↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
101/152

「――その程度の網で捕らえられると思わないで頂戴」

登場人物についての詳細は↓のとおりです。

https://ncode.syosetu.com/n7086km/58

 春先のある日。

 ついに敷島体育大学との練習試合の日を迎えた。

 春らしい陽気……と言えればよかったのだが。


「うひぃぃぃぃ!ねえガチで無理ーー!マジで治安悪すぎなんだけど!せっかくキメてきた前髪がボサボサでビジュ完全に死んでるんだけど?」


 明莉まつりが、前髪を抑えながら叫ぶ。

 見れば、イレブンに限らず、周囲の人々も春一番の強風に難儀していた。


「文句を言わないの。風は両チームに平等に吹くわ」


 三芳野先生がなだめるが、その視線は険しい。

 ピッチを狂わせる突風。それは、菊鞠たちの《花見》《月見》の命綱である、桜のロブパス、そして菊鞠の軌道を手酷く狂わせる最悪の天候だった。


「んー、春一番ぐらいで、私たちのサッカーが変わります?」


 傲慢ともいえる、菊鞠の一言。


「私、ずっとこういう日も鞠を蹴ってきましたから。大丈夫ですって」


 そう言って、菊鞠はいつもと変わらない、屈託のない笑顔を浮かべる。

 いかなる悪天候であれ、ただ純粋に、無邪気に、日常として『鞠』を蹴り上げ続けてきた少女の、絶対的なバックボーン。

 そんな彼女の不敵な言葉に、イレブンの心がすっと軽くなる。


「はい、そんなところで油を売ってないで。向こうの監督が挨拶に来たわよ。さおり、皆を並ばせなさい」


 そんな空気を締めるように、春一番に負けない厳しい風当たりの強さでイレブンに喝を入れる天堂。


「は、はいっ!――みんな、整列っ!」


 天堂と三芳野の言葉に、顔を引き締めると、キャプテンの椛から順番に並んでいく。


「天堂先輩、この度はお声かけいただき、ありがとうございます!そして咲桜里、久しぶりね」


 敷島体育大学を率いる若き名将、不破(ふわ)美湖(みこ)監督が、現役時代を思わせる鋭い眼差しを和ませて歩み寄ってくる。


「ええ、美湖先輩……! お久しぶりです!」


 三芳野がどこか緊張と懐かしさの入り混じった声をあげる横で、天堂は冷徹に腕を組んだまま、不破を見据えた。


「挨拶はいいわ。不破、あなたたちがこの一ヶ月、私たちの対策にどれほどの『網』を用意してきたか、ピッチの上で見せて頂戴」


「ふふ、相変わらず容赦ないですね、天堂先輩。うちの娘たち、容赦なく八々花さんを潰しにいきますよ?」


 大人の、それも国内最高峰の強豪のプレッシャー。

 ――潰しにくる? 上等じゃん。


 並んだイレブンの意識が、キックオフを前に、あの夜から始まった血の滲むような特訓の日々へと一瞬でタイムジャンプしていく――。


「幕ノ内、今のが最高に美しい弧に見えるの?やり直し!」

「――!はいっ!」


「神酒盃。相手の右足ばかり見ない。狙いがバレバレなのよ」

「わかりましたっ!」


「薄、もうちょっと頭を使いなさい。そのお団子頭は飾りなの?」

「飾りですっ!」


 天堂の叱責に対して胸を張って堂々と言い放つ満月に、横で聞いていた菊鞠が「え、飾りって言っちゃった!?」と思わず吹き出す。

 そんな騒がしい空気の横では、泥に塗れた地上組(猪鹿蝶)の三人が、文字通り地を這うような猛特訓を繰り返していた。


「猪目、もっと突っ込みなさい! 蝶名林は周囲をよく見て、鹿戸へパスする瞬間を見極めなさい。 鹿戸はもっと華々しく!猪目を意識しすぎてるのが見えるわ!」


 それぞれの役柄に応じたフォーメーションを、繊細に手繰るのは、かつて《中盤の調律師》の異名を持ったあやめだ。

 自身がピッチで指揮するときのために、天堂の言葉を吸収していく。


「道風、貴女のその俊足で相手ディフェンス陣を引っかき回して、鳳のための『舞台』を整えなさい。――鳳は、最小の動きで最適解の位置に君臨。貴女は囮であるとともに、最終兵器よ」


「「――はい!」」



 ――ピピッ!!!!


