「サッカーとフットサル? っていうの? あとケマリ?何が違うん?」
ラスト一分。
武家の血脈が目覚めた最強のレジスタに率いられたサッカー同好会。
絶対の王者を完全にハメ殺しにするための――。
怒涛のラストカウンターへと弾け飛ぼうとした、その瞬間。
「いや。終わりだ。アタシたちの負けだ」
夕日の差し込むピッチの真ん中。
長く伸びる影を背に、ポツリとつぶやく桐子の声が響いた。
その言葉に、全員の視線が桐子へと集まる。
今までの、猛禽類のような獰猛さが綺麗に抜け落ちていた。どこか消沈した様子の鳳桐子が、静かに首を振って、敗北を認めていた。
「きりさん……っ!」
その言葉を合図にしたかのように。
フットサル同好会の皆が一斉に、彼女のもとへと駆け寄る。
守護神の松明千鶴が、その大きな体躯で優しく包み込むようにして──。
動けない桐子の身体を、しっかりと支えた。
「サンキュー、ちづさん」
桐子が、かすれた声で感謝を口にする。
その胸には、言葉少なな道風柳が顔を埋めていた。
ふるふると、小さく首を振る。
5分という制約を抱えたエースを、支えきれなかった──。
仲間たちの居場所(認可)を守れなかったという、切ないストライカーの悔し涙。
──だが、桐子はそんな柳の様子が、どこかおかしいことに気づいていた。
「―――柳。あんた、足見せてみな」
嫌がって首を振る柳。
そんな彼女を、無理やりアスファルトの上に座らせる。
そして。
彼女の運動靴を丁寧に脱がせた――。
まさに、その瞬間だった。
(……え、嘘でしょ──!?)
全員が息を呑んだ。靴下を脱がせた、柳の右足。
その足首は──痛々しいほど真っ赤に、パンパンに腫れ上がっていた。
「柳、あんた……っ」
桐子の声が、微かに震える。
その瞳が、柳の足首に釘付けになっていた。
「さっきのフェイント(燕返し)で、軸足に無理やり負荷をかけたろ。───ったく、アレは、こんなアスファルトの上で無茶に使う技じゃないだろ……!」
「ん……」
痛みに顔を顰めながらも。
柳は短い言葉で、ぽつりと本音を漏らした。
「でも、桐ちゃん、動けない、から……」
「……」
「柳が、獲らなきゃ、って……」
言葉は少なくとも、その腫れ上がった右足こそが。
動けないエースのために死に物狂いでアスファルトの上を疾っていた、彼女の不器用で熱い忠誠の証だった。
「ひ、ひええええええええっ!?」
ベンチから、みよティーこと三芳野先生が飛び出してくる。
「体育の先生として、これは見過ごせませんっ! アイシング! 今すぐ冷やして固定しなきゃダメだよぉ!」
新任体育教師としての本能を思い出したように、オロオロと駆け寄る先生。
その横で──。
「んー。あーし思ったんだけどさ」
ずっとスマホを構えていたまつり。
彼女が、のんびりとした声をピッチへと発した。
「サッカーとフットサル? っていうの? あとケマリ?何が違うん?」
スマホから視線を上げ。
皆のほうに向き合いながら、ひと言。
「もう、どれも一緒でよくね?」
あまりにもフランク。
そして、あまりにも純粋な、お祭りギャルならではの境界線のない一言。
「あ。」
その瞬間、コートにいた全員が同時に声を漏らす。
別に、サッカーに拘る必要もなく。
フットサルに拘る必要もなく。
蹴鞠に拘る必要もなく。
この最高のメンバーで。
『蹴球』にまつわる全ての楽しさに、全力で関わればいいのだ、と。
「……あはは、本当にまいったな」
最初に言葉を発したのは、桐子。
ポリポリと頭を掻き、まつりに向き合う。
「そうだね、明莉さんの言う通りだ。アタシたちがやりたいのは、大人のルールに縛られることじゃない」
自分に肩を貸す千鶴。
心配そうに見つめる満月と桜。
新米教師から、アイシングを受ける柳。
そして、今日――。
お互いの意地をかけて戦った、サッカー同好会。
「ただ、この仲間で、楽しくボールを蹴ることだ」
桐子が、今度は本当に心からの『楽しげな本物の笑顔』を夕日の下で咲かせた。
「鳳さん」
菊鞠が一歩前に出る。
「我が『菊堂神社』には、捻挫によく効く特製のシップと、おばあちゃん特製の緑茶があります」
満面の優しい「おもてなしの微笑み」を浮かべた。
「三芳野先生のアイシングのあとは、全員揃って我が神社へお越しください」
そんなおっとりとした笑顔のなか。
菊鞠の内心では、どす黒い打算が渦巻く。
(――治療の対価、そしてこれからの私たちの新しい居場所の門出として、こちらの『蹴鞠保存会』の入会届には、皆様揃って自筆のサインをいただきますけれどね)
「そうだな。喜んで書くよ。……よろしくね、アタシたちの、新しいレジスタさん」
桐子は不敵に、口角を吊り上げる。
「ええ、優雅に、そしてお祭りのように賑やかに、宙空のすべてを支配します!」
それに釣られ――。
菊鞠もまた不敵な笑みを返すのだった。
「ふおおおお!大優勝なんよ!」
「大優勝、間違いなし、なんよ!!」
カスミが興奮のあまり長いカーディガンの萌え袖を千切れんばかりに振り回す。
ピピピピ、ピ、ピィーーーッ!!
口元のホイッスルをマヌケに震わせた。
それは、新しい歴史の幕開けを告げるかのように、夕空へと高らかに鳴り響くのだった――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「非認可の同好会との野良試合なんて、今日この場所にあったかしら?」】
次回から新章の幕間になります。
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
「サッカー同好会のドタバタが大好き!」
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