入学式
入学式のシーン。
冗長に過ぎたかもしれません。
「皆さん。おはようございます。“開会の辞”。ただ今より、令和七年度八々花女子高等学校の入学式を執り行います。」
この学校の教頭先生だろうか。50歳代の、グレーのスーツを着た女性が講壇の傍らでマイクを持ってアナウンスをする。
「“入場”。皆様、ご起立のうえ、拍手をもってお出迎えください」
講堂の扉が開かれると、父兄からは万雷の拍手が鳴り響く。その拍手の中、クラス担任の教師に続き、Aクラスの生徒、そして副担任が講堂に入場し、所定の席まで移動する。
Aクラスに続き、Bクラス、Cクラス……と続き、Eクラスまでの5クラスの入場が完了する。
「国歌斉唱。」
スピーカーから国歌《君が代》の伴奏が流れる。
生徒、その父兄、そして教員一同が起立したまま、伴奏に合わせて国歌を歌う。
「皆さん、ご着席ください」
「続きまして、“入学許可宣言”。各クラス担任が名前を呼びましたら、返事をしてご起立願います。」
「Aクラス。相生有紀」
「はい!」
Aクラスの担任が出席番号順に生徒の名前を呼び、それに呼応して立ち上がる生徒たち。
「渡井ひとみ」
「はい!」
「以上、Aクラス40名。代表、相生有紀」
「はい!」
最後の一人まで読み上げると、出席番号1番の生徒が講壇へと上がる。講壇には校長らしき、白いスーツの年配の女性が控えていた。
「Aクラス、相生有紀。あなたを、八々花女子高等学校の栄えある100期生として認めます。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
校長先生が新入生に入学許可証を手渡す。Aクラスの代表となった相生有紀と呼ばれた生徒はそれを恭しく受け取ると一礼。他のAクラスの新入生もそれに倣い、一礼する。
相生がAクラスの列まで戻ると担任が着座を促す。次は菊鞠らのいるBクラスの番だ。
「Bクラス。在原愛海」
「はい」
Bクラス担任の松居が生徒の名前を読み上げ始め、呼ばれた生徒は立ち上がる。
「神酒盃菊鞠」
「はい」
Bクラスも後半の出席番号31番で菊鞠が呼ばれ、返事とともに立ちあがった。
「八橋あやめ」
「はい」
菊鞠が呼ばれて間もなく、出席番号38番のあやめが呼ばれ、返事をして立ちあがる。
「吉田紫音」
「はい!」
最後に出席番号40番の生徒が呼ばれて立ちあがる。
「以上、Bクラス40名。代表、在原愛海」
「はい」
代表となった、在原という生徒が講壇に上がり、入学許可証を受領する。一同、礼。
その後もCクラス、Dクラス、Eクラスまで繰り返された。
「以上、“入学許可宣言”を終了します。続きまして、学校長祝辞」
先ほど、新入生達に入学許可証を手渡した教師が再び講壇に立ち、一礼する。
「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。私は八々花女子高等学校校長の、膳所華です。今年、八々花女子高等学校は創立百周年の節目を迎えます。そして皆さんは、記念すべき一〇〇期生となります」
「1925年、大正十四年に久米花子先生によって久米高等女学校として新宿区に設立されました。以来、久米花子先生の教育理念『日本の子女にも、社会を構成する一員としての自覚を持たせる知識と教養を』でした。八々花女子高等学校は、その貴い理念に従い、多くの女生徒を受け入れ、教え、学び、時には歴史の変化にも順応しながら今日までやってきました」
「かく言う私自身も、この八々花女子高等学校の生徒でもありました。教員となり、母校への恩返しを、と考えた時に選んだのが教職の道でした。教員生活も30年になり、校長として皆さんを指導する立場となりました」
「大正時代、女性の社会進出を願い、その為の運動を続けてきた諸先生がたの想いが、当時は高等女学校の設立というひとつの形となりました。本校創立の翌年には、元号は大正から昭和に改元され、激動の時代に入ります。大正、昭和、平成、そして令和。この百年の間に、様々な出来事があり、そして女性の地位もまた、大きく変化していると痛感しております」
「女性の地位は、諸先生がたが運動を始めた当初から比べると飛躍的に向上した、と私見ながら感じております。しかし、社会というのは男女の両性の、両輪で成り立っている、とも思うのです。男性は男性のみに生きるにあらず。しかし、女性もまた、女性のみに生きるにあらず。両性が互いに尊重し、互助にあることこそが望ましい、と思っております」
「そして教育。教育もまた、学校教育のみにて帰結するのではない、とも思います。学校教育、そして御父兄の皆さんがた、ご家庭での教育。この両輪があって、お子さんの教育は成り立つべきだと思っています」
「本日、本校に入学を認められた200名の新入生の皆さん。本校で学び、家庭で学び、時には社会から学ぶこともあるでしょう。私たちが皆さんにご教授できるのは、学校教育は勿論のこと、社会や……ご家庭の悩み相談などにも対応できるようにしていきたいと考えています」
