「尊い!尊い!尊すぎて人類の宝だから動画保存しちゃおーっと! ぽちっ」
菊鞠は一気に三人もの新規会員をゲットしてご満悦。
そしてサッカー同好会も、異次元の空中戦チート能力を持つレジスタ候補をゲットしてご満悦。
双方、下心と情熱が100%合致したWin-Winの関係で、夕暮れの境内でガシッと手を取り合った翌日―――。
「ええええええ!?………今から、ここで、サッカーをやるのぉ?」
昼休み。
八々花女子高の格調高い『中庭』に引きずり出された菊鞠は、心底嫌そうな顔をした。
「制服が汚れちゃうじゃないですか。それに、ここは先生がたの目にも留まりやすい場所ですよ?」
菊鞠は不安そうに、きょろきょろとあたりを見回す。
「何を言ってるんだ! “ケツは痒いうちに掻け”って言うじゃんか!」
「……萩子さん。それを言うなら、 “鉄は熱いうちに打て”ですわよ。お尻を掻きむしってどうしますの。それに、八々花女子高の生徒たるもの、品位を欠くような発言は慎みなさいな」
「すまないね、神酒盃くん」
呆れ顔で萩子にツッコミを入れる牡丹を尻目に、1年Cクラスの鹿戸椛が、スッと長い手足を響かせて歩み出た。
「ただ、僕たちも、君に同好会へ入ってもらえたのが嬉しくて……本当に、いてもたってもいられなかったんだ!」
そう言って、木漏れ日の差し込む中庭のど真ん中で、額にそっと手を当てて宝塚ばりの完璧な決めポーズを取る椛。
爽やかな春風が、彼女のベリーショートをさらりと揺らした。
(……ホント、いちいち無駄にサマになってるのが猛烈に腹立つわね、天然トップスター!)
鏡の前でポーズを決めていた中学時代の失恋相手(サッカー男子)の顔がほんの一瞬だけフラッシュバックし、菊鞠は心の中でキィィィと歯噛みする。
「椛さん、萩子さん。いい加減になさい。神酒盃さんの仰る通り、制服が汚れてしまっては大変ですわ。ですから――」
縦ロールを揺らした牡丹が、呆れたように二人を注意する。
「地面に落とさなければ、制服が汚れる心配はありませんわよね?――昨日の神酒盃さんの『おもてなしのパス』、私、早く自分の足で完璧にコントロールしてみたくて堪りませんのっ!」
……結局、牡丹もまた、ウズウズして我慢できなかった球蹴りバカの1人だった。
「ほら、行くぞ神酒盃!」
――バシュウッ!!
萩子がいたずらっぽく笑いながら、中庭の芝生の上をバウンドする、少し高めの強いボールを放り投げてきた。
「――ようっ!」
またしても、菊鞠の身体が完璧な|条件反射で動いた。
ボールは菊鞠の頭上を越え、彼女の「背中側」へと無慈悲に落ちていく。
誰もが「あ、トラップできない」と思ったまさにその刹那――菊鞠は振り返ることすら、しなかった。
すっと軸足を固定したまま、右足の膝を深く曲げて、後方へとしなやかに跳ね上げる。
制服のプリーツスカートがひらりと美しく翻った。
――かつっ。
通学ローファーの、硬く平らな『ヒール(踵)』が、背後に落ちてきたボールの芯を寸分の狂いもなく捉えた。
これが、実家の神社に伝わる蹴鞠の妙足――《後ろ鞠》。
ノールックで放たれたカカトの一撃は、猛烈なバックスピンを伴って椛の胸元へとピタリと収まった。
「……う、嘘だろ!? 背面で、ローファーであれだけのパスを……!?」
驚愕して硬直する椛の姿を視界に入れながら――しかし、菊鞠はそれどころではない大パニックに陥っていた。
(あ、あわわわ……! やっちゃった!やっちゃったああああああぁぁぁ!!―― 完全に条件反射で、スカートなのを忘れて、思いきり足を後ろへ跳ね上げちゃった〜〜〜っ!?)
足を高く上げた瞬間、プリーツスカートがひらりと丸く翻り、春の突風も手伝って無慈悲にめくれ上がった感触がしっかりとあった。
(い、今の、絶対に下着が丸見えになってたよね!? 神社の娘として、なんてはしたない真似を――! ……うう、今すぐ地面に穴を掘って埋まりたいいいぃぃぃ……!)
顔を耳の裏まで真っ赤に紅潮させ、自分のスカートの裾をぎゅっと押さえてブルブルと震える菊鞠。
だが、次の瞬間、彼女はハッと我に返り、ふっとおっとり上品な笑みを取り戻した。
(……あ、でも、よく考えたらここ、邪悪なサッカー男子が1ミリも入り込めない、清らかなる女子高(桃源郷)じゃない。周りにいるのは椛さんたち女子だけ。見られたところで減るものでもないし――うん。ま、いっか!)
実に見事な、そしてあまりにも不用意すぎるお嬢様思考の開き直り。
菊鞠は「ふぅ」と上品に胸を撫で下ろし、ローファーの汚れを気にするフリをして澄ました顔に戻った。
中庭のド真ん中で繰り広げられた、その【重力を無視した背面神キック&一瞬だけチラ見えした奇跡のハプニング】。
それを2階の教室の窓辺から見下ろしていた種村カスミのスマホのカメラは――そのすべてを、1コマのブレもなく、国宝級の映像(神画面)として完璧に録画しきっていた。
「かぁ〜〜……!!」
身体に対して長いカーディガンの、ゆるゆるな『萌え袖』でスマホを握りしめたまま、カスミは口のチャッパチュプスを激しくピコピコと揺らし、興奮のあまり過呼吸になりかけていた。
「マジで今日の鹿戸パイセンも大優勝だけどーーっ! っていうか、神酒盃ちゃんナニ!? あの背面キックからの奇跡のパンチラ(チラリズム)!?」
「 ――振り返りもしないでカカトで神パスして、そのあと『ま、いっか』みたいな顔でスカート直すの……あざとすぎて世界が滅亡するレベルなんですけどーーっ!」
「尊い!尊い!尊すぎて人類の宝だから動画保存しちゃおーっと! ぽちっ」
ずりずりと萌え袖を振り乱し、完全に『極上の推し活(趣味)』のノリで録画を完了するカスミ。
「――え、カスミん、ナニそれナニそれ! 見せて見せてー!」
背後の席から、動画投稿アプリ『TickTack』が趣味の明莉まつりが、と身を乗り出してくる。
カスミがコーラ味の飴を転がしながら、純粋なファンのノリで撮影したこの隠し撮り動画。
これが放課後、まつりの軽いノリによってネットの海へ放流され――。
【お嬢様学校の制服ローファー女子が、重力を無視してサッカーボールを操り、おまけにスカートがふわりと舞う奇跡の5秒動画】
として、一晩で500万再生を突破する特大の『大バズり大惨事の火種』になるとは、今の菊鞠は夢にも思っていなかったのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回予告――
【(一瞬だけ風でめくれた下着が世界中の五百万人に見られちゃってるんだよ……!?)】
どうぞお楽しみに!
――
「菊鞠のおもてなし無双がもっと見たい!」
「そんなことより菊鞠ちゃんのパンツ見たい!」
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