「うおおおん、ウチは人間火力発電所なんよー! 肉を焼いてご飯を食べる、ご飯を食べたら肉を食べる。永久機関の完成なんよ──」
「はーい、皆さん! 今回は全国大会出場、本当におめでとう! 今日は天堂先ぱ……いえ、天堂監督(と、私)の奢りの焼肉でお祝いすることにしました! ──天堂監督、挨拶お願いします!」
祝勝会の会場となった焼肉店の座敷。
ジョッキを片手に満面の笑みで場を温める顧問・三芳野先生の、お茶目なフライング気味の音頭に、総勢十九名が詰めかけた八々花女子の陣営から、地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
「はぁ。私、こういう席は苦手なのだけど……仕方ないわね。皆、改めて全国大会出場おめでとう。まだ中間地点なのだから浮かれるのは感心しないけれど、初出場なら大目に見るべきかしら。本当に、色々あったけれど──」
グラスを片手に、相変わらずの冷徹なロジックでツンとした祝辞を述べる天堂特別監督。このままではめでたい祝勝会が血も涙もない公開反省会になってしまう──そう直感した三芳野先生が、慌ててグラスを掲げてその言葉をインターセプトした。
「は、はい! 天堂監督、素晴らしいお言葉ありがとうございましたーっ! では急遽ですが、キャプテンの鹿戸椛さん! 乾杯の音頭をお願いします!」
「えっ!? ボ、ボクっ!? ──あ、う、うん! 皆、本当にお疲れ様! 全国大会でも、ボクたちのサッカーをしよう! 乾杯ーーーッ!!」
「「「カンパーーーイッ!!!!」」」
カツィィンッ!
ジョッキやグラスが激しくぶつかり合う音を合図に、十九名の八々花女子サッカー部による、これ以上ないほど過酷で愛おしい「焼肉大戦争」のホイッスルが鳴り響いた──!
「うおおおおお、焼肉だあああああっ!」
グラスを置くより早く、凄まじい雄叫びと共にトングを突き上げたのは猪目萩子だ。
網に置くや否や、火が通っているかも怪しいレア状態の肉を、圧倒的な暴走特急の勢いで貪り尽くしていく。
ジューーーッッッ!!!
脂の爆音を響かせる六人掛けテーブルは、さっきまでの予選決勝に勝るとも劣らない、剥き出しの野生が衝突する「戦場」と化していた。
だが、守護神・松明千鶴のトング捌きが守っているのは、己の胃袋ではない。
「――ほら、これはもう焼けてるぞ。肉ばかりでなく、野菜もちゃんと食べろ」
「あ、ありがとう。……アタシのことはいいから、千鶴もちゃんと食べてね」
千鶴の鋭い眼光は、隣に座る桐子の皿を完璧にプロテクトするためだけに光っていた。 ピッチ上の絶対的ディフェンス能力を、ここでは「鳳桐子専用の焼き奉行」として完全転用。
萩子が「おい千鶴、アタイにもその骨付きカルビくれ!」と網を侵略しにかかっても、「自分で焼け。人任せにするな」と冷徹にシャットアウトしてみせた。
「あーっ! 柳先輩、それアッシが大事に育ててた肉ッスよ!」
そんな大戦争の局地、モウモウと立ち込める煙の向こうから、一年・萩原赤音の悲痛な叫びが響き渡る。
「……(モガモガ)」
赤音の皿のマークを一瞬で外し、極上の焼き加減となったターゲットを神速でごっつぁんゴール(強奪)するエース、道風柳。
「アッシ、来年以降に後輩が出来ても、後輩の肉だけは絶対に奪わないって固く誓ったッス……!」
涙で塩味になったライスを、ただひたすらに貪る赤音だった──。
お隣が「戦争だろうがっ!」とトングの爆音を響かせている横で、こちらのテーブルでも、別の意味で強烈な個性が火花を散らしていた。
「食べ放題のお店、実は初めてですの。でも、こういう感じなんですのね。──この特級カルビを頼むのは……いえ、せっかくの先生がたの奢りですから、無粋な真似は出来ませんわね」
「ひっ! お姉様、特級って食べ放題対象外の一皿5,000円……っ!」
メニュー表の「別格」の文字を優雅に見つめる蝶名林牡丹に、一年の菖蒲田青衣が顔を青ざめさせて必死にトングを振る。三芳野先生の財布が限界突破を起こす一歩手前のその静寂を、スマホを構えたギャルマネージャーが完璧にハッキングした。
──カシャシャシャシャッ!
