「なっ……! 私、そんなふうに勧誘した覚えはありませんっ!――おう!」
今回から、第二部のスタートです!
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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「え? 蹴鞠保存会への挨拶……ですか?――ありっ」
一文字学園(二軍)との練習試合――そして八橋あやめが正式にサッカー同好会に入会して数日後の放課後のこと。
恒例の練習場となった校舎裏の寂れたバスケットコート。
菊鞠は、パス練習をしながら、牡丹からの提案に、怪訝な顔を浮かべる。
「ええ。わたくし達もとうとう11人。イレブンとして恥ずかしくなく、サッカーをできる環境になりました」
――ふわり。
パシュッ――。
菊鞠からのループパスを 即座に藤乃へと回す牡丹 。
「ですが、わたくし達はサッカー同好会の練習ばかりにかまけて、菊鞠さんとの交換条件だった蹴鞠保存会での練習を、きちんと果たしていないことに今更ながら気づきましたの」
そして「お恥ずかしいですわ」と言いながら、再び椛から回ってきたパスを満月へと送る。
「うーん……。――よう」
満月からの低いリターンを、ひまりは足首の甲でまるで磁石のように吸い付け、衣服を翻すようにフワリと中空の領域へとすくい上げた。
そのまま、世界の雑音をかき消すように《ぱしっ、ぽん》と優雅にリフティングを続けながら、どこか歯切れの悪い様子で視線を泳がせる。
「神酒盃くんにしては、ずいぶんと歯切れがよくないね」
172センチの長身から、綺麗なフォームでステップを踏む鹿戸椛が、悪戯っぽく目を細めて微笑む。
「前はもっと『蹴鞠! 蹴鞠! 蹴鞠――!』と、僕たちも少し引くくらいの猛烈な勢いだったのに」
「なっ……! 私、そんなふうに勧誘した覚えはありませんっ!――おう!」
焦って右足のタッチを乱すこともなく、ボールを中空でぽんと優しく弾ませたまま、顔を真っ赤にしてツッコむひまりに、周囲でパスを回していた『猪鹿蝶』の面々――牡丹、萩子、藤乃の視線が、ピタッと一箇所に集中した。
「……。」
(いや、自覚ないんかい)
見事なまでに心が一つになった戦友たちの無言のツッコミが入る。
「ちょっと! どうして黙っちゃうんですかっ!」
菊鞠の必死な様子に、皆が思わず噴き出した。
「あはは! でもがむしゃらに突っ走るのも悪くねぇと思うぜ! まぁ、 アタイはまた、大福もカレーも食えるなら、いつでも行くぜ!」
腹を叩きながら、萩子が豪快に笑う。
「小梅はどうする? 一緒に行こ?」
藤乃が柔和な笑みを浮かべながら小梅に聞くと、小梅は胸の前でもじもじと指を絡めながら「うち、藤乃ちゃんと一緒なら、どこにでもついてく……」と健気に頷いた。
――キュルルリィン!
その瞬間。夕暮れの寂れたバスケットコートの片隅で、恐ろしいほどのプレッシャー(宇宙)を孕んだ、聞き覚えのあるあの『覚醒の音』が鳴り響いた。
特徴的な長い前髪を震わせた目隠れボブ――幕ノ内桜と、種村カスミの二人が、まるでニュータイプのごとく同時に頭を跳ね上げ、背後でビクッと硬直していた。
「ねぇ、貴女たちも行きますわよね――って、どうしたんですの?どこか具合が悪いんですの?」
隣に立つ記録係たちの不審なシンクロに、牡丹が引きつった笑みで声をかける。
桜は前髪の奥の目を血走らせながら、「……幼馴染の『どこにでもついていく』宣言……見える、見えるわ……」と早口でぶつぶつ呟き、カスミは咥えたチャッパチュプスがプルプルと痙攣していた。
「だ、大丈夫なんよ……。ただの致命傷なんよ」
「それは大丈夫とは言いませんわ! 桜さんも帰ってきなさい!」
牡丹の鋭いツッコミが響き渡る。
「とにかく、菊鞠さん。――貴女が何を気になさっているかは存じませんが、わたくし達を不義理な者に貶めないでくださいまし。わたくし達は有言実行。そして行動は思い立ったが吉日、と申しますわ」
「そーだそーだ! “ケツは痒いうちに掻け”!」
「萩子さん……さすがに貴女、わざと間違えてますわよね?」
もう何度目かになる、ことわざを下品に間違える萩子を、ジト目で見る牡丹であった。
――そうして土曜日の夕方。
晴れて完全体となった八々花女子高サッカー同好会の面々は、ひまりの家である『菊堂神社』の鳥居をくぐっていた。
入母屋造の厳かな拝殿、そのさらに奥に佇むは、日本の神社建築の極致たる『流造』の本殿。
年月を経て、雅な【緑青】の青緑色に美しく染まった銅板葺きの屋根が、前方にしなやかな放物線を描いて長く伸びている。
本殿の屋根の頂点から、軒先へ向けてふわりと滑らかに、だけど最後はストンと重力に引かれて落ちるその美しい傾斜のラインは、ひまりがピッチで放つ《木の葉落とし》のロブパスの軌道そのもののようだった。
右足一本、無回転で蹴り上げられたその球は、放物線の頂点に達した刹那、風に舞う木の葉の如く不規則に揺れ、ブレ、相手ディフェンスの網の目を嘲笑うように真下へと消える。
総檜の素木が持つ落ち着いた茶褐色の佇まいの中で、要所を締めるのは、神域の不可侵さを象徴する【鮮烈な朱色の丹塗り(にぬり)】の柱と高欄。
迫る秋の夕陽の光を浴びて、朱塗りの手すりが静かに黄金色に燻り始める厳かな境内、――なのだが。
「――その。あれだけ勧誘をしておいて、いまさらこのように言うのもなんですが……蹴鞠保存会は魑魅魍魎の伏魔殿なので、お気を悪くしないでください……ね?」
皆が菊堂神社に集まってもなお、菊鞠の歯切れの悪さは変わらなかった。
「神酒盃さんをしてそこまで言わせるなんて、いったいどんなところなんだい?」
あまりの歯切れの悪さに、椛もいよいよ不安が募ってくる。
「それは、あちらの建物の……」
菊鞠が、本殿の東側、境内北東にある古びた建物を指さすと……。
――ガタガタッ、バァン!
「なんじゃあ、菊鞠ちゃん! お友達かぁ?」
その建物から魑魅もうり……いや、ステテコや薄汚れたジャージを適当にまとった爺さんとオッサンが、鼻の下を限界まで伸ばしてわらわらと出てきたのである。
刹那、彼らの目が、一斉にピチピチの女子高生の群れをロックオンした不気味なランタンのようにギラリと輝きだした――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回から第二部へと移りました。
次回予告――
蹴鞠保存会――。
そこは、魑魅魍魎(菊鞠・談)の巣窟だった!
次回、
【「なー、みかづきぃ。こいつら、鞠ぶつけていい?」】
どうぞお楽しみに!
――
「きららワールドじゃなかったのか……」
「ぐへへ」
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