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「――っていうか、豚生姜焼き弁当!?」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

 ――バァン!!!!


 部室の扉が勢いよく開け放たれ、一人の新入生が、目をこれ以上ないほどキラキラと輝かせて萩子へと突進してきた。


「たのもーーーっ!! 一年生の萩原赤音って言うッス! よろしくお願いシャス! アッシ、去年の冬の選手権予選で、萩子先輩が弾丸列車みたいに敵の裏をブチ抜いたあの爆速プレイを見て、ガチでシビれたッス! あの時からずっと、先輩の一番の舎弟になりたくてここに来たッス!」


「は、あぁ!?」


 いきなり至近距離で大型犬のように尻尾を振られ、メンチを切るタイミングを完全に失った萩子が、あからさまにうろたえる。


「名前に萩があることで、妙な親近感が湧いてもいたッス! アッシも先輩の後ろを死ぬ気で爆走して、ゴールに突っ込みたい所存ッス! これからは萩子先輩を『アニキ』と呼ばせてほしいッス!」


「ア、アニキィ……!?せめてアネキとかアネゴとか、もっとこう――あるだろ!」


「んー、分かったッス。じゃあ、アネゴって呼ばせてもらうッス!」


「お、おう、わ、わかってんじゃねぇか。よーしアッシ!ちょっと焼きそばパン買ってこい!」


「アッシ、アッシじゃねッス!赤音ッス!――焼きそばパンッスね!了解ッス!」


「萩子くん、新入部員をパシリに使うのは、感心しないね」


 苦笑交じりに釘を刺すキャプテン・椛の言葉に、萩子が「あ、いや、冗談じゃん!」と慌てて手を振る。

 大型犬のようにノリノリでパシリを引き受けようとする萩原赤音(茜)の姿に、部室が早くも爆笑に包まれる中、開け放たれた扉の向こうから、呆れたような溜息が聞こえた。


「サッカー同好会に来たつもりでしたが、ここはお笑い研究会だったのでしょうか? サッカー同好会の部室はどこのお部屋か、教えていただけませんか?」


 ツンと澄ました顔で部室に入ってきたのは、いかにも「お上品な優等生」っぽい美少女。


「あ、ごめんなさい。ここはサッカー同好会の部室であってますよ。入会希望の方ですか?」


 あやめが慌てて取り繕いながら訂正する。

 すると、目の前の少女はイレブンを一瞥すると、小さく咳払いをしてから、凛とした声を響かせる。


「……失礼。新入生の、菖蒲田(しょうぶた)――」


「マ?勝負の豚!? つよつよネームじゃん!」


 まつりが目を輝かせて食いつく。


「――っていうか、豚生姜焼き弁当!?」


 すかさず隣から上がった萩子の食いしん坊すぎる空耳に、新入生の美少女の額へ盛大に青筋が浮かんだ。


「誰がお弁当ですか!『菖蒲田』です! 菖蒲田(しょうぶた)青衣(あおい)! ブタって呼ぶのも生姜焼きにするのも絶対に禁止です! 私のことは青衣(あおい)と呼んでください!」


「萩子さん、そういう貴女は猪(いのしし)でしょうに。人のことは笑えなくてよ」


 すかさず横から、牡丹が優雅に冷水を口にしながら、鋭い視線のナイフを萩子に突き刺した。


「あ? アタイの名前は萩子だ! 猪じゃねぇ!」


「いいえ、猪(・)目の猪(・)ですわ。自分のモチーフを棚に上げて、新入生の苗字をお弁当呼ばわりするなんて、不作法極まりなくてよ。ねえ、鹿戸さん?」


「はは、確かにね。萩子くん、ブタもイノシシも、似たようなものじゃないかな」


「似てねぇよ! あとアタイをイノシシって呼ぶなーーーっ!!」


「ウガーーッ」と吠える萩子を尻目に、牡丹が青衣に向き直る。


「ごめんなさいね、騒がしいでしょう?こんな同好会ですが、入ってくださるのでしたら、歓迎いたしますわ」


 優雅にカテーシーを決める牡丹を見て、青衣はうっとりする。


「はわ、お、お綺麗……お姉さま……」


「……は? お、おねえ……? わたくし、妹を持った覚えはありませんけれど……?」


 完璧なまでの困惑。初対面の後輩からのあまりに直球すぎる熱視線に、さしもの気高きお嬢様も縦ロールをピクリと震わせ、素でどう対応していいか分からずフリーズしてしまった。


