「いえ別に。これで蹴鞠保――サッカー同好会への入会が増えるなら、安いものですよ」
登場人物についての詳細は↓のとおりです。
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「あり。」
ぽん。
「よう。」
ぽん。
「おう。」
ぽん。
ようやく寒さも和らいだ春の曙。
徐々に昇っていく朝日に照らされ燦めく桜がはらはらと散る神社の境内で、少女たちの声に合わせるように、一つの球体が宙に舞っていた。
一年前のあの日、この場所に響いていたのは、おっとりとした巫女装束の少女――神酒盃菊鞠の、たった一人の請い声と鞠の音だけだった。
けれど、二年目の春を迎えた今日の境内は、耳が痛くなるほどに騒がしい。
「アリ! ほら萩子くん、次は『ヨウ』だ」
「分かってるって! ヨウ! うおっ、バウンド高すぎっ!」
「ちょっと萩子さんっ、わたくしに向けて砂を飛ばさないでくださいまし!」
表は漆黒、裏勝りに赤い色を差すジャージに身を包んだ八々花イレブンの面々が、桜吹雪の舞う神社の土をトーン、トーンと小気味よく踏み締めている。
空中に留まり続けるボールを見上げながら、全員が楽しそうに声を合わせていく。
八々花女子高は、学年ごとのクラス替えがないらしい。
仲良くなったクラスメイト達と別々にならなかった安心と、新たな仲間たちとクラスでも一緒にはなれない不満とが綯い交ぜになる、複雑な気分だ。
だからこそ、学校(教室)という枠組みを超えて集まった、この愛おしい『11人の居場所』が、菊鞠にとってはたまらなく嬉しかった。
「はーい、蹴鞠保存会の朝練はここまでとしまーす!」
「この後は、学校に行って、新入生を歓迎するための、部活紹介の準備をしよう」
蹴鞠保存会の代表者の菊鞠と、サッカー同好会のキャプテンの椛、その二人から言葉を合図に、イレブンは賑やかに部室へと足を向ける。
――果たして、新入生は集まるのだろうか。
時間は数日前に遡り、新入生に向けた部活紹介で、どういう出し物をするか話し合っていた時のこと。
『えー、嫌ですよ、そんな見世物みたいな真似』
新入生に向けた部活紹介の出し物として、菊鞠の妙足を見せたらどうか?という案に、菊鞠は心底イヤそうな顔をする。
『ひまりんのスッゲー技で、皆をアーッと言わせてワーッと引き付けられるじゃん』
萩子が大げさなボディランゲージで、菊鞠を誘うと。
『菊鞠くんの技を見て、サッカー同好会に入ってくれる人は、間違いなくいると思うんだ』
とキャプテンの椛が合わせる。
『私、別にサッカー同好会のメンバーが増えなくても困りませんが……』
口を尖らせる菊鞠。
『あら。サッカー同好会に入会させる、ということはイコール蹴鞠保存会のメンバーも増える計算になりますわよね?』
『やります。』
現金なもので、利害が一致した時の彼女の行動は爆速だった。
おじいちゃん達の高齢化社会に若い生贄を引きずり込むためなら、見世物になる恥ずかしさなど一瞬で霧散する。
そうして幕を開けた、全校生徒が集まる体育館での新入生部活勧誘会――。
そのステージの上で、八々花女子高サッカー同好会のパフォーマンスは、どこまでも賑やかに始まった。
「あーりやー、ありっ!」
気高い菊鞠の請い声が体育館に響くと、ステージの緞帳がゆるゆると上がっていく。
そこではサッカー同好会のメンバー4人によるロブパスの練習風景の様子を切り取ったかのようなワンシーンの再現だった。
トンッ――。
ポスッ。
パシッ、ポンッ!
