「どーけーよー! 轢ーくーぞー、※すぞおぉぉぉーー!どーかーんーと◯ーぬーぞー!!」
ピッ……ピ、ピッ…ピピッ!
未だに桐子(雲上人)から声をかけられた衝撃から立ち直りきれていないカスミによる、なんとも締まらない電子ホイッスルを合図に、二年越しの宿命の勝負が始まった。
「さぁ。ショータイムと行こうじゃないか」
ホイッスルと同時――。
椛が華麗に、前の方へと大きくボールを蹴り出す。
「しゃあああああぁぁぁぁ! やっべえ、やってやんよ!」
弾かれたように飛び出したのは、萩子だ。
一瞬にしてその猛烈な弾道に追いつくと、速度を一切落とすことなく、アスファルトの上を真っ直ぐに敵陣ゴールへと突き進む。
「うひょおおおおぉぉぉぉ! キックオフで大きく蹴り出した鹿戸パイセンのあの高速パスに追いつく! 猪目パイセン、脚力半端ないんよ! 普通そんなんできひんよおおおおぉぉぉ!」
「ちょっと種村さん! 真面目に審判をなさい!!」
萩子の獰猛なスタートを見てようやくオタクから正気に戻ってきたカスミが、興奮のあまり長いカーディガンの萌え袖をブンブンブンブンと振り回して絶叫し、すかさずそんなカスミを牡丹が叱りつける。
「行っくぜえええぇぇぇぇ!」
萩子の弾丸ドリブルの破壊力は、名門・一文字学園の全盛期から全く衰えていない。
いや、高校に入り、よりその重戦車のような凄みが増したとも言える。
「どーけーよー! 轢ーくーぞー、※すぞおぉぉぉーー!どーかーんーと◯ーぬーぞー!!」
お嬢様学校の構内だというのに、まるで某名鉄のミュージックホーンさながらの物騒でけたたましい警笛(叫び声)を上げながら、レールの上を爆走する特急列車のごとく愚直にピッチ(バスケコート)を突き抜けていく。
―――だが。
「――単調すぎ」
「あ――?」
萩子の視界の脇に、冷徹な黒い影が入り込んだかと思った次の瞬間には。
蹴り出すつもりでいたボールが、跡形もなく消え去っていた。
特急列車、一瞬にして完全停止。
振り返ると、そこには目隠れ黒髪の少女――神園がかつて誇った3番――パスカットの天才・幕ノ内桜が、「まず、仕事はした」とばかりに涼しい顔で佇んでいた。
奪われたボールは、すぐ後方に控えていたお団子頭の少女――薄満月の足元へと正確に収まる。
満月はそれを完璧なワンタッチでトラップすると、サッカー同好会の守備エリアのDFラインの裏、ゴール前の誰もいない広大なスペースへ向けて、ピンポイントの浮き球を大きく蹴り上げた。
「わたくしが拾いますわ!」
不意を突かれながらも、フリーになったボールに向かって猛然とダッシュをかける牡丹。
しかし――牡丹がボールへ到達するよりも遥かに速い、ただ一つの『圧倒的な影』が、一瞬にして牡丹の真横を鋭く駆け抜けた。
ズバァァァンッ!!
アスファルトの上に設置された簡易ゴールのネットが、引きちぎれんばかりの勢いで激しく揺れる。
「―――な!?!?(速すぎますわ……!)」
あまりにもありえない超次元の神速カウンターに、牡丹は驚愕のあまりその場で目を見張った。
「―――まずは、一点。かな」
前髪を揺らしながら、鳳桐子がふっと不敵な笑みを浮かべ、高く右手の人差し指を突き上げた。
大事故の重傷から二年。
血を吐くようなリハビリを戦い抜いてきた伝説のファンタジスタ。
最初の五分間だけ全盛期の牙を剥く彼女のストライカーとしての華が、夕日のコートの中でギラギラと獰猛に輝いていた。
キックオフからわずか数秒。
それも、「君たちのほうが人数も少ないし、こちらは挑戦者側だから」とキックオフの先攻を余裕で譲られていながら、速攻で完璧なカウンターを食らった形だ。
最初から極大のハンデを貰っていたはずの、自分たちの絶対的な攻撃の時間。
その刹那に、気づけば奈落の底へ叩き落とされていたという、不条理なまでの実力差。
「まだ、たったの一点。これで終わる『サッカー同好会』じゃないよ。……さあ、ここからひっくり返させてもらうよ、鳳くん」
失点したというのに、椛の瞳には、かつて戦えずにいたライバルへの、最高に熱い歓喜の火花がギラギラと灯っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「な……っ!?(信じられないキレですわ……!)」】
どうぞお楽しみに!
――
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