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「お、お姉さまあぁぁぁぁぁ!! ワタクシ、お姉さまの顔に泥を塗るどころか、自分の背後(おしり)でゴールを割ってしまいましたわぁぁぁ!!」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

――ドワアアアアァァァ!

   ブババブゥわばあばばぁぁあいおん!

      ブババブゥわばあばばぁぁあいおん!


「な、なぁ。アオイっち。アッシら、本当にこの試合に出るッスか?」


 スタジアムのスタンドから地鳴りのように響き渡る、けたたましいブブゼラの爆音。その異様な熱気に圧倒されながら、萩原赤音は隣に立つ菖蒲田(しょうぶた)青衣の袖をガシッと掴んで、情けない声を上げた。


「て、天堂監督がそう仰ったのですから、否やはございませんでしょう? それとも貴女は、ベンチで観戦していてもいいのですよ? あるいは、あそこでブブゼラでも吹いてらして」


「そうは言ってねッスよ! 第一、アオイっちも足がブルブル震えてるッスよ」


「なっ! こ、これは武者震いというヤツですわ!」


 スタンドを埋め尽くす異様な爆音に気圧される二人の前に、六面山高校のキャプテンが不敵な笑みを浮かべて立ちはだかった。

 背番号九番、FWの黒鉄(くろがね)モモ。


「モモたちと戦うなんて、運が悪いのねん! モモたちにはサイコロの神様がついてるのねん!」


 いきなりブチ込まれた、どこか聞き覚えのあるボードゲームのナビゲーターのような煽り文句。


「……の、のねん? アオイっち、あいつ今『のねん』って言ったッスか?」


「き、奇妙な語尾ですわね……。ですが、完全にこちらを舐めきっていることだけは確かですわ!」


 キックオフの直前、ガチガチの緊張に加えて謎の「ボンビー口調」の洗礼を受け、赤音と青衣の脳内パニックは最高潮に達する。

 対する黒鉄モモは、まるでこれから日本全国を爆走するすごろくの機関車の如く、その双眸(そうぼう)に予測不能なギャンブルの光をぎらつかせていた。


――ピィィィッ!!!


 スタジアムに試合開始のホイッスルが鳴り響く。

 出たとこ勝負のばくち打ち、六面山高校との運命の第(・)二(・)試(・)合(・)が、ついにキックオフされた――!


「いっけええええ! 《急行カード》発動ォオオオ!」


 キックオフの瞬間、六面山のキャプテン・黒鉄モモが、天文学的な確率で『出目6』を叩き出したかのような爆速スプリントで右サイドをブチ抜いてくる。熱くなるとあのゲームの『キングな巨神』の如き絶叫へと変貌するその背後からは、まるで本当に凄まじいSLの汽笛のような幻聴すら聞こえてきそうだった。


「ひゃ、速いッス! 緊張で足が一ミリも動かないッス!」


 萩原赤音のライトサイドアタッカーとしての鋭さは、ガガガと緊張で震える膝のせいで見る影もない。一方、中盤の菖蒲田青衣にいたっては、普段は優雅なセントラルハーフを気取っているくせに、いまや借りてきた藁(わら)人形のように背筋が直立不動である。


 ベンチでは、マネージャーの種村カスミがチャッパチュプスをガリッと噛み砕いていた。


「ダメなんよ……。二人とも緊張のあまり、プレイスタイルが『短冊(ただの直線)』になってるんよ。心が折れた十五センチ定規くらい余裕がないんよ……!」


「もらったぁ! 《ぶっとび》センタリングなのねん!」


 黒鉄モモが右サイドの奥深くから上げた、なんの変哲もない――というか、完全にミスキック気味の弾道。

 それが、ゴール前へ必死に戻ろうとした青衣の、ピンと伸び切った直線的なお尻にクリーンヒットした。


──ポコンッ。


「あ」

「あ」


 変な音がピッチに響く。


 青衣の臀部(でんぶ)に当たったボールは、物理法則を無視した奇妙なループ軌道を描き、八々花の絶対守護神・松明千鶴が思い切り逆を突かれる形で、無情にも自陣のゴールネットを揺らした。


――ピッピッー!


『オウンゴール! 六面山高校、先制!』


「お、お姉さまあぁぁぁぁぁ!! ワタクシ、お姉さまの顔に泥を塗るどころか、自分の背後(おしり)でゴールを割ってしまいましたわぁぁぁ!!」


 頭を抱えてその場に崩れ落ちる青衣。ベンチの牡丹は、美しく巻かれた縦ロールを一瞬だけ引きちぎりそうになりながらも、「落ち着きなさい青衣! 誰にでも『ファンブル』はあるわ!」と必死に拡声器で叫んでいる。


 しかし、ダイスの理不尽はこれだけでは終わらない。

 直後、六面山の人見弥生(ひとみやよい)が「と、とりあえず蹴ります、開拓地に行ってくださああああい!」と前線に放り込んだ、サイコロの目が【1】のようなただの山なりクリアボール。


 これが、今度はパニックになった赤音の足元へ。


「クリアっ! 萩子先輩ばりの弾丸クリアッスゥゥゥゥゥ!」


 赤音が全力で振り抜いた左足。しかし、緊張で軸足がツルリと滑り、ボールは真横――というか、自陣のゴール方向へ時速百二十キロの弾丸となってすっ飛んでいった。


――ドーーーン。


 千鶴の横を、光速の弾丸が通り過ぎる。

 本日二度目の、ネットの揺れる音。


――ピッピッー!