 向けられた純粋無垢な眼差しに気圧された牡丹が、助けを求めるように隣の椛へ遠い目を向ける。そんな部室の奇妙な静寂の陰から、最後の一人が、おずおずと小さな体を這い出させてきた。


「あ、あの……マネージャー希望の、春日井 恋々(かすがい ここ)です……」


「マネージャー志望!?ついにあーしにも後輩ができるってこと!?」


 まつりが目を輝かせて食いつく。


「あ、はい。サッカーはやったことなくて、っていうか、私どんくさくて、スポーツ全般ダメダメで……みんなからは『カス』って」


 だんだん声が小さくなっていき、最後のほうは聞き取りにくくなっていく。


「ウチもカスなんよ!カ(・)ス(・)ミ!カス同士、仲良くしてほしいんよ!あ、そだ、飴ちゃん食べる?」


 カスミが、萌え袖カーディガンのポケットからチャッパチュプスを取り出して、恋々へと差し出す。

 一瞬にして、部室のピリピリした空気がふにゃりと和らいだ。


「カ、カスミ先輩……! あ、ありがとうございます、飴ちゃんさん、頂きます……!」


 おずおずと差し出されたチャッパチュプスを受け取る恋々の瞳に、じわりと光が戻る。


「ダメですわ! 却下です! 我が八々花女子高サッカー同好会に『カス』などという不名誉な部員は存在させません!」


 復活した牡丹が縦ロールを激しく揺らして宣言する。


「じゃ、じゃあ……本名が恋々(ここ)なので、『ココ(ここ)』って呼んでください……」


「――ッ!!」


 そのあまりの健気さと可愛らしさの直撃に、部室の2年生たちの胸が同時にキュンと撃ち抜かれた。


「ココちゃん……! ガチで治安いいじゃん! 超可愛いんだけど!」


 まつりが悶絶する横で、カスミがふと首を傾げて問いかける。


「でも、ココちゃん、運動苦手なのに、どしてサッカー同好会に入ろうと思ったん?」


 そう尋ねるカスミに、ココはおずおずとスマホを取り出す。


「あの、去年バズった、サッカー同好会の動画を見ました。それで、高校に上がったら、こんなプレイを近くで見たいな、って。――ダメ、でした?」


 きゅるん、と上目遣いで差し出されたスマホの画面。そこに映っていたのは――確かに、菊鞠が異次元の妙足《後ろ鞠》を鮮烈に決めている、ココが純粋に憧れた超絶プレイの映像だった。


 ただし。その神技の瞬間、蹴り上げた後ろ足によって彼女のパンツが盛大にめくれあがり、その状態のまま全世界へ向けてミリオン再生されてしまった、あの伝説の黒歴史動画でもある。


「――あ」


 画面を見た瞬間、神酒盃菊鞠の顔からスーッと全ての血の気が引いていく。

 純粋無垢な新入生マネージャーが抱いてくれた本物の憧れ。

 それは最高に嬉しい。

 嬉しいのだが、忘れていた古傷をあまりにも無邪気に抉られた衝撃は、おっとり巫女の精神を粉砕するには十分すぎた。


「ひ、ひまりんが心肺停止しちゃったんよ! 衛生兵(メディック)、衛生兵ーーーーッ!!」


 カスミが慌てて叫ぶ横で、菊鞠は嬉しさと恥ずかしさと絶望が綯い交ぜになった顔で、ガタガタと震えだす。


「あ、ありがとうございます……すごく嬉しいです……嬉しいですけど、お願いですから今すぐその記憶を消去して、スマホごとあの動画を爆破してください……っ!」


 涙目で素直に喜べず悶絶する先輩の姿に、部室の面々が大爆笑で崩れ落ちる中、どんくさくて怯えていたココちゃんは、こうして八々花イレブンの新しい愛されマスコットとして(そして菊鞠への致命傷と共に)無事に迎え入れられたのだった。



