「まさか、校内にこんな場所があったなんてね。完全に盲点だったよ」
桐子からの唐突な挑戦状に対して、過去の因縁と、悪魔的な打算を優先してそれを受けて立つことにしたサッカー同好会。
萩子などは、最初こそ「おらぁ!やってやらぁ!」と猛烈に騒いでいた。
しかし、フットサル同好会のメンバーの後をついていくうちに、目の前のただならぬオーラに圧倒されてそれも自然と鳴りを潜めていった。
やがてサッカー同好会の五人と杏、三芳野先生が連れて来られたのは、第二体育館の裏手にひっそりと佇む、屋外の古びたバスケットコート。
アスファルトが剥き出しになった、縦28メートル、横15メートルの狭い空間。
本来なら球蹴りをする場所ではないそこに、彼女たちはどこからか持ち込んだのか、簡易ゴールをデン!と設置し、自分たちの聖域(戦場)にしていたのだ。
「まさか、校内にこんな場所があったなんてね。完全に盲点だったよ」
「最初から、十一人制のサッカーではなくフットサルをプレーすることを前提としていたのでしょう。ご丁寧にゴールポストまで持ってきて。用意周到ですこと」
素直に感心する椛と、呆れ混じりに見回す牡丹。
「こ、これ、もうただのボール遊びの範疇を超えちゃってるんじゃ!? それに、認可されたばかりの同好会と、非認可の同好会の私的な決闘!?!? 教師として、止めなきゃ、止めなきゃ……うう、でも私さっきハメられて顧問になったばかりだしぃ……」
頭を抱えてわたわたと大混乱しているのは、新任の三芳野先生だ。
そんな大人を尻目に――
「アスファルトかぁ。滑るから、アタシたちのサッカースパイクは使えねえな。体育館履きのスニーカーに履き替えるか」
萩子は、足元のハンデを冷静に分析する。
菊鞠は既にスニーカーを履いている。
昨日今日、サッカー同好会に入ったニュービーが、サッカースパイクなんてものは持ち合わせていない。
(昨日はローファーだったので勝手は違ったけど、今日はスニーカーを使えるわね。むしろこちらのほうが真骨頂よ)
ちなみに、昨日の猛烈な反省を踏まえ、コートに移動する前に体操着に全員で着替えることを強く提案したのは菊鞠だ。
あのような恥ずかしい醜態は、もう二度と全世界へ晒したくはない。鉄壁の防御――ハーフパンツに身を包み、菊鞠の表情には修羅の落ち着きが戻っていた。
「―――それで。このコート、もともとバスケットボールのコートでしょう?」
「……ラインがごちゃごちゃして、どのラインを利用するのか分かりづらいですわね。鳳さん、貴女がたは普段、どのラインを活用してますの?」
隅々までコートのコンディションを確認していた牡丹が振り向き、桐子に尋ねる。
「ああ、アタシらは、このちょっと掠れた黄色いラインをタッチラインにして利用している。今回もそうするつもりだ」
「そうすると―――あそこから、ここまでですのね。なるほど、ギリギリ最低限のフットサルの公式基準には収まりますわね。あとは、審判はどうしますの?審判不在で行いますの?わたくし達は、それでも構いませんが……」
顎に手を当てて思案する牡丹。
副担任の三芳野先生は体育の教師ではあるが、フットサルの専門ルールに明るいようには見えない。
どのみち放課後の野良試合だし、審判不在のセルフジャッジでも構わないか……。
そう結論づけようとした、まさにその矢先だった。
「あ、審判なら、うちがやるんよ!」
コートの端にいたカスミが、カバンから私物の電子ホイッスルを取り出す。
ピッ!
小気味よく鳴らして一歩前に出た。
「種村さんが? 審判を? ……失礼を承知でお聞きしますが、貴女、ルールをご存じなの?」
「うち、なにげに多趣味なんよ。以前、イケメンみたさに宝塚にハマったけど、他にもサッカー選手でハスハスしてた時期もあってね。その時にサッカーのルールと並行して、フットサルのほうも完璧に覚えたんよ。だから、ウチに任せて欲しいんよ(ピッ!)」
「ちょ、カスミん、勝手に審判とかやってるし(笑)。っていうか、あーし、サッカーとか出来ないし、コートの端っこで応援でよくない? スマホで動画録る係に徹するわー」
二人の横で、新入部員(五人目)のまつりが、ポケットのスマホを構えながらフランクに笑って言った。
「まつりちゃん、ナイス判断なんよ! アタシたちの『鹿戸パイセン大優勝動画』の第二弾、バッチリ撮影しといてほしいんよ!(ピッ!)」
「りょ〜。じゃ、みよティー、一緒に応援しよ?」
「えええええっ!? み、みよティー!? 私、教師なのに完全に観客扱いで、おまけにあだ名までつけられちゃってるよぉ〜〜っ!」
コートの隅にある錆びついたベンチへ移動し、のんびりスマホのレンズを向けるギャルと、その横で「止めなきゃいけないのにぃ〜!」と頭を抱えて涙目になっている新任顧問。
「……種村さん、だっけ。君が吹いてくれるならフェアだ。頼むよ」
桐子が長い前髪を払い、不敵に笑って頷いた。その瞬間――。
「はひっ! 鳳さんにも名前呼ばれたぁぁ……!」
遥か雲上の人とも言うべき桐子から不敵な美貌で真っ直ぐに見つめられ、あまつさえ名前を呼ばれた瞬間、杏の限界突破したオタク脳が完全にショートした。
ピピピピピピピピピ……
激しい興奮と緊張のあまり、口元に咥えたホイッスルが、カスミの身体の震えに合わせてマヌケに鳴り響く。
これから宿命の対決が始まるという張り詰めた空気の中。
萌え袖をガタガタさせながら電子音のビブラートを奏で続けるお騒がせレフェリー。
そんなカスミを見て、菊鞠は(……種村さん、審判をする前からすでに大優勝してどうするのよ……)と、ジト目を向ける。
だが、そのマヌケな音を合図にするように、両チームの空気が一気にアスリートのそれへと切り替わる。
「位置につきたまえ、フットサル同好会! 一文字vs神園の、二年越しのリベンジマッチだ!」
椛による凛々しい号令と共に。
サッカー同好会の四人とフットサル同好会の五人、合わせて九人の少女たちがバスケコートの各配置へと散っていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「どーけーよー! 轢ーくーぞー、※すぞおぉぉぉーー!どーかーんーと◯ーぬーぞー!!」】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
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