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「……ハメ殺されたなら、10倍にしてハメ返しに行くき」

「──反撃、開始だ」


 データ予測の裏の裏をかかれ、完全に硬直させられた梅原商業のディフェンスライン。

 釣り上がった網の真下をノーバウンドで突き抜けた菊鞠の超低空パスの先には、すでに爆速のスプリントを開始していた椛の足元が、寸分の狂いもなく待ち構えていた。


 椛はトラップによるコンマ数秒の遅れすら、深紅の要塞に与えない。

 麗しい肉体をしならせ、地表数センチを滑るように飛んできた白黒の球体を、そのままノーバウンドのダイレクトボレーで完璧に捉えた。


──バシュゥッッッ!!!


 ひんやりとした夜の空気を切り裂き、弾丸と化した一撃が深紅のゴールマウスへと襲いかかる。

 高いポジショニングをとっていたが故に、地表スレスレの低空シュートに対して、金王美輪の反応はコンマ数秒だけ遅れた。


 勝負あり、かと思われたその瞬間。


「──しっ!」


 美輪の鋭い呼気と同時に、その長い右腕が地表へと突き出された。

 ゴールライン寸前、放たれた弾道は強烈なパンチングによって真横へと弾き落とされる。


 お嬢様としての絶対的な矜持が、失点を意地でも許さない。


パシィィィンッッ!!


 乾いた音が響き、弾かれたルーズボールがゴール前の危険地帯へと転がる。

 美輪の超絶セーブに、梅原商業のディフェンス陣が一瞬だけ凌いだと安堵した、まさにその刹那だった。


「るおぉぉぉぉぉりゃああああああッッッ!!!」


 左右の縦ラインを直線最速でぶち抜いてきた萩子が、ゴール前へと凄まじい推進力で突っ込んできた。


 萩子は梅原商業の予測守備そのものを肉体ごと圧殺するかのように、芝生へと自らの身体を獰猛に投げ出した。


 地上スレスレへと滑り込む、決死の特攻スライディング。

 萩子は倒れ込みながら、美輪がパンチングで弾いた空中のルーズボールに対し、自身の頭を弾丸のように突き出した。


 ──超低空ダイビングヘッド。


 ドンッッッ!!!


 泥臭く、しかし誰よりも獰猛に放たれた萩子の一撃が、ボールを完璧にとらえる。


 梅原商業のディフェンスラインが足を伸ばすよりも早く。

 美輪が体勢を立て直すよりも圧倒的に早く──。


 白黒の球体はゴールネットを激しく揺らした。


 ピッ、ピーーーーーーッッッ!!!


 スタジアムを震わせる、主審のホイッスル。


 後半開始わずか数分。

 互いの戦術と執念が限界突破で激突した電撃戦の果てに、ついに均衡が破られた。


 八々花女子高校、待望の先制ゴール(1ー0)!


「よっしゃあぁぁぁぁぁ!!! 見たかコノヤローーーッ!!!」


 勢い余ってボールと共にゴールネットへと突っ込み、網に全身をがんじがらめにされながら、萩子が拳を突き上げて咆哮する。


 スタジアムを埋める八々花の応援席から地鳴りのような大歓声が沸き起こり、ベンチからは三芳野先生や明莉まつりが抱き合って歓喜の悲鳴を上げた。

 天堂監督の仕込んだ地表数センチの空中庭園が、梅原商業の要塞を完全に粉砕してみせたのだ。


 だが。

 歓喜に沸くピッチの中で、先制を許した梅原商業のストライカー、春乃うららの瞳から、陽気さは完全に消え失せていた。


 うららはポニーテールを静かに揺らし、失点したゴールマウスを見つめたまま、唇の端を不敵に釣り上げた。


「……ハメ殺されたなら、10倍にしてハメ返しに行くき。──なぁ、金王ちゃん、舞海さん。ここからはデータの網なんか関係ない。うちらの本当の連撃、全部ブチ込んでやろうや」


 それは、先制されたことで本当の覚醒を迎えた、梅原監督の門下生たちからの戦慄の宣戦布告。

 八々花が待望の1点を奪い取った瞬間、準決勝のピッチは、前半とは比較にならないほどの凄まじい熱量と死闘の泥沼へと、一気に引きずり込まれようとしていた。


 ──ピッ!


