「後半も泣きっ面拝ましたるから首洗って待っとけや!」
──ピ、ピ、ピーーーッ!!!
前半戦終了を告げる主審の長いホイッスルが、スタジアムの夜空へと吸い込まれていく。
トップの柳が放った、新型『燕返し』の異次元バナナボレー──。
それが落果成学院の絶対防壁をブチ抜き、八々花女子サッカー部が奇跡の先制点(1点)をもぎ取った直後のタイムアップだった。
1-0のリード。
これまでの八々花の歴史にはない、完璧なビハインドなしの展開。
メンバーたちはカクテル光線のピッチを退き、確かな高揚感をその胸に宿しながら、熱気の渦巻くベンチ裏へと引き揚げていった。
ピッチから客席の下へ、冷たいコンクリートの控え室へと戻る入場トンネル。
前を歩いていた満月の背に向けて、後ろから歩いてきた柳がガバッと勢いよく抱き着いた。
「わあっ!──道風さん、急に抱き着くからびっくりしましたよ」
お団子ヘアを揺らしながら、満月が驚いたように振り返る。
ピッチ外でのいつもの気だるげな表情に戻った柳は、満月の背中に顔を埋めたまま、ただ「んっ!」と短い声を漏らして、グッと小さな握りこぶしを満月の目の前に突き出した。
満月はその拳を見ると嬉しそうに微笑み、自らの拳をコツンと優しく当てた。
「ナイスシュートでしたよ」
前半の完璧な囮連携を成功させた二人の間には、言葉以上の確かな信頼の熱が通い合っていた。
「みんな、最高の先制点なんよぉ!」
「マジうちら大金星じゃん! アゲすぎっ!!」
「や、柳先輩、満月先輩、すごかったです……っ」
ロッカールームの前でカスミやまつり、恋々たちがタオルを差し出して大興奮で迎える中、メンバーたちは熱気に満ちた部屋へと戻り、各自が水分を補給してひと息ついた。
一同の呼吸が整ったところで、知将・天堂監督がホワイトボードの前に立った。
視線が冷徹なデータ至上主義の指揮官へと集中する。
「よくやったわね。私が授けた戦術を、完璧にやってのけたじゃない」
天堂監督の唇から飛び出した、ストレートな称賛の言葉。
赤地に白のラインが走るスポーツキャップの影から向けられる、普段の厳しいデータ分析からは想像もつかないその一言に、椛やあやめ、あるいはディフェンスラインを死に物狂いで統制した桜たちが、パッと表情を綻ばせた。
「ただし。ここからは落果成もなりふり構わなくなってくるはずよ。特にあのトップ──名座愛歌には注意なさい」
天堂監督の言葉が、冷徹な響きを帯びてロッカールームの空気を一気に引き締める。
赤地に白のラインが走るスポーツキャップを少しだけ押し上げ、彼女はマーカーをホワイトボードへ鋭く叩きつけた。
「前半、私たちは彼女たちのパズルの隙間を突いた。けれど相手は全国常連のシード校よ。一度見せつけられた柳のバナナボレーの軌道も、菊鞠のトラップのタイミングも、ハーフタイムの間に冷徹にシステムへと組み込み、修正してくるわ」
コン、と硬質な音が静寂に響く。
ホワイトボードに描かれた落果成学院の布陣を指し示し、天堂監督は冷酷に言い放った。
「後半は、システムのバグをすべて潰した完全体の落果成が、『狂暴な大連鎖』を仕掛けてくる。一瞬の隙も作ってはダメ。──そして、たった1点のリードに甘んじて守りに入るなどという、おめでたい弱気は今すぐ捨てなさい」
一同の背筋に、ゾク、と張り詰めた戦慄が走る。
「パズルを完成させる前に、その歪な右足で次の一点を叩き込みなさい。落果成のシステムごと──跡形もなく全消し(バースト)してハメ殺し返すのよ」
「「「はいっ!!」」」
短いハーフタイムを終え、メンバーたちは再び鋭い闘志を瞳に宿し、運命の後半戦が待つピッチへの入場トンネルへと歩み出していった。