「ありっ!」
新入生席から「おおっ」と小さな歓声が上がる中、流れるようなワンタッチのパスワークを終えたメンバーが、一人、また一人と、余韻を残すように舞台袖へとフェードアウトしていく。
最後に強烈な縦パスを蹴り出し、キャプテンの椛は微笑みを浮かべたまま、まるで次の主役へスポットライトを譲るかのように菊鞠を両手で恭しく示し、流れるようなステップで舞台袖へと消えていく。
その刹那――ステージの上には、たった一人の少女――菊鞠だけが残された。
「ようっ!」
跳ね上がったボールは、菊鞠の頭上を越えて背中側へと落ちていく。それを一切目視することなく、右足の踵で今度は背後から垂直に蹴り上げた。
ボールが再び放物線を描いて、彼女の正面へと戻ってくる。
「おっ! すっげえ、レインボーじゃん!!」
舞台袖でそれを見ていた萩子が、思わず大声を上げて身を乗り出す。
レインボー。
中学時代、菊鞠に告白してきた男子が挑戦して大コケした技だ。
蹴るためのコントロールが極めて難しく、飛びすぎたり変な方向へいってしまいがちなその大技を、彼女はすべて「右足一本、落とさない」という蹴鞠のルールにアレンジし――
レインボー改め、《月渡り(つきわたり)》という雅な妙足へと習熟させていた。
けれど、菊鞠の演舞はそれだけに留まらない。
落ちてきたボールを再び低く蹴り上げると、今度はボールを高く飛ばすのではなく、自分の身体に吸い付くように長年這わせ、肩から背中へと転がして落としていく。
それを今度は背後でキャッチするように踵で跳ね返し、再び首元を這わせて正面へと落とし、右足の甲でピタリと受け止めた。
当時、フリースタイルの動画サイトを見ては悔しさをバネに研究し、すべて「右足一本、落とさない」という蹴鞠のルールにアレンジして習熟させた数々の妙足。
いかなるアクロバティックな技を繰り出しても、彼女の左足は地をがっちりと踏み締め、体幹は1ミリもブレていない。ただ『右足一本』のキレだけで球体を支配し尽くすその姿は、観る者すべてを圧倒する、伝統の「神域」そのものだった。
「――すごぉ……っ」
新入生席の最前列の少女が思わず息を呑む。
最後は、高々と蹴り上げたボールを再び右足の甲へピタリと無音で静止させ、菊鞠はいつもと変わらない、屈託のない笑顔を浮かべてフィニッシュを決めた。
「いや、さすがだね、菊鞠くん。掴みは上々だ」
ぱん、ぱん。と両手で小気味良い音を鳴らしながら、椛が褒める。
「いえ別に。これで蹴鞠保――サッカー同好会への入会が増えるなら、安いものですよ」
すまし顔で控室に戻ってくる菊鞠だが、耳が赤いのがメンバーにはバレバレだった。
「素直に蹴鞠保存会って言えばいいのに」
あやめの苦笑に、皆が一斉に頷いた。
「しかし、どれほどの新入会員が入ってくれるかは、神頼みだね」
「これで入ってこないのでしたら、萩子さんがお正月に引いた御神籤の凶のせいですわね」
「えっ!?アタイのせい!?」
大げさにのけぞる萩子に、控室の全員がドッと吹き出した。
一年前、誰もいない境内から始まった物語。今では、こんなにくだらないことで笑い合える、かけがえのない仲間たちがいる。
――そして、放課後。
部活紹介の熱気が冷めやらぬ中、イレブンは期待と、ほんの少しの不安を胸に部室へと戻っていた。
あの菊鞠の《月渡り》を魅せつけたのだ。誰か一人くらい、扉を叩いてくれるだろうか。
――バァン!!!!
部室の扉が勢いよく開け放たれ、一人の新入生が、目をこれ以上ないほどキラキラと輝かせて萩子へと突進していく――!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
記念すべき101話からは、ついに八々花イレブンの『二年生編・新章』がスタートいたしました!第1話のあの孤独な神社の境内とのセルフオマージュ、気付いていただけましたでしょうか。
一年前はひまりんが一人で蹴っていたあの場所に、今は11人の最高の仲間たちが並んで声を合わせている――。書いていて、私自身とても感慨深い朝練のシーンとなりました。
そして、体育館のステージで披露された、レインボー改めひまりんの妙足《月渡り(つきわたり)》。右足一本で全ての物理法則を置き去りにする彼女の技術に、新入生席も舞台袖も大盛り上がりでしたね。
このレインボー、実は菊鞠が最初に椛たちに勧誘されたときに、一度見せていた技でした。
ただ、「あまり見せすぎても読者がダレてしまうだけ」ということで、《青蛉返し》という技のみを残し、他は泣く泣く削除――するのは勿体ないので、どこかで使おうとストックしています。
ですが、最後の最後にすべてをかっ攫っていったのは、あの嵐のような新入生、「アッシ」こと萩原赤音ちゃんでした!
冬の選手権予選からずっと萩子を見ていたという、まさかのガチ勢の舎弟。
「アニキじゃなくてせめてアネキだろじゃん!」とキレる萩子との爆速師弟(?)コンボ、これから部室をどう引っかき回してくれるのか、今から本当に楽しみです。
「レインボー改め《月渡り》、かっけぇ」
「クラス替えのない学校、はい終わりwww」
(※作者のぶっちゃけ:実は1年生の時の『クラス席次表』、200人分の名前入りでがっつり作ってあるんですよ。でも、2年生進級でそれをもう一度シャッフルして5クラス分の人間関係を再構築するの、メンドクセー!!と脳がパンクしそうだったので、力技で『そういう学校』ということにしました!笑)
そして、前話(第100話)から開催中の【第1回キャラクター人気投票】も、コメント欄にて絶賛受付中です!
★【投票締め切り:第105話の更新まで!】★
見事【1位】に輝いたキャラクターには、新章のひと区切りとなる【第123話あたり】で、そのキャラが最高に輝く『単独主役回(センター回)』の執筆を完全確約いたします!
2年生になった先輩たちの新たな活躍を見据えながら、ぜひ推しの名前を熱いパッションとともに叩き込んでくださいね。
新入生に負けじと先輩たちのプライドが炸裂する、次回の第102話もお見逃しなく!