 主審のホイッスルが響き、梅原商業のキックオフで試合が再開される。


 センターサークル中央、ボールに足をかけた春乃うららの瞳には、もはや前半の天真爛漫な輝きは微塵もなかった。

 うららは横パスを戻すセオリーなど一瞥すらしない。合図と同時に、白黒の球体を自ら前方へと激しく押し出した。


 予測データの網を自ら投げ捨てた、獰猛なる単独突破(スプリント)。


 弾丸のような速度で八々花の中盤へと突っ込んでくるうららの姿に、迎撃態勢をとっていたあやめと菊鞠の網膜が、その理不尽なまでの初速の暴力に鋭く見開かれた。


 ここから、データを捨て去った梅原商業の連撃が幕を開けた。


 前半の、あのコンマ数秒単位で最適化された冷徹な予測サッカーとは完全に打って変わり、個人の圧倒的なフィジカルと剥き出しの初速だけで、八々花の中盤を強引に破壊しにかかる深紅の猛威がピッチを支配する。


「うらら、そのまま突っ込みなさいっ!!」


 八代舞海が鋭く叫び、春乃うららの強引な突破に全方位から連動する。


 あやめがスライディングでコースを切り、菊鞠がその長い足を伸ばして網を張るが、野生の獣の初速の暴力は、八々花の中盤の組織防衛を力技でねじ伏せ、一瞬にして引き裂いていく。


 完全に前傾姿勢となって押し寄せる梅原商業の狂乱を前に、ディフェンスラインはペナルティエリア内へと釘付けにされ、防戦一方の絶体絶命のピンチを迎えていた。


 中盤を鋭く切り裂いたMFの一國杜華が、スピードを落とさぬまま不敵なループパスを放つ。白黒の球体がディフェンスの頭上を越え、ゴール前の危険地帯へとふわりと落ちた。


 そこへ、驚異的な跳躍力で飛び込んできたのは八代舞海だ。

 千鶴の目の前、完全にフリーの状態で、決定的な至近距離からのヘディングシュートが放たれる。


 誰もが失点を覚悟した、その極限の刹那。


「うおおおおおおおッッッ!!!」


 ゴールライン上で獰猛に身体をしならせ、虚空へと跳ね上がったのは守護神の千鶴だ。


 千鶴は驚異的な反射神経と意地だけで肉体をねじり、舞海の放った至近距離のシュートを、自らの頭で叩き落とすようにしてブロックしてみせたのだ。


 バシィィィンッッ!!!


 凄まじい衝撃音が響き、セービングの勢いのまま芝生へと激しく叩きつけられる千鶴の身体。


「藤乃! 死角を突かれてるぞ! 小梅と互いの死角をカバー! 桜は10番を警戒しろっ!」


 芝生に突っ伏し、激しい汗を流しながら、千鶴はバックラインの仲間たちへ向けて、喉が張り裂けんばかりの咆哮を叩きつけた。


 スコアは1−0。

 だが、バックラインにかかる負荷は限界値を遥かに超え、満身創痍の状態で、深紅の牙をギリギリで受け止め続けている──。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


 このページの冒頭、得点させて均衡を破るかどうするか迷ったのですよ。

 レギュレーションでは、0-0のまま試合終了すると、PKのサドンデス方式になるらしいのですが。

 それもそれで美味しい展開――!と。


 ただ、それだとダラダラさせてしまうかなぁ、と悩みに悩み――。

 ここは得点させ、それを死守していく流れへと移行することにしました。


 そしてこのページで後半戦も終わらせようかと思ったのです。

 が、今度はあまりにも急ぎ足すぎてしまって。

 156話までじっくり書いたほうがいいのでは?と思いなおしました。


 ……あっ、しまった!

 引き分けにしないってネタバレしちゃった!

 と、とりあえず、梅原商業戦、もうちょっとだけ続くんじゃ!


「萩子のヘディングシュートの後、ゴールネットに絡まってるのウケるw」

「あとがきでナチュラルに次回の展開をセルフネタバレしていく作者さんww」


と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、続く準決勝・最終決戦(第156話)への執筆の大きな大きな励みになります!

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