「えええええええっ!?!? 私、さっき強引に顧問を押し付けられたばかりなのに、今度は勝負の景品にされてるよぉぉぉっ!?」
「アタシが事故で消えたせいで、君たちの一文字中に、中途半端な形の王座と、消えない傷を押し付けることになってしまった――それは本当にすまないと思っているよ。……だからこそ、さ。このフットサルで、お互い出来なかった二年前の試合を――あの地獄の続きをしよう」
三年前の全国大会のようなピリピリとした緊迫感が廊下を走り抜け――
一瞬にして中庭の木漏れ日の中で鋭く弾け合う。
――だが、その張り詰めた空気の真ん中で、桐子はフッと挑戦的な笑みを唇に刻んだ。
「だけど―――僕たちがここへ来たのは、昔話をするためじゃない。君たちの動画を見たんだ、神酒盃さん」
桐子が、画面のバキバキに割れたスマホを菊鞠たちの前へ突き出した。
液晶画面の中では――ブレザー姿の菊鞠がスカートを翻しながら、優雅に《後ろ鞠》を決める瞬間が――ループ再生されている。
……その動画を見せつけてくるのは、もういい加減やめてほしい。
「その後で、あの物物しい校内放送を聞いてね。君たちが生徒指導室へ呼び出しを食らったと知って、こうして出てくるのを待たせてもらったんだ」
桐子の瞳が、前髪の隙間からギラリと、野生のストライカーのような獰猛な光を放った。
「ここにいる桜や、柳は『お嬢様のお遊びだ』って笑ったけれど……アタシの目は誤魔化せない。神酒盃さん、君のあのパス、ボールが地につく前に、次に受ける仲間が一番次のプレーをしやすい場所に、完璧な優しさで吸い付くように届いている」
「え……?」
「これなら……。一歩も走らなくても、君が僕の欲しい場所に全部ボールを置いてくれるなら……大事故の後遺症で『五分間しか走れない身体』になったアタシでも、もう一度、十一人制の広いピッチへ戻れるかもしれない……!」
切実で、けれど狂おしいほどのサッカーへの未練が籠もった桐子の言葉。
「――設立したばかりで本当に申し訳ないけれど、神酒盃さん、それにサッカー同好会の皆さん」
廊下を塞ぐ鳳桐子が、バキバキに割れたスマホをポケットに仕舞い、不敵に微笑んだ。
「君たちはたった今、生徒指導室で新任の体育教師の三芳野先生を顧問に据えて、正式に同好会の認可を勝ち取ったところなんだろうね」
「え……っ? なぜそれを……」
オロオロする三芳野先生を背後に庇いながら、牡丹が鋭い視線を返す。
「フットサル同好会の僕たちには、まだ顧問がいない。だから校内では非認可のゲリラ活動さ。――だけど、君のあの『走らなくていい極上のパス動画』を見て、僕たちはどうしても神酒盃さんが、そして君たちサッカー同好会の3人が欲しくなったんだ」
「――それに、フットサルだって、人数が集まらなければ練習もできない。だろ?」
桐子が長い前髪を払い、真っ直ぐに菊鞠を見据える。
「僕たちのフットサルのルールで、五対四の勝負をしよう。もし僕たちが勝てば、君たちの同好会の看板を乗っ取り――その設立したばかりの認可と、顧問の三芳野先生ごと、僕たちフットサル同好会が全ていただくよ!」
「えええええええっ!?!? 私、さっき強引に顧問を押し付けられたばかりなのに、今度は勝負の景品にされてるよぉぉぉっ!?」
廊下に響き渡る三芳野先生の哀れな悲鳴。
「なんて強欲な……! 認可と顧問を賭けろというのか!」
「――おう、そっちがその気なら、いつでもやってやんよ!」
「上等ですわ――と言いたいところですが、神酒盃さんや三芳野先生まで巻き込んで、よろしいのかしら!?」
椛がゴクリと息を呑み。
萩子は今にも飛びかからん勢いで牙を剥き。
牡丹は、因縁とは関係のない人を巻き込むことを心配する。
そして菊鞠はというと――。
「――素晴らしい提案ですね、鳳さん。その勝負、謹んでお受けいたします!」
「み、神酒盃くん!?」
「いいんですいいんです、椛さん。相手がどんな強豪校出身だろうと、売られた喧嘩は買って、倍返しにするのがセオリーだと思うんです。……その代わり、鳳さん。皆様が負けたら、五人全員揃って、我が『蹴鞠保存会』の入会届にサインしてください、ね?(にっこり)」
「え? けまり……?……は?」
ポカンと首を傾げる元・神園の五人。
こうして、お互いの居場所をかけ――
元エリートたちの『エモい情熱』と、五人を蹴鞠保存会に拉t……もとい、勧誘したい菊鞠の『ド黒い下心』が完璧に交錯したまま、変則フットサルマッチの火蓋が切って落とされるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「まさか、校内にこんな場所があったなんてね。完全に盲点だったよ」】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
「三芳野先生、不憫かわいい!」
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