「神酒盃さん、一瞬で狩る!」
「ピッ!」
絶望的だった二対〇の状態から、一点取り返したことでサッカー同好会は一気に活気づいた。
審判を務めるカスミのホイッスルにも、その感情が表れていたのか、僅かに力強く感じられる。
―――審判が私情を挟まないで欲しい。
「柳。アタシらの速攻は、そう易々と破れない。いつも通り、食い破ってこい。アタシがゴール前で待ってる」
桐子は柳の肩を抱き寄せて伝える。柳はコクコクと頷くと、
「ん!」
と拳を突き出す。
「おう。行くぞ!」
コツン、と拳を合わせ、二人は相手―――サッカー同好会の陣地へと駆け出す。
ボールをキープするのは柳。
ドリブルとは思えないスピードでアスファルトのピッチを駆け上がっていく。
「二度目を許すと思うかい?」
すかさず椛が長い手足を活かして柳の進路を阻む。
先ほどアンクルブレイクさせられた雪辱を果たすべく、気迫に満ちたブロックだ。
「審判!ファウルではないのか!」
椛の強烈なショルダーチャージにたたらを踏んだ柳。
それを見かねた桐子が、コートの端の杏を鋭く睨んで叫んだ。
ピピピピピ……。
「肩で当たっていってたから、これは許容範囲なんよ」
限界オタクとして涎を垂らしそうになりながらも口元のホイッスルを震わせるカスミ。
ルールブックを暗記した頭で冷徹なジャッジを言い放つ。
審判が私情を挟まないで欲しいが、さすがに今回は見事な正論だった。
「ちっ……!」
桐子は苛立ちを隠そうともせず、椛とカスミを交互に睨みつけ。
「来い。柳!」
柳へと視線を戻す。
柳はたたらを踏むが、スピードは落ちる気配もない。
さすが、【飛燕】の二つ名を冠するだけのことはある。
ローツインテールを激しく靡かせて、椛の進路妨害を強引にすり抜ける。
「させませんわ!」
その進路上を牡丹がカバーする。
「かつて一文字学園のボランチを任されていた、わたくしのプライドを賭けて、ここは意地でも止めてみせます!」
縦ロールを揺らし、気高き中盤の底の意地を見せる牡丹。
椛の横を強引にすり抜けようとした柳は、完全に進路を断たれ、アスファルトの上で無理やり凄まじい鋭角ターンを敢行した。
「ッ!」
体育館履きのスニーカーでのその無理なターンが祟たたったか、柳は僅かに顔を顰しかめる。だが、それでも彼女の突進は止まらない。
しかし、これ以上の突破は不可能と判断した柳は、ターンした勢いのまま、ピッチの最後方にポツンと佇んでいたジャージ姿の菊鞠に向けて―――
バシュウッ!
意表を突く、強烈なグラウンダーのパスを突き刺してきた。
――いや、それはパスではない。
初心者の足元へ意図的に悪球をぶつけ、コントロールミスを誘って即座に狩り取る、神園という強豪校のレギュラーを張ったエリートならではの冷徹な『ハメ技(罠)』だ。
「神酒盃さん、一瞬で狩る!」
柳がボールをぶつけたその刹那、呼吸を合わせるまでもなく、バックパスの軌道を完璧に読んでいた鳳桐子が、鋭い牙を剥いて自ら猛然と突っ込んでいく。
コントロールを乱した瞬間のこぼれ球を一瞬でかっさらい、そのまま三点目を引きずり出す―――!
――絶対王者のファンタジスタ自らが、新星レジスタである菊鞠の秒殺(ボール強奪)へと直行してきたのだ。
菊鞠に向けて、猛然と突進してくる桐子。
(―――なんで!?なんで私にボール寄越してくるのよ!?)
桐子と柳が、初心者ニュービー狩りの為に敢えて菊鞠に向けて悪球を放ったのだが、そんな高等戦術を、初心者ニュービーの菊鞠が知る由もない。
突進してくる桐子。
だが、坂東武者・朏家の矜持に目覚めた菊鞠には、そんなもの、怖くない!
なおも近づく桐子。
―――怖くない!
獲物を狙う、猛禽類のようなギラついた目が菊鞠を射抜く。
―――やっぱ怖い!
だが、桐子は見誤っていた。
神酒盃菊鞠という少女。
サッカーもフットサルも初心者ニュービーではある。
しかしながらそれは、彼女が足で鞠ボールを自在に操れないことと同義ではない、ということ。
「おうっ!」
凛とした請い声を上げると、菊鞠を射抜かんとばかりに蹴り出されたボールに足を添える。
――ふわっ。
次の瞬間、突進してきた桐子と柳の目の前で、ピッチに奇妙な「完全消音」の静寂が再び訪れた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「予測のすべてが、すり抜ける……っ!」】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
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