「オレの後ろに、ゴールは絶対にない!! 後ろは全部オレがハメ殺してやるから、目の前のピースを1人も通すなァァァ!!!」
「──Чёрт возьми!(チョールト・ヴァジミー!!!)」
氷の無表情を完全に剥ぎ取られたてとらの口から、激昂の罵倒がスタジアムに響き渡った。
萩子が自らの闘志のすべてを乗せて空中戦から放った、鋭利なダイレクトシュート。
ゴール右上隅の最深部へと鋭く強襲するその凶暴な弾道に向けて、てとらは巨体を極限まで投げ出し、必死にその右腕を伸ばした。
正面で捉える余裕などない。
てとらが必死に伸ばしたその手のひらが、ミリ単位の精度で、辛うじてシュートコースへと触れた。
バシィィィンッ!!
肉厚なキーパーグローブを貫通するほどの凄まじい衝撃音がスタジアムに炸裂する。
てとらの手のひらに触れたボールはわずかに軌道を変え、クロスバーの上へと辛うじて外れていった。
落果成学院は失点を免れた──。
──だが、その代償。
ピッチへと着地したてとらの右手の指は、萩子のシュートが誇る凄まじい破壊力に耐えかね、グニャリと不気味な角度に歪んでいる。
いつもの鉄面皮へと回帰し、紫色に腫れ上がり始めた右指を静かに見つめる視線。
駆けつけたトレーナーの「交代だ」という冷酷な判断に対し、てとらはその場を1歩も動くことなく、毅然と首を横に振った。
「──Я могу играть! Ерунда, просто ушиб!(ヤ・マグー・イグラーチ! イルンダー、プロースト・ウシーップ!)」
まだ戦える、こんなのただの打撲だ──そうロシア語で激しく食い下がるものの、右指の靭帯は完全に限界を迎えていた。
その意地をへし折るように、無念の負傷交代を告げる電光掲示板が容赦なく掲げられる。
てとらは奥歯を噛み締め、こみ上げる悔しさをその氷の瞳の奥へと押し殺す。
──そして。
急遽ビブスを脱ぎ捨ててピッチへ送り込まれる、控えゴールキーパーの弾美へと静かに向き直る。
「──Я всё. Дальше сама.(ヤ・フショー。ダリシェ・サマ)」
あとは頼んだわよ──。
いつもの冷徹なトーンの奥に、落果成のプライドをすべて託す確かな信頼を滲ませ、てとらは自らのグローブを手渡してピッチを退く。
全国シード校の絶対防壁が、八々花の執念の突撃によって、物理的に引きずり下ろされた瞬間。
絶対的な盾を失い、動揺が走る落果成学院のピッチ。
弾美はその小柄な身体を弾ませ、カラフルな髪を揺らしながらゴールマウスへと入る。
だが、その瞳には──シード校の2番手としての、強い闘志が宿っていた。
だが、この守備崩壊という最大のイレギュラーを突きつけられたことで、最前線に立つ愛歌の瞳から、マイペースな天才の光が完全に消え去った。
そこに灯ったのは、奇麗にハメることをすべて投げ打った、真の勝負師の獰猛な炎。
「あはは……盾が消えちゃったなら、もう奇麗に並べるのはやめだ。システムがパンクする前に、ボクたちの全エネルギーを乗せて、力尽くで押し流すよ……!」
落果成学院のシステムが、攻撃のパラメータを限界突破させた超高速の大連鎖シフトへと暴走を始める。
羽豆竜子を起点とした青いユニフォームの波。
1秒の淀みもない凄まじいテンポのパスワークが、八々花の陣地へと津波の如く雪崩れ込んできた──。
馬路雫がピッチの左右を激しく往復しながらボールを吸い上げては、ダイレクトで最前線へと投げ返す。
その跳ね返りを両替響貨が一瞬のサイドチェンジへと高速で『両替』し、さらに文文字中が、八々花の守備がスライドするよりも早く次々とディフェンスラインの隙間へピタッと体をねじ込んでいく。
カチッ、カチッ、カチカチカチッ──!!
