「ダァメ。──アタシの間合いよ」
──勝負。
言葉にすらならない絶対の確信が、ピッチを駆ける背番号11番の柳の全身を支配していた。
椛の放った麗しき空中いなしパスは、梅原商業の守護神・金王美輪の完璧すぎるポジショニングを完全に置き去りにし、ゴール前のわずかな空間にぽっかりと「空白の領域」を生み出していた。
無人のゴールマウス。
宙に浮く白黒の球体。
極限の集中の最中、柳は短く、鋭く息を吐いた。
「──んっ!」
しなった右足の甲が、ジャストのタイミングでボールを捉える。
無駄な力みを一切排除した、確実にネットを揺らすためのダイレクトボレー。
カクテル光線の下、弾丸と化した一撃が、誰もが先制点を確信した軌道を描いてゴールラインの向こう側へと突き進む。
八々花のベンチが歓喜に沸き立ち、三芳野先生や明莉まつりが思わず立ち上がりかけた、まさにその刹那だった。
「──しっ!」
一度は椛の奇策にステップを乱され、芝生へと倒れ込みかけていたはずの金王美輪の身体が、物理の法則を無視したかのような狂おしい挙動を見せた。
お嬢様としての気高きプライドが、開始早々の失点など絶対に容認しない。
美輪は崩れた体勢のまま、軸となる左手を芝生へと叩きつけ、その凄まじい反動を利用して、自身の長い両脚を猛烈な速度で水平に回転させたのだ。
それは、現実のサッカーの枠組みを遥か高みから見下ろす、超絶的な脚技。
まるで目にも留まらぬ高速の連続蹴りを放つかのように、美輪の右スパイクが、ゴールラインを割る寸前の一撃を、空間ごと文字通り「撃墜」してみせた。
パシィィィィンッッッ!!!
スタジアムの喧騒を切り裂く、凄まじい乾いた音が響く。
ネットを揺らすはずだった柳のボレーは、美輪の執念のクリアによって、ゴールラインのわずか数ミリ手前で完全に叩き落とされた。
(──なっ!? 完全に体勢を崩した状態から、あの反応!? ありえない!!)
完璧な連動を力技でねじ伏せられた椛の瞳に、初めて本物の戦慄が走る。
すぐ隣の柳もまた、言葉にならない衝撃にその息を詰まらせていた。梅原商業の守護神が放つ、無傷のプライドという名の圧倒的な壁。
しかし、驚愕している暇など一瞬たりとも与えられない。
美輪が死に物狂いで叩き落としたボールは、そのまま最短ルートで、中盤の危険なデッドスペースへと力強く弾き出されていた。
「セカンド、回収よ!!」
天堂監督がベンチから指示を出す。
中盤陣がセカンドボールを拾おうと一斉に足を伸ばすが、その焦りによる重心の傾きすらも、深紅のユニフォームを纏う梅原商業のMF陣にとっては、格好のカウンターの起点に過ぎなかった。
「ダァメ。──アタシの間合いよ」
落下点へ最初に入り込んだのは、梅原商業の中盤の頭脳、一國杜華。
杜華は、プレスの波が到達するコンマ数秒の手前で、一切の無駄がない幻惑的なステップを踏み、ボールをトラップすることなくダイレクトのヒールパスで後方へと流す。
そこへ、霧神霞が完全にシンクロした最速のタイミングで走り込んでいた。
これこそが、昨夜天堂監督が警告していた梅原商業の無慈悲な高速カウンター(絶対カウンター)。
椛や柳たちの連動によって陣形が完全に前がかりになったその瞬間を狙い澄ました、最速のカウンターパステープがピッチ上で鮮やかに可視化されていく。
乾いたダイレクトパスの音が真夏の夜のピッチに心地よく、そして絶望的に響く。霞から神威那子、あるいは武内優佳へと繋がれる梅原商業のパスワークには、トラップによる迷いが文字通り一瞬たりとも存在しない。
中盤を頭上から飛び越えた『空中庭園』に対し、梅原商業は地上における極限のスピードと予測守備からの連携で、ディフェンスラインを一瞬にして置き去りにしていく。
「舞海さんっ!!」
優佳の右足から放たれた、極上の縦パスが、バイタルエリアへと突き刺さる。
その先で待っていたのは、春乃うららと並び立つもう1人のエースストライカー、背番号10番の八代舞海だ。
カクテル光線の下、舞海は深紅のユニフォームの裾を翻し、不知火流を彷彿とさせるあまりにも華麗で、あまりにも鋭い身のこなしでボールを迎え入れた。
対面する小梅が必死にマークにつこうとするが、舞海が放つ独特のテンポのフェイントは、小梅のコンマ数秒単位の予測守備の逆を突き、一瞬にしてサイドをブチ破る。
「──八代舞海、参ります」
一転して、最大級のピンチを迎えていた。
ディフェンスラインを完全に切り裂かれ、ゴール前に残されたのは、最後の砦である守護神、背番号1番の千鶴ただ1人。
カクテル光線が、ペナルティエリア内に侵入した八代舞海と、長身を活かしてゴールマウスに立ちはだかる千鶴の姿を真っ白に照らし出す。
開始早々の電撃戦。
互いの戦術が目まぐるしく入れ替わる極限の攻防の中で、ついに準決勝最初の決定機が、梅原商業の足元へと託された。
「──八代舞海、参ります」
一転して、最大級のピンチを迎えていた。
ディフェンスラインを完全に切り裂かれ、ゴール前に残されたのは、最後の砦である守護神、背番号1番の千鶴ただ1人。
カクテル光線が、ペナルティエリア内に侵入した八代舞海と、長身を活かしてゴールマウスに立ちはだかる千鶴の姿を真っ白に照らし出す。
開始早々の電撃戦。
目まぐるしく攻守が入れ替わる極限の初手において、八々花の命運は、この守護神千鶴のセービングへと託された。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
さて、ここで金王美輪さんの超絶リカバリーから、中盤の一國杜華へとボールが渡りました。
一國杜華のモデルは、格ゲー界を代表するあの夜の女王、モリガン・アーンスランドです。
作中で炸裂した「ダァメ。──アタシの間合いよ」という台詞は、実際にモリガンの台詞集をじっくり眺めながら、「彼女ならきっとサッカーのピッチ上でも、こんな風に不敵に、大人の余裕で喋るはず……!」と考え抜いて差し込んだ、作者お気に入りのこだわり部分だったりします。
彼女の持つ妖艶で小悪魔的なニュアンス、そして『強キャラ感』が読者の皆様に少しでも伝わっていましたら幸いです。
そんな杜華たち梅原MF陣の無慈悲な『十割コンボ』が繋がり、最後は不知火流を彷彿とさせるアタッカー・八代舞海さんが八々花ゴールへと襲いかかります。
開始早々、一転して大ピンチを迎えた八々花女子。ゴール前に立ちはだかるのは、我らが誇るエリート守護神・松明千鶴ただ一人……!
「杜華さんのセリフ、モリガン様の妖艶なオーラが完全に見えた!」
「美輪さんのミラージュキックからのコンボが速すぎて息ができない……!」
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