「一礼二礼三拍手だろ!」
「神社の参拝」という方法で、それぞれのキャラクターの性格の違いを表現してみました。
ページごとのタイトルについても、変えてみました。
これについても、投稿済みのページのタイトルを変更していく予定です。
「それでは、わたくし達は先に参拝を済ませてしまいましょう」
「あーし、参拝とかちゃんとやったことないんだけど、だいじょび……?」
少し不安そうに、首を傾げたのはまつり(明莉)だった。
伝統ある神社の鳥居や、拝殿の威厳に、少し気後れしているようだ。
すると──。
隣にいた萩子が、ガシガシとウルフカットの頭を掻いた。
これ以上ないほどのドヤ顔で、バチンと胸を張る。
「安心しろって、アタイ、こないだやったばかりだから知ってんぜ!」
「……」
「一礼二礼三拍手だろ!」
「萩子さん。間違った知識を、これ以上ないほどのドヤ顔で教えるのはお止めなさい」
牡丹は萩子に向けて、思いきりジト目を突き刺した。
直後──。
呆れ顔から一転、牡丹はまつりに向けて、お嬢様らしい気品のある微笑みを浮かべる。
「明莉さん、わたくしが一緒にお詣りしますので、どうぞ安心なさって」
すっと手を差し伸べる。
「わたくしの動きに合わせて、同じようにやれば大丈夫ですわ」
菊鞠に代わり、牡丹が皆を伴って、拝殿前の重厚な賽銭箱の前に立つ。
鈴の緒を揺らす木々のざわめきが、どこか厳かな空気を醸し出していた。
「わたくしの動きをよく見てらして。それを真似すればよろしいのよ」
牡丹は通学鞄から小ぶりの財布を取り出し、ふと指を止めた。
千円札を取り出そうとして──。
(いけないわ。ここで千円札を奉納しては、皆さん気後れなさいますわよね)
令嬢なりの配慮で、そっと小銭入れをひらく。
百円玉を取り出して、優しく賽銭箱に落とした。
カラン──。
涼やかな音が、吸い込まれていく。
ゆっくりと、優雅に。
およそ六十度の美しい角度で、腰を折る。
それを、二度。
胸の前で、しなやかに手を合わせると。
右手をわずかに下へずらし、控えめな所作で──。
ポン、ポン。
と、二度、拍手を打つ。
小さな動きに反して、芯のある澄んだ音が、静かな境内に響き渡った。
再び指先を揃えて、目を閉じる。
そのまま、数秒──。
(──わたくし達の新たな門出に、祝福がありますように──)
そっと手を放し。
最後にもう一度、ゆっくりと優雅に六十度のお辞儀をした。
一連の動作のすべてが、まるで一本の美しい映画のようだった。
「ほうっ……」
誰からともなく、感嘆の溜息が漏れ聞こえる。
張り詰めていた空気が、心地よく弛緩していった。
「はえ────っ! 蝶名林さん優雅っしょ! ハンパね────!」
その弛緩した空気を、がむしゃらに攪拌するように。
まつりが牡丹の洗練された所作を褒めちぎる。
「ふふ、ありがとうございます。皆さんも慣れてくれば、自然とこのような所作が出来るようになりますわよ」
牡丹は誇らしげに微笑んだ。
「──では、どうぞ今のわたくしの所作を手本に、皆さんも参拝くださいな」
促されて、まつり、椛、萩子の三人が並んで賽銭箱の前に立つ。
三人は一斉に財布を取り出すと。
一寸の狂いもなく、千円札に指をかけた。
そのまま──全く同じように、数秒間フリーズする。
それから、申し合わせてもいないのに、百円玉へと切り替えた。
チャリン、チャリン、と賽銭箱へ投げ入れる。
「──ちょっと待ちなさい!!」
そこまで完璧にトレースされるとは、夢にも思わなかったらしい。
「千円札を取り出そうとするところの『タメ』まで、真似る必要はございません!!」
牡丹は顔を真っ赤にして、慌てて訂正を入れた。
そんなツッコミを背中に受けながら。
まつりと萩子は、律儀にお辞儀を二度。
ただし、角度はちょっと頭を下げる程度。
胸の前で手を合わせると。
大きく両手を広げて、バン! バン! と豪快に手を叩く。
いや──萩子にいたっては、さらにもう一度多く。
バァン──!