『オウンゴール! 六面山高校、追加点! 【2-0】!』


「ひゃ、萩子先輩ぃぃぃ! アッシの弾丸列猪、逆走しちゃったッスゥゥゥゥゥ!!」


「赤音ェェェー! 落ち着け、たまたまマイナスマスなだけだから! 次はプラスマス狙えぇぇ!」


 ベンチで萩子がウルフカットを振り乱して叫ぶ中、カスミはノートPCの画面を見つめたまま、文字通り白目を剥いて立ち尽くしていた。


「電鉄の逆走に、人生の強制開拓地行きなんよ……。八々花、前半わずか十五分で、相手のシュート本数0本にしてオウンゴール二点。これ、明日のスポーツ新聞に『前代未聞の短冊(デス・ペーパー)コンビ』って書かれるやつなんよ……(気絶)」


――ピッ、ピッ、ピーーー!


 前半終了を告げる非情なホイッスルが響き渡り、四十五分が終了した。

 電光掲示板に刻まれたスコアは【0-2】。そしてシュート数の欄には、両チームとも綺麗に『0』の数字が並んでいる。


「ううう……ワタクシ、もうおしまいですわ……。お姉さまの、八々花の歴史に泥を塗ってしまいました……」


「アッシもッス……。弾丸クリアがバックギアに入るなんて、物理法則がバグってるとしか思えないッス……」


 ベンチに帰ってきた菖蒲田青衣と萩原赤音は、完全に魂が抜けた顔で地面にへたり込んだ。生まれたての小鹿だった足は、いまや生まれたての泥人形のように重く沈んでいる。


「……二人とも、顔を上げなさい」


 凛とした、しかしどこか慈愛の籠もった声が響く。


 青衣が恐る恐る顔を上げると、そこには腕を組んで佇む「お姉さま」──蝶名林牡丹の姿があった。


「お、お姉さま……! 叱ってくださいまし! ワタクシの不甲斐ないお尻のせいで……!」


「バカなことをお言い。誰が貴女のお尻を責めるものですか」


 牡丹はフッと微笑むと、青衣の頭に優しくタオルを乗せた。


「確かに前半の貴女たちの動きは、ただの硬い『短冊』でしたわ。けれど、それは相手の不気味さに呑まれただけ。……ねえ、あやめさん?」


 水を差し出しながら、ボランチの八橋あやめが静かに頷いた。


「ええ。前半の六面山高校の動向、すべて『調律』して聴かせていただきました。――そして確信しました。彼女たちのサッカーには、戦術の旋律(メロディ)が一切存在しないということを」


「旋律が、ない……?」


 赤音が目を丸くする。あやめは眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。


「――はい。次に誰にパスを出すか、本人たちすら分かっていないんです。ただ『出たとこ勝負』で蹴ったボールが、天文学的な確率の偏りで、たまたま一番いい場所に転がっているだけ。前半の彼女たちは、全員がサイコロの【6】を出し続けていただけの、ただの『成金』なんです」


 そこへ、白目を剥いていた幽(・)体(・)離(・)脱(・)から奇跡的に復活したマネージャーの種村カスミが、ノートPCを叩きながら割り込んできた。


「あやめちゃんの言う通りなんよ! 確率論において、偏りは必ず『収束』するんよ! 前半であれだけ幸運(ダイスの6)を使い果たしたんだから、後半のあいつらは間違いなく【1】のファンブルを連発するんよ!」


「あー、そーゆーことね! 完全に理解したわ!」


 猪目萩子が赤音の肩をガシッと掴み、ニカッと笑った。


「要するに、あいつらはただの『運任せ』。対するアタイらは、毎日死ぬほどボールを蹴ってきた『実力派』だ! 後半、ビビらずにいつも通りやれば、絶対にひっくり返せる!」


 先輩たちの力強い言葉に、赤音と青衣の瞳にようやく生気が戻ってくる。


 そんな賑やかな輪の後ろで、神酒盃菊鞠は、おっとりと微笑みながら自分のスパイクの紐を結び直していた。


「ふふ、出たとこ勝負のサイコロ、ですか。どんなに不規則で、どこへ転がるか予測できないボールだとしても……」


「相手が運頼みというのであれば、私たちは神頼み。凶続きのこの試合、吉――いえ、大吉にしちゃいましょう」


 菊鞠は立ち上がり、神社の娘らしく、どこか神秘的で透明な双眸(そうぼう)でピッチを見つめた。

 その佇まいは、これから始まる後半戦という名の「神事」に向き合う、神々しい巫女の姿そのものだった。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


 インターハイ地区予選の第二試合が始まりました。

 対戦相手は六面山高校。

 サイコロをモチーフにしようと思ったのですが、チームメイトの名前はすごろくゲームモチーフです。

 キャプテンにしてFWは「黒鉄モモ」。

 そしてMFに「戴道琉(いただき・みちる)」。

 ボランチは「人見弥生(ひとみ・やよい)」。

 DFに「堀井萌乃(ほりい・もの)」。

 GKは「パティ・毬尾(まりお)」。


としました。

 え?せっかくだから11人揃えろ?

 やってもいいのですが、本文が名前だらけでわやくちゃになりそうじゃないです?

 それか、次回の後書きで、全員揃えてみますかね???


「黒鉄モモ、口調がもろにボンビーwww」

「シュートが互いに0なのに、得点だけは【0-2】なのウケるwww」

「パティ・毬尾ってwww。天堂監督に引き続き、法務部に叱られろwww」


 と思っていただけましたら、ぜひページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、次話(2回戦・六面山高の後半戦)の執筆への大きな励みになります!

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