「なー、みかづきぃ。こいつら、鞠ぶつけていい?」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
https://ncode.syosetu.com/n7086km/58
「それは、あちらの建物の……」
菊鞠が、本殿の東側、境内北東にある古びた建物を指さすと……。
――ガタガタッ、バァン!
「なんじゃあ、菊鞠ちゃん! お友達かぁ?」
その建物から魑魅もうり……いや、ステテコや薄汚れたジャージを適当にまとった爺さんとオッサンが、鼻の下を限界まで伸ばしてわらわらと出てきたのである。
「うおっ、女子高生が13人も!? 菊鞠ちゃん、最高のお友達を連れてきてくれたじゃないか!」
菊堂神社の境内に、むさ苦しい歓声が響き渡った。
声を上げたのは、蹴鞠保存会に所属する50代のおっさんだ。その目は完全にギラついている。
さらに、その後ろから70代のおじいちゃんが、フガフガと鼻息を荒くして身を乗り出してきた。
「おいおい焦るな。まずは自己紹介からじゃ。ほら、そこの可愛い子、おじいちゃんの代わりに受付のお手伝いでもしておくれ。帰りにたっぷりお駄賃をあげるからね」
平均年齢を限界まで引き上げている、老人とおっさんの集団。
彼らにとって、この保存会に唯一咲いた一輪の華・神酒盃 菊鞠は、絶対的なアイドルだった。
そんな彼女が、まさか同世代の女子高生を13人も引き連れて現れるなんて、夢にも思わなかったのだろう。
完全に『令和のコンプライアンス』が消滅した、昭和のバブル期のようなノリで詰め寄ってくる。
「え、無理。マジでキモいんだけど……。うちら労働力としてカウントされてる?」
最初にドン引きの声を上げたのは、ギャル肌のまつりだった。
一歩引いて、本気で嫌そうな顔で自分の腕をさすっている。
猪鹿蝶の一員であり、誰よりも律儀な牡丹も、引きつった笑顔で丁寧に応対を試みた。
「あの、わたくし達、菊鞠さんとの約束通り、蹴鞠のお手伝いと練習に伺ったんですけど……」
そう。
イレブンが揃ったタイミングで、「まずは菊鞠との交換条件だった、蹴鞠保存会の手伝いに行きましょう」と提案したのは牡丹だった。大真面目に神聖な伝統芸能を学びに来たのだ。
しかし、舞い上がったおっさんには何も聞こえていない。
「まぁまぁ、そんな固いこと言わずにさ! 女の子なんだから愛嬌、愛嬌! 可愛い笑顔で応援してくれたら、おじさん達いくらでも頑張っちゃうよ!」
「あの、ひ、ひぃっ……! 距離が、距離が近いです……っ」
おっさんのむさ苦しい顔が迫り、内気な小梅が悲鳴に近い声を上げて縮こまる。
その瞬間、前髪ぱっつんのツインテールを激しく揺らし、一人の少女がその間に割って入った。
サイドバックを務める藤乃だ。
小梅を背中に隠すように後ろ手で庇うと、おっさんを射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけた。
「……は? 応援? あんたら、自分が何しにここに来たと思ってんの? 初対面のおっさんのチアガールするためにわざわざ来たんちゃうぞ、ボケ」
容赦のない、純度百パーセントの鋭い関西弁が境内の空気を凍らせる。
おっさんがその気迫に気圧されて一歩引いたところへ、後ろからピコピコと緊張感のない電子音が響いた。
「うわぁ、リアルで『笑顔ちょうだい』とか言ってるNPC初めて見たんよ。コンプラの概念がログアウトしてるじゃんね。藤乃っち、これSNSに晒したら一発で炎上るやつ?」
飄々とした態度でスマホを弄びながら、オープンオタクのカスミがのんびりとした声を上げる。
「は、はは……。神酒盃くんが、僕たちをここに連れてくるのを渋っていた意味、ようやく理解したよ」
宝塚のトップスターのような美貌を持つ椛が、額を押さえて乾いた笑いを漏らす。
女子高生13人の間に、急速に「冷気」と「殺気」が満ちていく。
なかでも、歯に衣着せぬ脳筋・萩子の目は、完全に据わっていた。
萩子は静かに、ポリポリと首の後ろを掻きながら、隣の菊鞠を振り返る。
「なー、みかづきぃ。こいつら、鞠ぶつけていい?」
「お、お気持ちはわかりますがっ! すごく、すっごくわかりますが……ッ! 鞠は神事の道具なので、あまり暴力には……!」
菊鞠が涙目で必死に萩子の腕を掴んで止める。
だが、そのやり取りを背後から見つめる、もう一つの「巨大な影」があった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
どこからか、肌を刺すような濃密な殺気を感じ取った気がして、保存会の面々が動きを止める。
「ーーなら、道具なんて使うんじゃないよ。こういう生ゴミはね、直に揉むに限るさね」
「ひ、絲子さん……ッ!?」
おじさん達が恐怖に顔をこわばらせて振り返った瞬間。
菊鞠のお祖母ちゃんであり、この神社の宮司の妻でもある神酒盃 絲子が、滑るような足捌きで踏み込んだ。
――ずざっ!
――合気道の、鮮やかな体捌き。
――ひゅっ、と風が鳴り。
――どさぁっ!
「ぶふぇっ!?」
おっさんの腕を掴んで軽くひねったかと思うと、重力から解放されたかのように、おっさんの巨体が石畳へ叩きつけられていた。
――ひょいっ、くるん。
――どん、どど(床に転がる音)
続いて慌てて詰め寄ろうとしたおじいちゃん達も、風に舞う木の葉のように、次々と空中を一回転して転がっていった。
「え、待って、おばあちゃん強すぎなんだけど!? 覇気出てるって!」
まつりが素で目玉を飛び出させて叫ぶ。
絲子お祖母ちゃんは、着物の袂をすっと優雅に整え、何事もなかったように菊鞠たちを振り返った。その背後では、おじさん達が虫の息で転がっている。
「菊鞠ちゃん、それにお友達のみんな。せっかく来てくれたのに、薄汚いものを見せて悪かったねぇ。ちょっと野暮用(片付け)があるから、みんなは社務所でお茶でも飲んできなさい。……さぁ、行きな」
「う、うん……っ! わ、分かった、お祖母ちゃん……っ!」
お祖母ちゃんの笑顔の裏にある「本気の殺気」を誰よりも察知した菊鞠が、見たこともないほどにアワアワと小首を縦に振り、すぐさま後ろの仲間たちへと振り返った。
「み、皆さん、あちらの社務所へ……! は、早く逃げ──じゃなくて、移動しましょう、です……っ!」
「あ、あら……? は、はい、お言葉に甘えまして、失礼いたしますわ……」
菊鞠の尋常ではない怯えっぷりにすべてを察した牡丹は、上品に引きつった笑顔を浮かべ、13人を促して脱兎のごとく社務所へと避難したのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
八々花イレブンを救った、菊鞠の祖母。
菊堂神社の境内に、男たちの阿鼻叫喚の声が木霊する!
次回、
【「マ? あのキモおじ達、ただのバグったピッチングマシンとして“ちょーゆーしゅー”ってコト?」】
どうぞお楽しみに!
――
「南無。」
「逝ってよし」
と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!
よろしくお願いいたします!