音が重なり合って耳鳴りを起こすかのような、狂気的なワンタッチパスの弾幕。
それは、画面がパズルブロックで一瞬にして埋め尽くされていくような、処理落ち寸前の『多重飽和連鎖』だった。
奇麗に並べる規律を捨て、ただ「速度と物量」の暴力だけで全てを押し流そうとする、シード校の本気の猛攻。
その圧倒的な風圧が、八々花のゴール前を真っ青に染め上げていく──。
「──引きなさい! MF陣も全員バックラインまで下げ! なりふり構わず、泥臭く全員で網を張るのよ!!」
ベンチサイドから、天堂監督の鋭い怒号がピッチへと突き刺さる。
ここからは1分1秒が地獄の攻防。完全体となった落果成学院の狂暴な猛攻に対し、八々花は桜や小梅、藤乃のDFラインだけではない。
菊鞠、あやめ、牡丹──また、先ほど前線へと突撃していったはずの萩子までもが、全員自陣のペナルティエリア付近まで死に物狂いで引き返し、守護神である千鶴の前へと肉体の壁を何重にも敷き詰める全員守備を構築していく。
「──牡丹さん、内側が薄いですっ! 相手エースはそこを連鎖の起点にしてますっ!」
「分かっていますわ、あやめさん! ──桜さん、内側を絞って! 藤乃さん、10番のパスコースを力尽くで限定なさい、一列でも作らせたら消されますわよ!!」
泥を激しく撥ね上げながら、ダブルボランチを組むあやめと牡丹の2人が、パズルロジックの叫びで決死のライン統制を敢行する。
菊鞠が余裕なく身体を投げ出してパスラインに食らいつき、復活した藤乃と小梅のコンビもまた、牙を剥いて10番の突進に泥まみれで立ちはだかる。
「まだだ! まだラインを下げるな!! 相手に二手目を敷き詰めさせるなァッ!!」
最後方から八々花の陣営を大きな声で叱咤激励し、張り裂けんばかりのコーチングを飛ばしたのは、GKの千鶴だった。
普段の静かな佇まいからは想像もつかない、野生の如き咆哮。千鶴は長身を極限まで引き絞り、泥を噛み、ゴールマウスの最奥から味方の背中へ向かって、その魂を燃え上がらせるようにして怒号を響かせる。
「オレの後ろに、ゴールは絶対にない!! 後ろは全部オレがハメ殺してやるから、目の前のピースを1人も通すなァァァ!!!」
守護神のその命懸けの掛け声が、泥まみれになった八々花イレブンの肉体に、最後の執念のガソリンを注ぎ込む──。
1点をもぎ取るためにシステムを狂わせる落果成と、そのたった1点のリードを死守するためにプライドをすべて投げ打って泥にまみれる八々花。
カクテル光線の下、両校の意地と執念が完全に臨界突破した総力戦の幕が、今、切って落とされた──。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
落果成学院のGK、四角てとらが萩子のシュートで指を負傷して交代し、そこから落果成学院がなりふり構わない前傾プレイ、そしてそれを迎え撃つ八々花イレブンという場面となりました。
代わりに入ったGKは泡淵弾美ちゃん。
パズルボブルモチーフです。
泡沫と書いて「うたかた」と読ませるか、とか、あるいは「歌方」にしようか、などと考えたりもしました。
ちなみに「泡沫」という苗字は、創作の中にしかいないそうで。
これをそのまま使うかどうするか、悩みました(今更ではある)
さて、八々花女子は1点を守りきることができるのか?
それとも同点とされるか?
はたまた追加点を取るのか!?
次回をお楽しみにください!
「名前のリアリティ、主人公が神酒盃でみかづきと読ませている時点で今更ではあるw」
「パズルボブルモチーフw ここまで来たら、もっと名前のバリエーション出してみて欲しいw」
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