↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
134/160

「──『ばよえ〜ん』!!」

「──これが、今日対戦する落果成(らっかせい)学院のスターティングイレブンよ」


 インターハイ全国大会2回戦の朝、ミーティングルーム。

 八々花女子サッカー部の知将──天堂任見(てんどう たかみ)監督が、マネージャーのカスミが書き並べたホワイトボードのメンバー表を、指示棒でトントンと叩いた。


【FW】

 名座(なざ)愛歌(あるる)

 文文字(ももんじ)中(あたる)


【MF】

 赤石柘榴(ざくろ)

 馬路(まじ)雫

 両替響貨(きょうか)

 羽豆(はず)竜子


【DF】

 服部李々珠(りりす)

 柱円香(まどか)

 薬研(やげん)真理

 独鈷(どっこ)数珠(すず)


【GK】

 四角(よつかど)てとら


 静まり返る部屋の中、天堂監督は冷徹な視線を崩さないまま、指示棒をボランチの位置へと移動させた。


「一番の警戒人物は、このボランチの羽豆(はず)竜子だ。データ・スタッツを分析する限り、彼女のパス配給はまさに『超絶コンボ』。彼女が起点となってピッチ全体をグルグルと動かすようにパスを回し、何重ものパスコースを同時に発生させてくる」


「……パズルをスライドさせるように、陣形をハメてくるというわけですわね」


 中盤の頭脳である蝶名林牡丹が、優雅な仕草で自らの美しい縦ロールを指先で弄びながら、敵の陣形を冷徹に分析する。


「その通りよ、蝶名林。そしてそのコンボパスの終着点にいるのが、最前線のFW、名座愛歌。彼女が精密にボールをハメ込み、一瞬の隙から『大連鎖』を起こしてゴールを奪いにくる」


 天堂監督はそこで言葉を一度区切ると、ホワイトボードの横に立つ種村へと静かに視線を向けた。


「昨夜、コインランドリーで種村たちに『神域ごと相殺(クリア)してみせる』と言い放ったと報告を受けているわ。間違いなく天才の部類よ」


 天堂監督の淡々とした、しかし確かな警戒を促す言葉に、ダブルゲームメイカーの相棒であるあやめが、不敵に目を細める。


 菊鞠は、昨夜カスミからNINEチャットで共有された愛歌の言葉──『落とす暇もないスピードで連鎖を起こす』を、脳内で静かに反芻していた。


「絶対に、落とさせません……。私たちの『鞠構え』、崩させはしませんから」


 菊鞠は自身の右足にそっと力を込め、静かに闘志を燃え上がらせた。


「よし、ミーティングは以上だ。各自着替えてグラウンドへ入れ!」



 ◇



 ──夜。

 漆黒の夜空を背景に、巨大なスタジアムの照明灯がカクテル光線を放ち、緑のピッチを鮮やかに浮かび上がらせる。


 日中の熱気がわずかに和らいだ空気の中、両チームの選手たちがピッチへと入場し、センターラインを挟んで整列した。


 八々花が纏うは、日本の伝統を美しく体現する和の『濃緑』。

 対する落果成学院が身に纏うのは、深く瑞々しい『青』のユニフォーム。


 対照的な二つの色彩が、スタジアムの光の中に美しく映えていた。


 挨拶を終え、それぞれのポジションへと散る直前。

 落果成学院の青いユニフォームを纏ったキャプテン、名座愛歌が、すれ違いざまに菊鞠の目の前でピタッと足を止めた。


 毛先に少し遊びのあるボブカットを揺らし、愛歌はどこか楽しげに、それでいて絶対的な自信を漂わせて微笑む。

 昨夜コインランドリーでカレーを零して慌てていた姿が嘘のように、その佇まいは淡々として、恐ろしいほどに不遜だった。


「君の『落とさない神域』、動画で何度も数えさせてもらったよ。でも、ボクたちの連鎖はそんなに甘くない。今から、ボクたちのパスが君の右足に届く前に、ピッチごとハメ殺してクリアしちゃうからね。ボクの連鎖、止められるかな?」


