「知っているのか、ボッタン!?」
松居先生のハンコが書類にパシィン!と力強く押され、ドタバタの怒号の中で正式認可を勝ち取った『サッカー同好会』。
「はぁ〜〜、本当に寿命が縮まったぁ……」
「ウチも、退学にならなくてマジで良かったんよぉ……」
名簿と入会届(※うち1枚はまつりの『蹴鞠保存会入会届』)を抱え、命からがら生徒指導室の重厚な引き戸を開けて廊下に出た、菊鞠、椛、牡丹、萩子、まつり、杏、そして三芳野先生の七人。
「嵌められた……嵌められた……」
三芳野先生は虚ろな目で怨嗟のように呟いている。
対して、安堵の息を吐き出した菊鞠たちの前に、夕日の差し込む長い廊下を塞ぐようにして、スッと立ちはだかる「五つの影」があった。
「―――待っていたよ。鹿戸さん、蝶名林さん、猪目さん。そして―――神酒盃さん」
廊下の壁に背を預け、腕組みをして待っていたのは――天然パーマの長い髪を揺らした少女。
その背後には、同じ八々花女子高の制服を着た、ただならぬ覇気を纏った四人の少女たちが付き従っている。
「お昼休みにね、見せてもらったんだ。――TickTackでバズりにバズった、君たちのあの動画をね」
「―――えっと……すまない、君たちが誰なのか、見当がつかないんだが 」
一方的に話を進める天然パーマの少女に、部長である椛が怪訝そうに目を細める。
「ああ、失礼した。アタシは鳳。鳳桐子という」
「鳳桐子さんですって!?」
その名に、いち早く反応したのは牡丹だった。
「知っているのか、ボッタン!?」
萩子が隣にいる牡丹に飛びかからん勢いで尋ねる。
「ちょっ……近いですわ……。―――鳳桐子さん。三年前のU-15全国大会を無失点で完全優勝しながら、大事故に遭い、女子中学サッカー界から忽然と姿を消した、【絶対王者】神園学園のファンタジスタ、鳳桐子さんですわ」
牡丹が、激しい驚愕と怒りを押し殺すように胸元でギュッと拳を握りしめる。
「――であるならば、その後ろの方々は、鳳さんを含め、神園学園の黄金世代、通称【五光】。松明千鶴さん、幕ノ内桜さん、薄満月さん、あるいは……道風柳さん、ですわね」
「ぶっふぉおぉぉぉおぉお!! なにこれなにこれなにこれ!? こんな奇跡が起こりえるんよ!?」
カスミが、あまりの興奮に口元のチュッパチャプスの棒をピコピコピコピコ激しく揺らし、長いカーディガンの萌え袖をバタバタと振り乱した。
「え、なに? カスミん、あの人たちってそんな激ヤバな感じ?」
まだ事の重大さが分かっていないまつりが、お気楽に首を傾げる。
「激ヤバなんてレベルじゃないんよ! 鳳桐子っていったら、ゆくゆくは日本の女子サッカー界を牽引するはずだった、超々々々々天才ストライカーなんよ!」
カスミは、咥えたチャッパチュプスを落としそうな勢いでまくし立てる。
「――事故で大怪我して引退を余儀なくされたっていわれてたけど、その事故がなければ女子サッカーワールドカップの強化選手入りは確実!! 大優勝どころか、大大大大大優勝だったんよ!!」
あふれる興奮を発散させるかのように、萌え袖を振り回す。
「……光栄だね。僕たちの三年前の栄光をそこまで覚えていてくれて、嬉しいよ」
桐子は長い前髪の隙間からフッと楽しげに笑ってみせた。
けれど、その瞳の奥には、大事故によってサッカーを奪われた2年間の苦い重みが、ほんの一瞬だけ、寂しげな影となってよぎる。
――しかし彼女はすぐに顔を上げ、かつて世界基準と恐れられた絶対王者の不敵なオーラをその瞳にパッと取り戻した。
そして、その視線を再び、名簿を抱えて固まっている椛たちへと向け直す。
「お互い様さ、蝶名林さん。僕たち『神園』の五人も、あの名門『一文字学園中等部』の絶対的エースだった君たちのことはよく知っている。大人の醜い派閥争いや椅子取りゲームに辟易して、サッカーのないこの学校へ逃げてきたって噂はね」
「鳳さんが不在だった、二年前の夏の全国大会――。貴女たちのいない決勝のピッチで、私たちがどんな気持ちで『日本一』のトロフィーを掲げたか、考えたこともありませんでしょう!?」
「……っ」
「世間の大人たちも、学校の部員たちも、みんな陰で私たちをこう呼びましたわ――『絶対王者が不在の中で、運よく王座を掠め取っただけの、形だけのチャンピオン』だと! 貴女という絶対の壁をぶち破ってこそ、私たちの本当の勝利だったというのに……」
「その居心地の悪さに耐えかねて、私たちがどれほどの絶望の中で一文字学園を去ったか……貴女たちに分かってたまるものですかっ!」
廊下に走る、ビリビリとした元日本一同士の、あまりにも重く切ない因縁の火花。
大人のエゴだけでなく、「奪ったはずの栄光」によって深く傷つき、サッカーを捨ててこの桃源郷へ外部進学してきた『猪鹿蝶』の三人。
「……手厳しいね。蝶名林さん」
桐子が目を細め、静かに、けれど熱く闘志を滾らせて一歩前に出た。
「アタシが事故で消えたせいで、君たちの一文字中に、中途半端な形の王座と、消えない傷を押し付けることになってしまった――それは本当にすまないと思っているよ。……だからこそ、さ。このフットサルで、お互い出来なかった二年前の試合を――あの地獄の続きをしよう」
三年前の全国大会のようなピリピリとした緊迫感が廊下を走り抜け――
一瞬にして中庭の木漏れ日の中で鋭く弾け合う。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【「えええええええっ!?!? 私、さっき強引に顧問を押し付けられたばかりなのに、今度は勝負の景品にされてるよぉぉぉっ!?」】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
「サッカー同好会のドタバタが大好き!」
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