スパイクのスタッドが硬質に響く廊下で、先を歩いていた落果成学院の青いユニフォームの列の中から、名座愛歌がこちらを振り返り、ピタッと足を止めた。
先制点を奪われた瞬間に「大打撃──!」と叫んでいたはずの彼女の顔には、悔しそうな色はこれっぽっちも残っていない。
愛歌はボブカットを揺らし、その隣にいる赤石柘榴と並び立つと、菊鞠や柳に向かって、ニシシと悪戯っぽく、けれど最高に獰猛な勝負師の光を瞳に宿して笑ってみせた。
「あはは、ティーチャーの言う通り、前半は完全にボクの計算のバグを突かれちゃったよ! でもね、コンボの修正はもう終わった。後半、ボクたちのなりふり構わない『大連鎖』、最後まで耐えきれるかな?」
柘榴が無言のまま、鋭い眼光で「グー!」とばかりにサムズアップを突き出してくる。
「──なんや! ちまちまパズルだの連鎖だの、まとめてドカンとブチ抜いたるわ! 後半も泣きっ面拝ましたるから首洗って待っとけや!」
藤乃が、八々花の牙を剥き出しにした強烈な煽りを正面から叩き返した。
絶対王者としての理屈を真っ向から踏みにじる特大のカウンターを喰らい、愛歌が一瞬にして「う……っ、言うじゃんかぁ……!」と、獰猛な勝負師の目をさらに鋭く光らせる。
そんな前線の火花を余所に、菊鞠は静かに、自らの右足へと力を込めた。
カクテル光線が眩く照らす、漆黒の夜空の下のピッチへ。
牙を研ぎ澄ました両雄が、次なる「全消し」の弾頭を抱いて再び交錯する。後半戦の幕を開けるホイッスルが、今、夜空に鳴り響こうとしていた。
カクテル光線が眩く照らす、漆黒の夜空の下のピッチへ。
前半のバグを修正し、完全体となってハメ殺しにくるシード校と、そのシステムごと上からバーストして圧殺し返さんとする八々花。
牙を研ぎ澄ました両雄が、次なる「全消し」の弾頭を抱いて、再び緑の芝生の上へと散っていく。
──ピッ、ピーーーッ!!!
スタジアムの夜空に、運命の後半戦の幕を開けるホイッスルが、今、激しく鳴り響いた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
さて、思いのほか、ハーフタイムに時間を使ってしまいました。
実は、後半部分の藤乃の煽り、入れ替えたんです。
入れ替え前はこうでした。
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「なんや!おたふくソースなら間に合っとるわ!広島焼きでも食うてろや」
時鳥藤乃が謎の煽りをかます。
あまりにもピンポイントで自分たちの過去の迷走(公式タイアップ)を抉る特大のカウンターディスを喰らい、愛歌が一瞬にして「う、嘘……何でそれを知ってるの……!?」とガチで目を丸くして戦慄する中、神酒盃菊鞠は静かに自身の右足に力を込める。
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個人的にはウケたんですが、あまりにメタノイズになってしまう、とオミットし、現在の本文へと入れ替えました。
そういえば、大阪の人って広島風お好み焼きのことをどう呼ぶんでしょうね?「広島焼き」は、煽りとしてはかなりキツいだろ、と思ってましたが。
ちなみに作者、コンパイルの新社員説明会と、入社試験を受けたことがあります。
社員説明会は、晴海のホテル浦島でした。
入社試験は確か、九段下だった気がします。
当然ながら落ちました。
が、その二年後に、あんなことになるとは思わなかったです。
「柳と満月がてぇてぇ」
「広島に喧嘩売らなくてよかったな、作者」
「それよりも、作者の年齢が気になるw」
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