けて日々を駆け抜けているあやめは、今日、苦渋の決断でこの約束(蹴鞠)への参加を断念していた。


「彼女も今頃、別の場所で自分の絃――サッカーへの情熱を必死に調絃しているはずさ。僕たちも負けていられないね」


「はい! あやめちゃん、次にみんなと合流するときまでに、びっくりするくらい蹴鞠を完璧にしておくね、って言ってくれたんです!」


 幼馴染の固い絆を感じさせる菊鞠の笑顔に、一同の士気がふわりと高まった。



「……さて」


 沈黙を破り、椛がふっと微笑んで湯呑みを置いた。


「しかし神酒盃くん。君のお祖母さんは、ただ怒りに任せて彼らを懲らしめているわけではなさそうだね。何か狙いがあるのかな?」


「あ、えっと……。狙いというか、お祖母ちゃん、さっき『直に揉む』って言ってましたよね? 保存会のおじさん達、技術がその……あまり高くなくて、蹴った鞠がどこに飛ぶか、本当にめちゃくちゃなんです」


 菊鞠は少し遠い目をしながら、自分の足元を見つめた。


「でも……私、子供の頃から、あの人たちのあちこちに飛んでいく鞠を、落とさないように必死になって追いかけてたから、今の私があるんです」


 その言葉に、萩子の目がピキィンと据わった。


「どこに飛ぶか分からない空中球を、落とさずにコントロールし続ける……」


「あら……!」


 牡丹がぽんと手を打つ。


「それって、実戦で最も対応が難しいとされる『イレギュラーなルーズボール』の処理、そのものの練習になりませんこと?」


「マ? あのキモおじ達、ただのバグったピッチングマシンとして超優秀(ちょーゆーしゅー)ってコト?」


 まつりが驚愕の声を上げる。


 そう、おじさん達の「下手さ」こそが、菊鞠という異次元のトラップ技術を持つ天才を育てた、最高の育成環境だったのだ。


「はい! だからお祖母ちゃん、おじさん達を『あの子たちの壁打ち要員にしなさい!』って……あ、外が静かになりましたね」


 菊鞠が気づいて社務所の障子をガラリと開ける。


 だが、そこにはもう、お祖母ちゃんもおじさん達の姿もなかった。ただ、嵐が去った後のような、不気味なほどの静寂だけが境内に満ちている。


 そんな不気味な静寂を前に、菊鞠がふわりと微笑み、静かに先頭を歩き出した。


「――では皆さん。鞠庭に行きましょうか」


 緑のピッチではなく、神聖なる鞠庭まりにわから、彼女たちの新しいサッカーが始まる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

 阿鼻叫喚の声が止んだ境内。

 そろそろ蹴鞠を始められるだろう、と鞠庭へ向かう八々花イレブンの一行。

 そこで彼女たちが見たものは!

次回、

【「うわぁ……何その声の無駄遣い。声帯のポテンシャルだけは無駄にカンストしてるじゃんね」】

どうぞお楽しみに!


――

「」

「」

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