 ――コンコン。


 控えめだが、しっかりと響くノックの音。


「三芳野です。入りますね」


 部室を埋めていた賑やかな笑い声がすっと収まり、全員の視線が入り口の扉へと集まる。


 ガラリと扉を開けて入ってきた顧問の三芳野は、まず部室の中を一気にぐるりと見回した。

 そして、まだあどけなさの残る3人の新入生が、すでに2年生たちに囲まれて温かく迎え入れられているその光景が視界に飛び込んできた瞬間――三芳野の顔が、最高の笑顔でパッと輝いた。


「すごいじゃない皆!新入生が3人も入ってくれるなんて!!それに、これで同好会から部へと昇格する条件が揃ったのよ!」


 興奮気味に掲げられた彼女の手の書類には、黒々とした『学校公認体育部・昇格通知書』の文字が誇らしげに躍っていた。


 冬の選手権であれだけの激闘を演じてなお、これまでは学校側から「同好会の自主的な活動」と片付けられていた彼女たちが、ついに名実ともに八々花女子高の正式な「顔」として認められる。


「素晴らしい! これで僕たちイレブンは、名実ともに八々花の看板を背負って全国へ轟かせられるってことなんだね!」


 紅葉が髪をかき上げ、嬉しそうに笑う。

 新しい3人の仲間、臨場感あふれる部室の笑顔、そして天下を狙う正式な「サッカー部」への格上げ。

 次なるステージへの新たな闘志が、静かに部室を白熱させていく――。


 そうして意気揚々と、あるいは戦々恐々としながら。

 八々花女子高等学校サ(・)ッ(・)カ(・)ー(・)部(・)は、インターハイ予選に登録したのである。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!


 ついに新入生が入り、名実ともに「先輩」となった八々花イレブン。

 さらには、サッカー同好会からサッカー部へと昇格することになりました。

 冬の選手権、同好会では参加できないらしい、と知り、冷や汗ダラダラ。

 ……。

 ま、いっか。

 

 新入部員の萩原赤音ちゃん、菖蒲田青衣ちゃん、春日井恋々ちゃん、いかがでしょうか?

 あと使っていない札は赤短と青短ぐらいしか思いつかず、その中からあまり名前の被らなそうな名前にしてみました。

 個人的に好きなのは春日井恋々ちゃん。

 花札の基本的な遊び方の「こいこい」を、恋々とした後で、ちょっとキラキラ風の読み方にしています。

 あまりDQ――キラキラネームは使わないのですが、たまに使う分にはいいかな、と。

 ん?白峯ぱいん?原アテナ?北山巳亀?

 た、たまに使うからいーんだよ!!


「萩子、早速新入部員にパシリさせてんなよw」

「菖蒲田から豚生姜焼き定食出てくるの、なんなんだよwww」

「菊鞠ちゃんの黒歴史、そういえばあったなぁ(遠い目)」


 そして、第100話から開催中の【第1回キャラクター人気投票】も、コメント欄にて絶賛受付中です!


★【投票締め切り:第105話の更新まで!】★


 見事【1位】に輝いたキャラクターには、新章のひと区切りとなる【第123話あたり】で、そのキャラが最高に輝く『単独主役回(センター回)』の執筆を完全確約いたします!

 次回から、インターハイ予選に向けた物語へと移り変わっていきます。第103話もお見逃しなく!

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