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「まだ、うちらの攻撃は終わってないっしょ!」

 カクテル光線の下、ペナルティエリアの白線が張り詰めた氷のようにピッチへ浮かび上がっていた。


 ペナルティエリア内へと侵入した舞海の正面には、八々花の守護神、背番号1番の千鶴が立ち塞がっていた。170センチ近い体躯を限界まで広げ、圧倒的な威圧感でゴールマウスを要塞化する。


 だが、舞海の唇が、不敵に吊り上がった。


 その169センチという長身とリーチの長さは、データ通りだ。ならば、大型キーパーが最も重心を落としにくく、セービングの手が届きにくい「死角」を突くだけのこと。


 キックモーションに入ると見せかけた最初のコンマ数秒。

 舞海は放つ直前、右足のつま先でボールの底をチョンと叩いた。


 ──ふわり。


 舞海の計算通り、ボールは自身の膝ほどの高さへと、不気味に浮かび上がった。


(足元へのキックじゃない──自分で浮かせて、ダイブ……!?)


 スライディングカバーに飛び込もうとしていた藤乃、そしてシュートを足元で迎撃する姿勢をとっていた千鶴の網膜に、あり得ない光景が映った。


 ボールが浮いた刹那、舞海は自らの肉体をピッチと完全に水平になるまで投げ出したのだ。

 カクテル光線を浴びながら、美しく低い弾道で空中を飛び、その頭で、千鶴が最も反応しにくい足元の死角へと、地を走るような鋭いシュートを放つ。


 華麗にしてあまりにもアクロバティックな、超低空の奇襲だった。


「──やあっ!!」


 通常のゴールキーパーであれば、その異次元の奇襲に完全に逆を突かれ、棒立ちでネットを揺らされていたはずだった。

 しかし、千鶴のプライドと反射神経は、その刹那の空間の歪みを完全に見切っていた。


 千鶴は170センチ近い体躯を投げ出すようにして肉体をねじり、長い右腕を地面スレスレへと限界まで伸ばした。


パシィィィンッッ!!


