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「――投了だ。見事な棋譜であった、八々花」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

――ピーッ!

    ピーッ!

       ピィィィィッ!!!


 試合終了のホイッスルがスタジアムに響き渡る。

 その瞬間、力尽きたようにゴールマウスに大の字に横たわる、柘植駒高校のキャプテン王麗央。


「――投了だ。見事な棋譜であった、八々花」


 黒白の鬣をした顔を汗と涙で濡らし、麗央はスタジアムのぎらつく空を仰ぎ見て、不敵に笑った。

 冬の選手権予選の準優勝校の夏が、この予選1回戦の初陣で完全に潰いえた。

 一発勝負のトーナメントが持つ冷徹な現実が、ライオンを思わせる巨躯を盤上(ピッチ)に容赦なく縫い付けている。


「キャプテン……っ!!」


 麗央の視界に、将野金華に銀華、轟飛、行者ヶ谷角玲……共に戦った柘植駒のチームメイトが映る。

 彼女たちは一様にボロボロと涙を零していた。


「悔しいのは解る。私も同じだからな。だが、泣くのは後だ、お前ら。先に整列して挨拶を済ませるぞ」


 その言葉と共に、麗央は自身の力で力強くゴールマウスから立ち上がった。最後まで背筋を伸ばし、涙する主力駒たちを気高く率いて、ピッチ中央へと歩みを進める。


 ――そして、両チームが中央へと整列し、ガチッと固い握手を交わす。

 終盤5分で下がったキャプテンの鹿戸椛に代わり、鳳桐子が王麗央の手を握る。


「いいチームね、王」

「ああ。だが一歩及ばなかった。だが、柘植駒の精神はまだ死んではおらん。次は冬の盤面だ。その時に、この借りは返すぞ。覚悟しておけ」


「ええ、もちろん。もっとも、その時は返り討ちにしてやるけどね」


「――ふん。インターハイ、私たちの分まで暴れてこい。無様な負けは許さん」


 二人の間に、熱く、爽やかな再戦の誓いが交わされた。

 夏の全国への切符を八々花へと託し、暑苦しくもどこまでも誇り高い後ろ姿でピッチを去っていく柘植駒イレブン。


 こうして、新設されたばかりの八々花女子高等学校のサッカー部は、インターハイの初戦の勝利を飾ったのであった。


 ◇


 歓喜に沸くロッカールーム。

 初戦突破の大金星に赤音たち1年生が拳を突き上げて喜ぶ中、天堂はパチパチと静かに手を叩いて現れた。


「まずは初戦突破、お疲れ様。冬の地区予選・準優勝校を相手に、薄氷とはいえ勝ちを捥(も)ぎ取ったのは事実よ。本当によく戦ったわ」


 前半、神酒盃(菊鞠)の計算を超えたピンボールパスから始まった、柘植駒の陣形を逆手に取る奇襲。

 後半立ち上がり、指示を待たずに蝶名林(牡丹)、鹿戸(椛)、猪目(萩子)の二年生トリオが瞬時にピッチへ描いた《猪鹿蝶》の猛攻。

 時鳥(藤乃)と鴬塚(小梅)が罠にハメて『打たせた』鉄壁の守備から、松明(千鶴)、幕ノ内(桜)、薄(満月)、道風(柳)へと中空を繋いだ《五光》――。


 そして最後の最後、文字通り試合を『シャン・シャン(ハメ殺し)』で終わらせた八橋(あやめ)の底歩。


 そのすべてが、完璧なパズルのように噛み合って掴んだ一勝だった。


「誰一人としてサボらず、全員が自らの役割を全うしたからこそ、この勝利を掴み取れた。これこそが、今の八々花の強さよ」


 天堂の言葉に、八々花イレブンは照れ臭そうに、しかし誇らしげに天堂に向けて微笑む。


 だが、労いの言葉の裏にある過酷な現実に、天堂は一転して厳しい表情を浮かべた。


「だけど、手の内をすべて晒してようやく掴んだ初戦よ。中二日――三日後にはもう、第二試合が迫っているわ。今すぐアイシングを徹底して、一秒でも早く身体のケアに回りなさい。……全員、わかっているわね?」


 張り詰めた空気の中、天堂の視線が、歓喜に沸いていた一年生たち――とりわけ、赤音と青衣の二人へと真っ直ぐに向けられた。


「萩原(赤音)、菖蒲田(青衣)。二年生を休ませるためにも、第二試合は貴女たちにもスターティングメンバーとして入ってもらうわ。その心づもりでいなさい」


 ――その言葉に、赤音と青衣の息が止まる。

 冬の準優勝校を倒した代償、長きにわたるステイルメイトの疲弊、そして突如として訪れた初スタメンの重圧が、一年生の二人に重くのしかかった。


 だが、彼女たちに怯む時間すら与えられないほど、次なる敵の数字はあまりにも狂暴だった。

 同時刻、別ピッチで行われていた第一巡のもう一つの試合。


 八々花女子が次戦で激突することになる相手――六面山(ろくめんざん)高校の初戦スコアは、スタジアムの速報掲示板に、不気味なまでの大差を刻みつけていた。


 【 6 - 0 】


 すべての『目』を出し尽くし、初戦を完全なるワンサイドゲームで蹂躙した、不気味なサイコロの駒。

 凄まじい爆発力を秘めた次なる敵の存在に、八々花のロッカールームに新たな戦慄が走る。


 ――満身創痍の八々花が、次に出逢うのは『最凶の怪物』か。

 突きつけられた絶望の数字を前に、新入部員の赤音と青衣はただ、冷や汗を滲ませることしかできなかった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!


 これにて冬の準優勝校・柘植駒高校との開幕戦、完全決着です!


 負けてなお気高く、冬の選手権での再戦を誓って去っていったオレオキャプテンたちの後ろ姿、本当に格好よかった……!オレオだけど!


 こうして新設校としての歴史的な一歩を刻んだ八々花女子サッカー部ですが、高校サッカーのタイムラインは非情。息を突く暇もなく、3日後にはもう2回戦が迫ります。


 しかも、次なる対戦相手・六面山高校の初戦スコアは驚愕の【 6 - 0 】。

 先輩たちが満身創痍の中、初スタメンの凄まじい重圧を背負ってピッチへ立つことになった1年生の赤音と青衣。果たして八々花は、この理不尽な確率の怪物を相手にどう戦うのか……!?


「オレオキャプテン、最後まで最高のライバルだった!」

「初戦突破おめでとう! でも次戦の【6-0】の数字が不気味すぎる……!」

「赤音ちゃんと青衣ちゃんの初スタメン、冷や汗ものだけど全力で応援したい!」


 と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、次話(2回戦・六面山高戦)の執筆への大きな励みになります!


 次回第109話、出たとこ勝負のばくち打ち。予測不能なサイコロの目の前に、八々花の1年生トリオが泥臭いフィジカルで挑みます!


 お楽しみに!

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