と、力強く叩いてしまった。
「萩子さん! 三度も拍手する必要はありませんのよ!!」
後ろからの、牡丹の悲鳴混じりの注意をBGMに。
二人は大真面目に目を閉じる。
(TickTack、あーし自身の力でバズれますよーに。インフルエンサーになれますよーに!)
(高校サッカーで日本一!!)
一方で、椛はというと──。
さすがの身体能力というべきか。
牡丹の流麗な所作を完璧に再現するような動きで、滑らかに二礼二拍手を決めていた。
(この新しいチームで、上を目指せるように邁進します。──目指すは、全日本!)
長い背筋を美しく伸ばしたまま。
椛は他の誰よりも長く、静かに祈りを捧げていた。
──いや。
正確には「誰よりも長く」ではなかった。
椛が目を開けて一礼し、列から一歩下がった後も。
まだ賽銭箱の前から、一歩も動かない少女が一人。
元・神園学園のライトサイドハーフ。
薄満月だ。
満月はきっちり正確な九十度のお辞儀を二度繰り返すと。
胸の前で綺麗に手を合わせ、じっと目を瞑っていた。
その時間が、あまりにも長い。
(神様、このたび、神園学園から八々花女子に編入いたしました、薄満月です)
(本日は怪我もなく、無事に試合を終えられたことを感謝いたします)
(どうか、大広間で眠っている桐子さん──鳳桐子さんの体調が、少しでも和らぎますように)
(柳さん──道風柳さんの足の怪我が、大したものではないのを願います。そして、早くよくなりますように)
(それから、新しく一緒になったサッカー同好会の皆さんと仲良く、怪我なく、つつがなく女子高校サッカーを戦い抜けますように)
(あ、それと、今日の試合で私のパスが一本ズレてしまったので、明日からの朝練でトラップの角度を修正します)
(あと実家の猫のムンが──)
真面目な性格が、完全に災いしていた。
神様への報告。
仲間へのお願い事。
そして、本日の試合のガチ反省会。
すべてを頭の中で始めてしまい、祈りが終わる気配が全くない。
「……ちょっと、薄さん。長いですわよ。あなた神様とオンラインで対話でもしてらっしゃるの?」
しびれを切らした牡丹が、後ろから小声でツッコミを入れる。
「ひゃいっ!? す、すみません!」
我に返った満月は、自慢のお団子髪を激しく揺らしながら。
慌てて、きっちり九十度のお辞儀をして戻ってきた。
そのオドオドとした様子を、少し離れて見ていた猪目萩子。
首の後ろをガシガシと掻きながら、ぶっきらぼうに声をかけた。
「お前、真面目すぎ。神様もそこまで細かく聞かされたらビビるんじゃねぇの?」
「……」
「……でも、まぁ」
萩子はふいっと、視線を少し斜め上にそらす。
照れ隠しのように、言葉を続けた。
「……さっき病院行った、道風だっけ? あいつの捻挫、大したことないといいよな」
「え──」
「右サイドで切り込んでいくあいつのドリブル、マジでスゴかったしな。馬鹿みたいに突っ込んでいくだけのアタイには、あんな芸当できねーもん」
「あ……。ありがとうございます、猪目さん」
満月は驚きつつも、どこかホッとしたように、小さな笑みを浮かべた。
「柳さん──道風さんは強いから。きっと明日には、ケロッとしてると思います」
二人の間に流れる、まだ少し硬い。
けれど、確かなリスペクトの空気。
それが、境内の清々しい風に優しく溶けていく。
こうして。
主力メンバーの参拝が、一段落した。
──そして、最後に残されたのは。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【(神様、今日はウチにこんな役得をくださり、マジでありがとうございました。南無南無)】
残る参拝はあの二人!
……あの、二人!?
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
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