 分厚いグローブの指先1枚が、ゴールライン寸前で地を走る弾道を横へと弾き出す。


「頼んだわよ、うららっ!!」


 着地と同時に叫んだのは、八代舞海だ。


 弾かれたルーズボール。

 ゴール前へ突っ込んできた春乃うららが、押し込もうと爆速のステップを踏む。

 だが、その鋭いスパイクの先よりも早く、遮るようにスライディングを敢行した影があった。


「させへんっ……!!」


 藤乃だ。

 うららの一歩よりも僅かに早く、藤乃の右足がルーズボールを前線へと力強く蹴り出した。


 最大の危機を脱した──スタジアムの八々花サポーターから大きな安堵の歓声が漏れかけた、まさにその一瞬の隙。


 落下点に入り、落ちてくる球を迎えようとした菊鞠の頭上へ、深紅の影が容赦なく降り注いだ。


 梅原商業のMF、神居那子。


 那子は、通常の選手では届かないはずの高さまで、大自然の風を身に纏うかのようなアクロバティックな跳躍を見せた。

 菊鞠の足元へボールが届くコンマ数秒の手前、那子のしなやかな右足が、空中でその弾道を激しくはたき落とす。


 大気の奔流の如き、強襲。


「なっ……!?」


 完璧に球を捉えていたはずの菊鞠の肉体が、一瞬だけ凍りついた。


 八々花が『空中庭園(カムイミンタラ)』を再点火させようとしたその最初の1ピースが、那子の冷徹な対空カットによって、地上へと叩き落とされたのだ。


「まだ、うちらの攻撃は終わってないっしょ!」


 那子の道産子弁が夜のピッチに響き渡ると同時に、叩き落とされたボールは一瞬の澱みもなく、中盤に位置する霧神霞の足元へとピタリと収まった。


 プレスの波が届くよりも早く、霞はコンマ数秒単位の予測に基づいて右足を振る。

 鋭いダイレクトパスが、飛び出してきた竹内優佳へと繋がれた。


 トラップによる一瞬の遅れすら徹底的に排除した、梅原商業のお家芸たる地上の超高速なパス連携。

 先ほど前がかりになったディフェンスラインの隙を突くように、白黒の球体は一瞬にしてペナルティエリア手前、バイタルエリアの最深部へと再び侵入していく。


「うららっ!!」


 優佳の足元から、ディフェンスの隙間を極限まで縫うような絶望的な縦パスが放たれた。

 そのボールの先で、すでに予備動作0の最初の一歩を踏み出し、突進してくる春乃うららの姿がある。この位置でうららに前を向かれれば、失点は免れない──。


(待って、空中戦を落とされたと思ったら今度は地上の高速連携とか、本当に隙がないんだけど! でも、ここで通されたら完全に終わる──!)


 最後方で戦況を予測していた桜は、高速回転する脳内回路を純粋な闘志へと一瞬で変換した。


 うららがその爆発的なステップでボールに触れる、まさにコンマ数秒手前。


 バシィッッ!!


 乾いた硬質な音が響き、白黒の球体はうららの足元から正確にハジき飛ばされ、激しくタッチラインの外へと転がっていく。


「マイボールっしょ!」


 すかさず那子の鋭い声が響き、梅原商業のスローインへと局面が移行する。


 開始わずか数分。


 地上と空中で、互いのハメ手と対策がミリ秒単位で目まぐるしく入れ替わった電撃戦の第一波。

 八々花女子は辛うじて致命傷を免れたものの、梅原商業の波状攻撃の圧迫感に、ピッチ上の空気は完全に支配されようとしていた。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


 ゴール前での怒濤の波状攻撃、お互いの意地が激突する電撃戦を描きました!

 舞海さんの空中滑空から、千鶴のエリートセーブ、藤乃の決死のクリア──からの、神居那子ちゃんのまさかの対空強襲!


 那子ちゃん、元ネタがアイヌの戦巫女(ナコルル)ということで、ここは彼女らしく不敵に、それでいてコテコテの道産子弁で「終わってないっしょ!」と叫ばせてみました。


 ……というか。

 苫小牧、行きたいようおうぉぅ!!(本音)

 

 先日、ウマ娘のグローバル版でホッコータルマエが実装されたということで、連日X(旧Twitter)のタイムラインにはホッコータルマエのイラストや画像がひっきりなし!

 そこへもってきて、リアルな苫小牧市がちょうど熱いコラボイベントを開催していて、全国のホッコータルマエトレーナーが苫小牧の聖地巡礼ポストを投稿しているのです。

 僕も、行きたかったのですが、色々と予定が重なり、さらには台風もあって、行けず終いとなりそうです。

 そんな作者の血の滲むような無念を、神居那子ちゃんの「終わってないっしょ!」に全て込めました! 完全に公私混同です!(笑)


 ──と、思っていたのですが。


 実はさきほど、嬉しい余談がありまして。


 なんと、三星製菓さんのウマ娘コラボの『よいとまけ』が我が家に無事届きました!

 ホッコータルマエちゃん、コパノリッキーちゃん、ワンダーアキュートちゃんのパッケージ仕様で、台風で苫小牧に行けなかった私への、せめてもの酬い(ご褒美)ですかね。

 第146話でうららちゃんが口元をハスカップでベタベタにしていたあのロールケーキのルーツを美味しくいただきながら、北の大地の熱気をチャージしたいと思います。


 さて、コンボが途切れない梅原商業の二次波状攻撃。


 はたき落とされたボールの先で、桜の決死のブロックによってスローインへと逃れた八々花ですが、果たしてこの極限のハメ手を凌ぎきることができるのか……!?


「まさかの公私混同w」

「春乃うららとか金王美輪とか出してくるぐらいだから、そっちも出してくるのかとばかりw」

と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、続く第153話への執筆の大きな大きな、本当に大きな励みになります!

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