 至近距離から放たれた、全国シード校の絶対的エースとしての重いプレッシャー。


 しかし──菊鞠はおっとりとした微笑みを崩さないまま、その美しい黒髪を夜風になびかせ、凛とした瞳で真っ直ぐに愛歌を見つめ返した。


「はい。簡単には崩させません、名座先輩。私たちの『鞠構え』、どうぞ形が消えるまで、存分に動かしてみてください」


「うん、その意気! じゃあ、ピッチの真ん中でね。──ボクたちの『大連鎖』、特等席で楽しんでよ」


 不敵な言葉を言い残し、愛歌は軽快なステップで最前線へと走っていった。

 その背中を見送りながら、菊鞠は自身の右足へ、じわりと熱い力を込める。


──ピィィィィーーーーーーッ!!!


 ピッチ外での前哨戦を経て、ついに本番のホイッスルが夜空に鳴り響いた。

 インターハイ2回戦──八々花女子サッカー部vs落果成学院、キックオフ。


 立ち上がり、最初にボールを保持したのは落果成学院だった。

 カクテル光線を浴びて銀色に輝く白線の上、センターライン付近で最初のタクトを握ったのは、ボランチの羽豆竜子。


 彼女がトン、と小さく足元でボールを突いた──まさに、その瞬間だった。


 八々花の前線(アタッカー)陣の目の前で、落果成の選手たちの陣形が、まるでパズルのピースをスライドさせるかのように、一斉に、そして不気味に連動して動き始めた。


 サイドを鋭く切り裂くファーストパス──。


「──『ファイヤー!』」


 ダイレクトで中央へと折り返す、彼女たちの2連鎖目の掛け声が響く。


「──『アイスストーム!』」


 さらに八々花の中盤を綺麗に裏返す3連鎖──。


「──『ダイヤキュート!』」


 予測不能な軌道でペナルティエリア手前へと落とされる4連鎖──。


「──『ブレインダムド!』」


 ディフェンス陣をパズルさながらにハメ殺す5連鎖──。


「──『ジュゲム!』」


 菊鞠が宿す『あり』『よう』『おう』の請い声とは対極にある、目まぐるしいほどに高速で、狂いなく連動していく連鎖のコール。

 パスが繋がるたびに落果成のシステムが加速し、八々花の守備網に隙間なく噛み合っていく。


 ──そして。


 いつの間にか完璧な最適解(ジャスト設置)のポイントへと滑り込んでいたキャプテン、名座愛歌が、カクテル光線を浴びながら叫んだ。


「──『ばよえ〜ん』!!」


 漆黒の夜空を切り裂くようにして放たれた、絶対的エースの強烈な大連鎖シュートが、八々花のゴールへと襲いかかったのだった。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


 インターハイ2回戦、落果成(らっかせい)学院戦がキックオフ!

 前回のTCG工業高校との一回戦と同様、過酷な猛暑を生き抜くため、現代のインターハイに準拠して、夜のカクテル光線が映えるナイター開催でお送りしております!


 そして試合開始直後から、お馴染みのあの呪文の連鎖パスが炸裂しました。

 ラストの「ばよえ〜ん!」シュート、果たして八々花のゴールは守れるのか!?

 ちなみに、試合前の菊鞠と愛歌との対話、漫才デモにしようと思ったのですが、あまりにもメタすぎて駄目でした(今さらすぎる)


 他にも、あちこちにメタ発言を入れそうになってはオミットする、という。

 過去一、悩まされている気がします(これも、今さらすぎる)


 対戦相手の落果成学院、今回はキャプテンの名座愛歌をはじめ、主要なメンバーが何人か登場していますが……実は、まだ明かされていない残りのイレブンたちも、とんでもないパズルゲームの遺伝子を継いだネーミングばかりです(笑)。


 試合の決着時にイレブン全員のデータを大公開しますので、そちらもぜひお楽しみに!


「ばよえ〜んシュートの威力高そう、千鶴がんばれ!」

「落果成学院のパスワークのスピード感、脳内再生余裕だったw」

「著作権のチキンレースに定評のある作者さん」


 と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、次話以降の執筆への大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。