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「萩子さん貴女――いま手にしてる塩大福は、何かしら……?」

「マジで!? やったーーー! 蝶名林さま! あーし、一生ついていくっしょ!」


 狂喜乱舞するまつり。


 賑やかな声が響く大広間に、ふいに、食欲をそそる良い匂いがどこからともなく漂いはじめた。


「ん――? カレー?」


 萩子が鼻をヒクヒクさせた、まさに次の瞬間――。


グウウウゥゥゥ。


 彼女のお腹が、盛大に鳴り響いた。


「あー、カレーの匂い嗅いだら、急に腹減ってきちまった!」


「萩子さん貴女――いま手にしてる塩大福は、何かしら……?」


 牡丹が白い目を萩子に向ける。


「しゃーねーだろ! さっきは思っくそ走ったし。――ってか、お前らは腹減らねーの?」


 萩子がすでに四つ目となる塩大福に豪快に食いつきながら、大広間の皆を見回した。


「お腹が空いていないわけではないけれど。家までは我慢できないわけではないからね」


 椛が苦笑しながら、手元の緑茶に口をつける。


「オレたちは寮だしな。それに、柳が一人になる。――そういえば柳から連絡ないな」


――ピロン。


 千鶴がそう言ったタイミングを見計らったように、満月の鞄から軽快な通知音が響いた。


 満月は慌ててスマホを取り出し、画面を覗き見る。


「あ、柳さん……道風柳さんから『NINEナイン』です。病院終わったって。……今どこー? ってきてます」


「おっ、ナイスタイミングじゃん。今、菊堂神社にいるって送っといて」


 千鶴の指示に、満月は「はい」と素早く文字を打ち込んだ。


 それから、大広間で塩大福をみんなで突っつき合って、わずか十分ほど。ガラガラ。


 社務所の重厚な玄関が開く音が、静かな境内に聞こえた。


「ごめんください。八々花女子高等学校の教師をしております、三芳野咲桜里です」


「あっ、私、案内してきますね」


 菊鞠がすっと立ち上がり、出迎えのために玄関へと向かう。


 やがて、廊下をパタパタと歩く三つの足音が、大広間へと近づいてきた。


「――あら、皆さんこちらに集まっていたのね」


 ふすまを引いておっとりと微笑んだのは、八々花女子のジャージをきれいに着こなした新任の体育教師――獲得したばかりの顧問、三芳野先生だった。


 そのすぐ後ろから、腰まである二つ縛りの髪を揺らし、まだ少し足首を庇いながらも、道風柳がひょこりと顔を出す。


「柳さん! よかった、大したことなくて!」


 満月がお団子髪を揺らして真っ先に駆け寄ると、柳は普段の引っ込み思案な様子で「うん、満月ちゃん、ありがと……。三芳野先生が、車で連れてってくれたの……」と小さく微笑んだ。


「ええ、道風さんの足はただの軽い捻挫でした。しっかりお医者様に診てもらって、適切な診断書も頂いてきましたから、これで学校側への報告もバッチリです」


 そこまでを、新米教師らしい生真面目な口調できっぱりと言い切った三芳野先生。


 だが次の瞬間――


「――それで、外に停まってるあのスッゴい黒塗りの車、皆見た!? 何あれ、本物のリムジン!? 誰の車なの!?」


 さっきまでの『大人のルール』を語るキリッとした表情はどこへやら、新米教師の三芳野先生は目をらんらんと輝かせて身を乗り出してきた。


 その直球すぎる質問に、大広間の全員の視線が、スッと一人の少女へと集まる。


 視線を一身に浴びた牡丹は、手元に残った塩大福の粉を優雅に払い落とすと、ふいっと顔を背けた。


「わたくしの家の、ただの迎えですけれど……。何か問題でもありましたかしら、三芳野先生?」


「……はぇ?」


 三芳野先生はポカンと口を開け、ジャージ姿のまま完全にフリーズした。


「ちょ、蝶名林さんのお家って……もしかして、とんでもないお大尽だいじんなの……?」


「みよティー、蝶名林さまってば、高級化粧品会社(P&P)の社長令嬢なんだってさー! あーしらもさっきビビり散らかしたとこ!」


 まつりが自慢げに(自分のことではないのに)胸を張る。


「私、こう見えても八々花女子の卒業生(OG)なんですけどね……。私の在学中、周囲の『お嬢様』と言ったらお家にお庭があるレベルでしたよ。リムジンで送り迎えされるクラスは初めて見ました。……やっぱり我が母校、ちょっとポテンシャルが底知れないですね……」


 自分の顧問を務める生徒が本物の令嬢だと知り、先生はおっとりとした笑顔のまま、ツウと冷や汗を流した。


 そんな大人たちのやり取りを少し離れて見ていた柳は、くすぐったそうに小さく笑う。


「……みんな、もうすっかり仲良しなんだね」


 その呟きに答えるように、満月がお団子髪を揺らしてニッコリと頷いた。


「うん、柳さん。元・一文字の皆さんも、本当に良い人たちばかりで……。あ、そうだ。先生、これ」


 満月がちゃぶ台の上を指差す。


 そこには、これまで非認可だった元フットサル組の面々の名前も、サッカー同好会の『新規加入部員』としてきれいに書き並べられた、新しい部員名簿の申請書が置かれていた。


 三芳野先生は申請書を受け取ると、愛おしそうにひと通り目を通した。


「――ええ、これで再提出しておきますね。あら……」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

【「皆さんがこうして楽しそうにボールを繋いでいるのを見ていたら、先生、なんだか本当に『試合』をさせてあげたくなっちゃって」】


どうぞお楽しみに!


――

「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」

「サッカー同好会のドタバタが大好き!」

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