「本校は、皆さんの自主性を尊重します。しかし同時に、皆さんには国が定めた法律のほか、本校の校則にも則った規範的な高校生活を求めます。二律背反するように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。国や本校のルールに抵触しない限り。そして社会や家庭、クラスメイトに迷惑をかけない限り。皆さんの自主性を尊重します」
「最後になります。新入生の皆さん。どうか、実り多き高校生活でありますよう。祝辞を終わります。皆さん本日は本当に、おめでとうございます」
やや長い、校長の挨拶が終わり一礼をすると、講堂から拍手が起こる。その拍手を浴びながら、校長は講壇から下がる。
その後、来賓挨拶として八々花女子高等学校設立者の孫にあたる女性が挨拶。その後はむさしの市市長の祝電が紹介される。
「続きまして、“歓迎の挨拶”」
「はい」
青いリボンタイの生徒が返事をして立ち上がる。生徒会長だろう。彼女は講壇に立ち、一礼する。
「皆さん、改めまして、ご入学おめでとうございます。私は八々花女子高等学校の生徒会長を務めます、歩田小百合といいます。私たち八々花女子高等学校の生徒一同、皆さんのご入学を、心から歓迎いたします」
「さて。少し個人的なお話をします。私は小学生の頃、夏休みの自由研究で、“自由とは何か?”という研究をしました。私自身、言葉遊びのつもりでこのテーマを選びました。調べているうちに、こうも思ったのです。『自由とは、思いのほか不自由なのだな』と」
「聡い皆さんはもうお気づきでしょう。自由という言葉は、“自分の意に由しとする”、と書きます。では、皆さんが思い思いに自分の好きなように行動したとするでしょう。しかし、その思い思いの行動のなかには、犯罪行為は含まれるのでしょうか」
「ある意味では、“含まれる”とも言えます。しかし、その代償として刑法で裁かれたり、賠償を請求されます。法を犯していればそれに準じた違法行為として裁かれます。個人同士の諍いであれば、民法に則って賠償責任が発生します」
「もし、こうした違法行為や賠償責任から逃れようとするならば。それは自由ではありません」
「無法です」
「つまり、自由とは、自分の行動に責任を果たすこと。そして責任を果たせない、自分の裁量では負えない行動は自由ではない、ということ。世間一般で言われるほど、自由は自由ではないのだ、と思うのです」
「本校にも、校則はあります。先ほどの学校長の話の中で、生徒の自主性の話がありました。校則に反しない限り、皆さんの高校生活は自主性が認められています。また、校則にないものについては、私たち生徒会が、皆さんのサポートをし、より良い学校生活を送れるよう、約束します」
「それでは皆さん、高校生活を楽しんでください」
生徒会長が一礼すると、講堂から拍手が上がる。生徒会長はその拍手を背に、自分の席へと戻っていく。
「続きまして“新入生挨拶”。新入生代表、秋津和奏」
「はい」
Cクラスの、先頭に座っていた生徒が立ち上がって講壇に上がる。既に講壇の前に移動していた校長先生と向き合って、一礼。
「満開の桜が咲き、春の麗らかな陽気に包まれる今日、私たち八々花女子高等学校、第一〇〇期生を新入生として認められました。本日はこのように盛大な式典を用意して歓迎くださり、感激に堪えません。私たち一〇〇期生は、八々花女子高等学校の百年に渡る伝統の中で、初めて外部入学の生徒を迎え入れ、そして共にこの学び舎で生活していきます。女性が社会で活躍できるように御尽力くださった諸先生がたに感謝しつつ、私たち自身が社会の一員として活躍できるよう、高校生活で学んでいきたいと望みます。先生がた、先輩がた、お父さん、お母さん。どうかご教授ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。令和七年四月五日、新入生代表、秋津和奏」
新入生代表の秋津が校長先生に一礼すると、教員や二、三年生、そして父兄から拍手が上がる。拍手の中、秋津は席へと戻っていった。
「続きまして“校歌斉唱”。新入生は起立し、静聴してください」
講堂の生徒と教師らが立ちあがる。
やがてピアノの前奏が流れ、二、三年生と教師が歌い始める。
花の薫る武蔵野の
丘に集いし花たちよ
朝日を浴びて輝かん
青空仰ぎて咲き誇れ
あゝ
八々花の乙女よ
八々花の乙女よ 咲き誇れ
緑豊かな丘の上
風にそよぐは若草の
学び舎はここ八々花
風を背に受け萌えいぶけ
あゝ
八々花の乙女よ
八々花の乙女よ 萌えいぶけ
2番まで歌い終えると、ピアノの後奏で締めくくられる。
「“閉会の辞”。以上をもちまして、令和七年度八々花女子高等学校の入学式を閉会いたします。新入生が退出します。皆さま、拍手をもってお送りください」
入場の時とは逆にEクラスからD、C、B、Aと退出する。
そして再びBクラスの教室へと戻るのであった。
執筆に使っているパソコンが不調すぎて何度も書いている途中でシャットアウトしてしまうという……。