↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
31/101

「サッカーとフットサル? っていうの? あとケマリ?何が違うん?」

 ラスト一分。


 武家の血脈が目覚めた最強のレジスタに率いられたサッカー同好会。

 絶対の王者を完全にハメ殺しにするための――。

 怒涛のラストカウンターへと弾け飛ぼうとした、その瞬間。


「いや。終わりだ。アタシたちの負けだ」


 夕日の差し込むピッチの真ん中。

 長く伸びる影を背に、ポツリとつぶやく桐子の声が響いた。


 その言葉に、全員の視線が桐子へと集まる。


 今までの、猛禽類のような獰猛さが綺麗に抜け落ちていた。どこか消沈した様子の鳳桐子が、静かに首を振って、敗北を認めていた。


「きりさん……っ!」


 その言葉を合図にしたかのように。

 フットサル同好会の皆が一斉に、彼女のもとへと駆け寄る。


 守護神の松明千鶴が、その大きな体躯たいくで優しく包み込むようにして──。

 動けない桐子の身体を、しっかりと支えた。


「サンキュー、ちづさん」


 桐子が、かすれた声で感謝を口にする。


 その胸には、言葉少なな道風柳が顔を埋めていた。

 ふるふると、小さく首を振る。


 5分という制約を抱えたエースを、支えきれなかった──。

 仲間たちの居場所(認可)を守れなかったという、切ないストライカーの悔し涙。


──だが、桐子はそんな柳の様子が、どこかおかしいことに気づいていた。


「―――柳。あんた、足見せてみな」


 嫌がって首を振る柳。

 そんな彼女を、無理やりアスファルトの上に座らせる。


 そして。

 彼女の運動靴スニーカーを丁寧に脱がせた――。


 まさに、その瞬間だった。


(……え、嘘でしょ──!?)


 全員が息を呑んだ。靴下を脱がせた、柳の右足。

 その足首は──痛々しいほど真っ赤に、パンパンに腫れ上がっていた。


「柳、あんた……っ」


 桐子の声が、微かに震える。

 その瞳が、柳の足首に釘付けになっていた。


「さっきのフェイント(燕返し)で、軸足に無理やり負荷をかけたろ。───ったく、アレは、こんなアスファルトの上で無茶に使う技じゃないだろ……!」


「ん……」

 痛みに顔をしかめながらも。

 柳は短い言葉で、ぽつりと本音を漏らした。


「でも、桐ちゃん、動けない、から……」


「……」


「柳が、獲らなきゃ、って……」


 言葉は少なくとも、その腫れ上がった右足こそが。

 動けないエースのために死に物狂いでアスファルトの上をはしっていた、彼女の不器用で熱い忠誠の証だった。


「ひ、ひええええええええっ!?」


 ベンチから、みよティーこと三芳野先生が飛び出してくる。


 「体育の先生として、これは見過ごせませんっ! アイシング! 今すぐ冷やして固定しなきゃダメだよぉ!」


 新任体育教師としての本能を思い出したように、オロオロと駆け寄る先生。


 その横で──。


「んー。あーし思ったんだけどさ」


 ずっとスマホを構えていたまつり。

 彼女が、のんびりとした声をピッチへと発した。


「サッカーとフットサル? っていうの? あとケマリ?何が違うん?」


 スマホから視線を上げ。

 皆のほうに向き合いながら、ひと言。


「もう、どれも一緒でよくね?」


 あまりにもフランク。

 そして、あまりにも純粋な、お祭りギャルならではの境界線のない一言。


「あ。」


 その瞬間、コートにいた全員が同時に声を漏らす。


 別に、サッカーにこだわる必要もなく。

 フットサルに拘る必要もなく。

 蹴鞠に拘る必要もなく。


 この最高のメンバーで。

 『蹴球しゅうきゅう』にまつわる全ての楽しさに、全力で関わればいいのだ、と。


「……あはは、本当にまいったな」


 最初に言葉を発したのは、桐子。

 ポリポリと頭を掻き、まつりに向き合う。

 

「そうだね、明莉さんの言う通りだ。アタシたちがやりたいのは、大人のルールに縛られることじゃない」


 自分に肩を貸す千鶴。

 心配そうに見つめる満月と桜。

 新米教師から、アイシングを受ける柳。 


 そして、今日――。

 お互いの意地をかけて戦った、サッカー同好会。


「ただ、この仲間で、楽しくボールを蹴ることだ」


 桐子が、今度は本当に心からの『楽しげな本物の笑顔』を夕日の下で咲かせた。


「鳳さん」


 菊鞠が一歩前に出る。


「我が『菊堂神社』には、捻挫によく効く特製のシップと、おばあちゃん特製の緑茶があります」


 満面の優しい「おもてなしの微笑み」を浮かべた。


「三芳野先生のアイシングのあとは、全員揃って我が神社へお越しください」


 そんなおっとりとした笑顔のなか。

 菊鞠の内心では、どす黒い打算が渦巻く。


(――治療の対価、そしてこれからの私たちの新しい居場所の門出として、こちらの『蹴鞠保存会』の入会届には、皆様揃って自筆のサインをいただきますけれどね)


「そうだな。喜んで書くよ。……よろしくね、アタシたちの、新しいレジスタさん」


 桐子は不敵に、口角を吊り上げる。


「ええ、優雅に、そしてお祭りのように賑やかに、宙空のすべてを支配します!」


 それに釣られ――。

 菊鞠もまた不敵な笑みを返すのだった。




「ふおおおお!大優勝なんよ!」


「大優勝、間違いなし、なんよ!!」


 カスミが興奮のあまり長いカーディガンの萌え袖を千切れんばかりに振り回す。


ピピピピ、ピ、ピィーーーッ!!


 口元のホイッスルをマヌケに震わせた。

 それは、新しい歴史の幕開けを告げるかのように、夕空へと高らかに鳴り響くのだった――。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


次回予告――

【「非認可の同好会との野良試合なんて、今日この場所にあったかしら?」】


次回から新章の幕間になります。


どうぞお楽しみに!


――

「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」

「サッカー同好会のドタバタが大好き!」

と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。