「あと一分で──放課後のチャイムなんよぉぉぉ!!」
「──鳳さん」
「貴女のその、二年間の絶望も」
「五分間の限界も」
「すべて、私の『空』に預けてくだされば──」
「何の問題も、ありませんよ?」
その言葉は、夕陽が照らすアスファルトに、優しく染み込んでゆく。
「……え?」
桐子がハッと顔を上げた瞬間──。
菊鞠の足元から。
ふわり。
と、重力を無視した浮き球が放たれた。
この試合で一番優しく。
一番、美しい。
五光の頭上を優雅に越えていく、完璧な放物線の『おもてなしのパス』。
――そこへ。
三年分のすべての想いを乗せた──鹿戸椛が、弾丸のように走り込んでいた。
(いけ、鹿戸さん……!!)
「───しまっ……!!」
鉄壁のはずのゴール前を、思わず離れてしまっていた松明千鶴。
桐子を思うあまりの行動。
そして、追加点を得て油断した、強者の驕りが災いした。
己の決定的な失態に気付き、必死に引き返そうとする。
だが──
無情にも、その手は届かない。
ダンッ──!
アスファルトのコートが、激しく震える。
椛の、三年分の執念を乗せた。
強烈なダイレクトボレーシュートが、放たれた。
ズバウウウゥゥゥゥッッッ──!!
フットサル同好会側の簡易ゴールネットに。
悲願の同点弾が、鋭く突き刺さった。
ピッ、ピピィ────ッ!!
(鹿戸パイセンが、決めたぁぁぁ!)
カスミが興奮のあまり、長いカーディガンの萌え袖を激しく振り回す。
同点ゴールを告げる笛の音が、夕暮れの中庭に高らかに鳴り響いた。
二対二。
ついに──新生サッカー同好会が、絶対王者の背中を完璧に捕らえた。
沸き立つコートの真ん中で。
ゆっくりと、椛が振り返る。
片手を、そっと胸に当て。
片足を、美しく後ろへと引き──。
夕日を浴びながら、深々と頭を下げる。
まるで大劇場の千秋楽さながらに。
優雅な『ボウ&スクレープ』を、完璧に決めてみせた。
すべての観客──。
そして、極上のパスをくれた菊鞠へと捧げる。
気高きストライカーからの、最高の敬礼。
「素晴らしい弾道だったよ、神酒盃くん」
ふっと顔を上げた椛が、真っ直ぐに視線を送る。
「……君のパスは、本当に世界一優しいね」
おっとりと微笑み返す、菊鞠。
──だが。
試合時間は、まだ終わっていない。
ピピピピッ!
「あ、あと一分なんよ!」
お騒がせ審判のカスミが、がたがたと萌え袖を震わせながら叫ぶ。
「あと一分で──放課後のチャイムなんよぉぉぉ!!」
放課後のチャイム。
それはすなわち、この激闘の「試合終了」を意味する。
「……くそっ!」
膝を突き、俯く鳳桐子。
前髪の隙間から、血が滲むほどに奥歯を噛み締める様子がうかがえた。
動けないエースを背負った、元強豪校の四人。
同点に追いつかれたプライドを懸け。
この最後の一分間に──すべてを賭けてくる。
(もう一点──っ!)
おっとり澄ました顔の菊鞠。
しかし心の内では、黒い情熱を滾らせてい
た。
(二対二の引き分けのまま終わらせてしまっては、勝ったとは言えないわ)
(――蹴鞠保存会の発展のため、その礎になっていただきますっ)
「椛さん、萩子さん、牡丹さん」
「……私たちの『本当の空中戦』、最後に皆様へ盛大にお見舞いして差し上げましょう!」
「おうよっ! 最後の一点、アタシがぶち抜いてやんよ!」
「ふん。最後まで華麗に、キメて差し上げますわ!」
ラスト一分。
武家の血脈が目覚めた最強のレジスタに率いられたサッカー同好会。
絶対の王者を完全にハメ殺しにするための――。
怒涛のラストカウンターへと弾け飛ぼうとした、その瞬間。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「サッカーとフットサル? っていうの? あとケマリ?何が違うん?」】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
「サッカー同好会のドタバタが大好き!」
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