「はいみんな、お肉焼ける前にスマホ見てー! いくよ、はい、優勝〜!……キャハハ! 青衣っちの顔ガチでヤバい、前髪完全に死んでるじゃん! でもマジでうちら最強! 本当にお疲れ、もう一枚いくよー!」
パシャリ。
ファインダーの向こう側、キャプテンの鹿戸椛はフッと顎を引き、ピッチの外でも一切崩れない宝塚の男役のような完璧な流し目をカメラへと投げつける。
「……まつりくん、個人情報は気をつけてくれると助かるよ」
完璧なキメポーズを崩さぬまま、キャプテンとしての冷静なセキュリティ意識を覗かせる椛。
そんな賑やかな網の熱気の中で──ただ一人、藤乃だけが手元のタレ皿を見つめ、ぽつりと寂しげに零した。
「自分、あんなん(退場処分)やらかしてもうたのに、ここに居てええんかなぁ……」
レッドカードの悔恨。
まだどこか負い目を感じている相棒の肩を、隣に座る小梅が、いつもの脱力モードを完全に解除した真剣な瞳で優しく揺らした。
「それはそれ、これはこれだよ、藤乃ちゃん! うちだって、藤乃ちゃんがサッカー部に繋いでくれなかったら、今こうして『ここ』には居ないんだから!」
「小梅……」
「はい、というわけで、あーん」
「──ちょっと小梅! あーんなんかせんでも、自分で食えるわ! 堪忍してや!」
そして、さらにもう一つ別の卓――。
「はい、これ焼けました! あ、これはまだです。網は私に任せて、皆さんはとにかく食べてください!」
トングを両手に、凄まじい視野の広さで網の上の火力を完全に統率しているのは満月だ。
生来の生真面目な性格が、ここでは「完璧な焼き奉行」として一二〇%の出力で発揮されている。
「うおおおん、ウチは人間火力発電所なんよー! 肉を焼いてご飯を食べる、ご飯を食べたら肉を食べる。永久機関の完成なんよ──」
「カスミちゃん、それ以上いけない」
ハフハフと肉、ご飯、そして肉……と、某商社マンのごとくひたすらに掻きこんでいくカスミに、桜が苦笑いを漏らす。
これ以上オマージュの出力を上げたら、あらゆる意味で防衛線(権利的な意味)が破綻しかねない──ピッチ上で培った予測能力を、大人の事情のブロックに費やした、見事な危機察知であった。
「あはは! カスミちゃん、お相撲さんにでもなるのかな! ほら、あやめちゃんもいっぱい食べなよ!」
お茶碗を片手に、満面の笑顔で隣の相棒に声をかける菊鞠。
「ありがとう、菊鞠ちゃん。……うん。すごく、美味しいね」
あやめは優しく微笑み、満月が差し出してくれた肉を口へと運んだ。
──だが、その直後だった。
テーブルの下に置かれたあやめのスマートフォンの画面が、不穏に、そして静かに明滅する。
『あやめ。発表会のスケジュールを送ります。両立の約束、忘れていませんね』
画面に浮かび上がったのは、筝曲の家元である母親からの、逃れられない現実を突きつける冷徹な文字。
楽しそうなカスミたちの歓声が、まるでガラスの向こう側へと遠のいていくような錯覚。あやめは菊鞠の眩しい笑顔を盗み見るように一瞬だけ見やり、祈るようにそっと唇を噛みしめて、スマホの画面を裏返した──。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
地区予選の熱い試合を書き進めてきたので、ここで少し、箸休め回として焼肉で祝勝会をするシーンを挟みました。
六面山高校の後の甘味処とは違ったノリを楽しんでいただけたらと思います。
いや、カスミと桜の掛け合いは、個人的にやりきった感があります。
そして、不穏――!
実は、当初のプロットではどこかで入れよう、入れよう、と思っていたのです。
が、ついつい試合を書くのに夢中になりすぎて、忘れてました。いえ、見ないフリしてました!!
「逃れられない現実を突きつける」という地の文、僕自身にも突き刺さってます!
そんな不穏な終わり方をしたわけですが、あやめはどうなってしまうのか。
次回もお楽しみに!
(※ここでちょっと作者からの大切なお知らせ。9月24日〜26日までの3日間、リアルなお仕事の関係で更新をお休みさせていただきます! 脳内戦術ボードを全国大会に向けてバチバチに仕込んで戻ってきますので、あやめの運命と、次話からの地獄の赤点サスペンスを全裸でお待ちいただけますと幸いです!)
次回、9月27日の更新をお楽しみに!
「柳ちゃん、食べ物の恨みは怖いでな」
「小梅ちゃんの『はい、あーん』の破壊力!」
「カスミ、ゴロー化しとるwww」
「不穏!」
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