「──浅知恵の輪ァーーーッ!?」
「──ちゃあんと首、洗っといたかァ!?」
魂の底からの咆哮とともに、退場処分の悪夢を完全に脱ぎ捨てた4番・藤乃の軸足が、カクテル光線の下で爆発的に踏み込まれた。
落果成学院のコーナーキック。ショートコーナーから素やすいパスワークで中央へと戻され、愛歌を終着点とした完全体の多重連鎖が、八々花のペナルティエリア内を一分の隙間もなく敷き詰めにかかった、まさにその刹那。
完全に目の覚めた藤乃は、泥臭く、かつ執拗な密着マークで愛歌を猛追する。
その激しくも鋭いチェイシングのキレ味は、夜空を切り裂いて鋭く鳴くホトトギスの如き鋭さだった。
カードの恐怖を完全に脱ぎ捨てた野獣の如き圧迫に、愛歌の天才的なパズル脳が戦慄する。
(う、嘘っ!? ラインのバグが消えて、ボクの設置コースが全部塞がれていく……!?)
藤乃は強烈な肉体の壁をぶつけるようにして愛歌の自由を奪い、彼女の選択肢を外側へと強引に「誘導」していった。
──そして。
藤乃が執念でハメ込み、追い詰めたその進路の先──。
完璧なタイミングで、そのライン上に網を張って待ち構えていた影があった。
小梅である。
春の訪れを告げるウグイスの如く静かに、かつ冷徹なレーダーで全てを予測していた小梅は、藤乃がハメ込んできたボールに対し、一切の躊躇なく鋭いスライディングを敢行した。
一分の隙間もなく球体を完璧に挟み込んで刈り取るインサイド。
幾度にも及んだ落果成学院の完全体システムを、八々花の誇る二羽の鳥が、真っ正面からの「二手連鎖」によって跡形もなく全消し(バースト)してみせた瞬間だった。
小梅が泥にまみれながら死に物狂いで掻き出したセカンドボール。
その鋭い弾道を中盤の底で呼び込んだのは、あやめだった。
あやめはただ静かに。
ただ眼鏡の奥の戦士の瞳で前線を見据え、琴の絃をしなやかに弾くかのように、ダイレクトで右足の甲へとボールを乗せる。
落果成学院が「超前傾シフト」で全員が攻撃に比重を置いていたからこそ、彼らのディフェンスラインの裏には、今度こそ広大な、無防備なスペースが剥き出しになっていた。
「──あやめ!!」
地鳴りのような足音とともに、中盤の底からその名前を吼えたのは、萩子だった。
萩子は柳や椛たちが走り出すよりも早く、ただ左足一本の圧倒的な推進力だけで、直線最速の猛ダッシュを開始する。
あやめの右足から一閃された、ミリ単位の精度を誇る極上の逆襲ロブパス。
その美しい放物線の落下点へ向けて、落果成学院が誇る空中戦の支配者、服部李々珠が驚異的な跳躍力を爆発させた。最高到達点での空中インターセプトを狙い、上空の空間そのものを立体的にハメ殺しにかかる、圧倒的な対空ディフェンス。
同時に地上では、センターバックの柱円香らが素早いステップで肉体を反転させ、一分の隙間もなく萩子の進路を塞ぐ精密なる密着防壁を敷き詰めていく。
上空のラインを潰す李々珠の跳躍と、地上のルートを完全に封鎖する円香の網。
それらは、八々花の反撃を冷徹にハメ殺すために構築された、一分の隙間もない落果成の精密なる知恵の輪の如きディフェンスシステムだった。
──だが。
その青い壁の真っ正面から、ただ左足一本の圧倒的な推進力と重量級のフィジカルだけで、弾丸の如く激突していったのは萩子だった。
「パズルなんてのは、力づくで突破すりゃいいだろうがぁッ!!!」
「──浅知恵の輪ァーーーッ!?」
ドガァァァン!!!
肉体と肉体が激しく衝突する、今日一番の凄まじい衝撃音がピッチに炸裂した。
細かなステップもパズルの計算も一切無視した、純度100%のパワーと質量の暴力。
空中戦の支配者である服部李々珠の巨体が真っ正面から圧倒され、地上で強固な防壁を敷いていた柱円香ともども、絶望の悲鳴を上げながら派手に空中に弾き飛ばされた。
落果成が誇る堅牢な防壁のピースが、萩子の理不尽な突撃によって文字通り力尽くでバラバラに引きちぎられ、こじ開けられた瞬間だった。
「……萩子さんにかかったら、ゴルディアスの結び目も形無しですわね」
左右の縦ロールを揺らしながら、ボランチの牡丹が、その凄まじい破壊劇の結末を静かに見送った。
激しい接触の衝撃で上空へと高く跳ね上がった、泥のついたセカンドボール。
青いユニフォームの壁が完全に崩壊し、落果成のペナルティエリアの最深部──絶対守護神・てとらの目の前が、これ以上ないほど完全な『空白』となって剥き出しになる。
(──ここは、アタイが決めるァァァッ!!!)
宙に浮いたボールを見上げながら、萩子の瞳に狂暴な飢えた獣の如き闘志の炎が燃え盛る。
着地と同時、再び爆発的な跳躍。
パスの選択肢など、その脳内には1ミリも存在しない。
大型フィジカルのすべてを質量に変え、自らの左足で強引に空中戦のダイレクトシュートをねじ込みにいった。
萩子の理不尽な突撃に呼応して、柳と椛の二人が、カクテル光線が照らす漆黒の夜空の下、爆速のツインランで同時にゴール前へと雪崩れ込んでいく。
「──Чёрт возьми!(チョールト・ヴァジミー!!!)」
氷の無表情を完全に剥ぎ取られたてとらの口から、地を這うようなロシア語の罵倒がスタジアムに響き渡る。
てとらは失点を覚悟しながらも、その巨体を極限まで投げ出し、ゴール隅へと鋭く突き刺さる狂暴な弾道に向けて、必死にその右腕を伸ばした──。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
前半戦のラストでは、満月と柳のファインプレーで1点をもぎ取りましたが、萩子の性格的に、「アタイも一点取ってやる!」となる気がしました。
そして、パズルチームに対する萩子の答えが今回のプレイですが、いかがでしょうか。
「浅知恵の輪」ということですが、実は僕も、知恵の輪を始めて遊んだ時に、力づくで引っこ抜くものだとばかり思っていたのです。
ルービックキューブなども分解したりもしました。
箱根細工、10手のものだと物足りなくて、一番難易度高い100手に挑みましたが、無理でした。
いまだに開けられていません。
開かずの箱です。
意外と作者、萩子と同類なのかも知れません。
さて、次回は140話。
萩子の浅知恵の輪シュート、どのような結果となるのでしょうか!
お楽しみに!
「萩子の脳筋プレイ、これを見たかった」
「萩子はアレクサンダー大王だったl?」
「箱根細工、難しいよね」
「あんなん楽勝だろwww作者ちょっろw」
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