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「非認可の同好会との野良試合なんて、今日この場所にあったかしら?」

 サッカー同好会とフットサル同好会の死闘(?)。


 部活動の認可――。

 あるいは顧問の三芳野先生を巡って繰り広げられたそれは。


「サッカーでもフットサルでもケマリでも、なんでもよくね?」


 という、明莉あかりまつりのお気楽な一言もあってか、

 ピッチ上の少女たちの間には、不思議な結束力が生まれつつあった。


「はい、これでひとまず応急措置はおしまい」


 先ほどまでギャルに流されてわたわたしていた姿から一転。

 三芳野先生は体育教師らしく、実に見事な手際で柳の腫れ上がった足首にテーピングを巻き終えた。


「念のため、これから病院に行って診てもらいましょうか」


 三芳野先生の言葉に、誰からともなく安堵の声が漏れる。


「みよティー、マジ神じゃん! 的確すぎて推せるー!」


 明莉まつりがスマホのカメラを向けてはしゃぐ。


「あ、あはは。ありがとう、明莉さん。でも、まだ油断は禁物だからね」


 新任の若き教師は照れくさそうに頬を掻きながらも、すぐに真剣な表情に戻って柳の足を気遣った。


「あの……その、私の実家の神社の、お祖母ちゃんの秘伝の薬(塗り薬)があるんだけど……」


 そこへ、菊鞠が、おっとり上品に割り込んだ。

 秘伝の薬をダシに、五光のメンバーを取り込もうというド黒い打算だ。


「んー。神酒盃みかづきさん、お気持ちはありがたいのだけどね」


 しかし、三芳野先生はきっぱりと首を振った。


「顧問としては、ちゃんと道風さんを病院に連れて行って、適切な診断書を貰って、学校側にしっかり報告しないといけないの」


「それが、大人の――先生としてのルール」


 ――柔らかく。

 それでもきっぱりとした声で、新米教師は言った。


「けれど先生、あれは校則に違反した、非認可の同好会との秘密の野良試合(決闘)で……」


(学校に報告したら、皆様がペナルティを食らってしまうのでは……)


 言外に菊鞠がすまし顔のまま正論で食い下がるが、しかし。


「あら。非認可の同好会との野良試合なんて、今日この場所にあったかしら?」


「 ――私が見ていたのは、正式に認可された『サッカー同好会』の新メンバー同士による、親睦を深めるためのフットサル形式の紅白戦れんしゅうよ?」


 三芳野先生は悪戯っぽく唇に人差し指を当ててみせた。


「違ったかしら?」


 夕陽に照らされた瞳が、大人の優しさを帯びて細められる。


「――っ」


 その場にいた全員が、ハッと息を呑む。


『まだ同好会が未提出だからこそ、ただのボール遊びと言い張れる』


 生徒指導室での一幕。

 松居先生が言っていた起死回生の伏線を。

 この新任顧問は一瞬で「公式の練習試合」へと鮮やかにロンダリング(隠蔽)した。


「……あはは、まいったな」


 千鶴の肩に寄りかかった桐子は――。


「三芳野先生、最高に話のわかる顧問ボスじゃないか」


 本当に楽しげな笑みを、夕日の下に咲かたのであった。


「ふふっ――」

(……やれやれ。これでは、私の特効薬をダシにした計画が完全に空振りじゃないですか)


 チッと内心で舌打ちをしながらも。


 自分たちを守ってくれた新しい顧問の『大人の包容力』に心地よい微笑みを返すのだった。



「それじゃ、私は道風みちかぜさんを病院に連れて行って、それから自宅まで送るわね」


 駐車場に駐めてあった、MISSANの可愛らしい桜色の軽自動車の運転席。


「貴女たちは、遅くならないうちに寄り道しないで帰るのよ」


 三芳野先生が今日、顧問としての挨拶をする。


「――また、ね」


 助手席の柳も、窓から小さく手を振ってみせた。


 校門を走り去っていく桜色の軽自動車をみんなで見送ったところで、


「さて。それでは、神酒盃みかづきさん」


 鳳桐子がゆっくりと振り返った。


「君の実家だという神社、ここから近いんだろ?」


 夕日に、長い天然パーマの髪を透かせ、桐子が不敵に笑う。

 5分間の限界を迎えて身体の軸はまだガタガタなはず。


 だが、その瞳には王者の不屈の輝きが灯ったままだ。


「え、ええ。そこの坂を登れば、すぐですが……でも鳳さん、お身体を大事にしたほうがいいのでは?」


 菊鞠はおっとり心配そうな顔を作りつつも



「ああ。負けたら蹴鞠保存会に入る。そう約束したからね。――口約束だけに終わらせたくないんだ」


 菊鞠をしっかりと見据え、桐子は強く語る。


「――!」


 この言葉に、菊鞠は目を見張る。


「それに言うだろう? 鉄は……」


「ケツは痒いうちに掻け!」


 猪突猛進の脳筋少女――

 猪目萩子が、桐子の言葉に凄まじい勢いで被せる。


「それを言うなら、“鉄は熱いうちに打て”だと、前にも言ったでしょう……」


 牡丹が額を押さえて呟くと。


 周囲から、軽く笑いの声が起きる。


(――私、サッカーが嫌いだって思っていたけれど)


(こんなに気持ちの良い人達がいるのなら、好きになれるの、かな?)


 新しい仲間たちの笑顔に囲まれ、菊鞠は独りごちた。


「―――鳳さん、菊堂神社に向かわれるなら、どうぞわたくしの家の送迎の車にお乗りくださいな」


 牡丹がブレザーのポケットから優雅にスマートフォンを取り出し――

 画面を数回タップする。


「それなら少しは移動も楽でしょう?」


 校門の向こうから、黒塗りの高級リムジンがスーッと滑り込んできた。

 それはまるで映画のワンシーンのようだ。


「は?」


「送迎車……?」


 あまりのスケールの違うお嬢様パワー。

 桐子たち新規メンバーはポカンと口を開けて驚愕する。


「圧倒的なまでのお嬢様パワー……」



 あんぐりと口を開けたカスミはというと。

 チャッパチュプスを思わず口から落としそうになっていた。


「――大優勝、なんよ……」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

【(う、動く部屋なんよぉ……!)】


どうぞお楽しみに!


――

「三芳野先生いい匂いしそう!」

「ママァ……」

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