 突如、鼓膜を震わせた鋭いホイッスルの音が、回想の残像を鮮烈に吹き飛ばした。

 意識が一瞬で「現在」のピッチへと引き戻される。

 目の前に広がるのは、春一番の強風が吹き荒れる敷島体育大学のスタジアム。対峙する大学生たちの、岩のように強固なディフェンスの網。


「よし!この一か月の特訓の成果を見せる時だ!――八々花ァーーーーッ!」」


 キャプテンの椛の言葉に、八々花イレブンが右手を重ねていく。


「「「「「ファイッッッ!!」」」」」


 春一番の強風が吹き荒れるピッチに少女たちの声が響きわたる。



 キックオフのホイッスルと共に、敷島体育大学のフォワードの猛ダッシュ――。

 萩子や柳に劣らぬ俊足で八々花のミドルサードを突き破ろうとしてくる。


「させへんで!」


 すかさず、時鳥藤乃がアプローチしていく。ゴールまでの最短のドリブルコースを潰(ディレイ)しつつ、鴬塚小梅のいる方向へ誘導(ディレクション)していく。


 藤乃が狭めた罠へと、小梅が鋭い出足でインターセプトを狙う。

 ——バチッ、とピッチの上で火花が散るような、格上との息をもつかせぬ激闘。


 敷島体育大学のフィジカルと、組織された『大人の網』は、これまでの高校生ライバルたちとは次元が違った。

 強風を計算に入れたはずの桜のパスですら、一瞬の隙を突かれて回収される。地を這う牡丹のキープも、二人がかりのプレスで泥の中に削り取られそうになる。


 だが、今の八々花イレブンには、一か月間練習してきた、『複数の方程式』があった。

 味方の脚も、敵の脚さえも『第二・第三の脚』と見做し、春一番をものともしない異次元のチェイン・バウンドを行う菊鞠。

 そんな彼女を要に据えた空中戦『花見・月見』はデータの死角を強襲し、満月が狙撃手のごとき一撃を突き刺す。


 敷体大の選手が春一番を厭って地を這うプレイへと移行すれば、待ってましたとばかりに、中盤の底で牡丹の瞳が鋭く光る。


 大学生たちの鋭く低いパスワークに対し、牡丹は激しい砂煙の中で縦ロールを翻しながら果敢にインターセプトへ飛び込んだ。

 襲いかかる相手の激しい寄せを、あえて足裏でボールを引き込みながら、ピッチの上で蝶が舞うように優雅に一回転――『マルセイユ・ルーレット』で手玉に取る。

 敵のプレスを完璧にいなして決定的な『時間(タメ)』を作り出すと、椛が敵の全意識を引き付け、最速の萩子がフリーランニングの状態で敵陣をブチ抜いて椛のキラーパスに追いつき、シュートへと繋ぐ。


 萩子の放った弾丸が敷島体大のゴールネットを揺らし、八々花のボルテージは最高潮に達する。


 しかし、格上(大学生)の意地と底力は凄まじかった。

 瞬く間に逆転を許し、試合は2-3。一進一退の壮絶な攻防のまま、時計の針は無情にも後半の残り五分を指そうとしていた。



「鳳、往きなさい」


 ベンチの前で腕を組んだ天堂の冷徹な声。

 ジャージを脱ぎ捨て、八々花の「生ける戦術兵器」がピッチへ這い出す。

 タイムリミットは、わずか五分間。全力で走れば壊れるその身体いたわるようにゆっくりとピッチを歩み、桐子は最適解の位置に坐して爪を研ぐ。


「頼んだわよ、千鶴、桜、満月、柳」


 桐子を慕い、神園学園を辞めてここまで一緒に歩んできてくれた仲間たち。

 ベンチの外で見守るのではない、ピッチ内で、一人の選手として仲間たちとサッカーをする、わずか5分間の贅沢。


 その嚆矢が今、千鶴のパントキックという形で放たれる――。


「行きますっ!」


 桜にパスが渡ると、敷体大は菊鞠へのパスを警戒して彼女にマークを固める。

 が、それこそが狙い。

 《花見》《月見》戦術で、菊鞠とのコンビネーションを印象づけたからこそ、桜からダイレクトに満月へとパスが渡るルートが盲点となる。


 不意を突かれ、慌ててスライドする敷体大のディフェンス陣。

 しかし、パスを受け取った薄満月の右足は、すでに迷いなく振り抜かれていた。狙撃手のごとき弾丸パスが、ピッチを横切って左サイドの前線へと爆射される。


 そこへ、萩子に次ぐチーム第二位の俊足で突進してきたのは道風柳だ。

 柳はカミソリの如きキレ味の超絶フェイント《燕返し》を繰り出し、スピードを1ミリも落とさないまま敵陣のディフェンスラインを内側から激しく引き裂きながら、猛然とボールをキャリーしていく。


 敷体大のDFが必死にタックルに飛び込む。誰もが、柳がそのままゴール左隅へとシュートを放つと確信した、その刹那。


 ――トン、と。

 柳はシュートのモーションから、信じられない強さのアンクルホールドで、突っ込んできたDFの『股の下』へとボールを優雅に滑り込ませた。


 DFの肉体の影――完全なる死角。

 驚愕に目を見開く敷体大の視界の先、そこには、走ることも、歩くことすらもせず、最初から『最適解の領域』に静かに立ち尽くしていた少女がいた。


 鳳桐子。

 鳳凰が天上からフィールド上を俯瞰するがごとく、柳が運んでくる弾道の終着点に君臨していた、八々花の生ける戦術兵器。


 死角から現れた極上のキラーパスが、彼女の足元へ寸分狂わずピタリと収まる。

 騙されたと気づき、慌てて「蜘蛛の網」のように一斉に向き直って群がろうとする敷体大のディフェンス陣。


 それらを遥か高天から見下ろすように、桐子は絶対的な誇りを宿して、冷徹な独白を叩きつけた。


「『蜘蛛が網を張って鳳凰を待つ』なんて諺があるみたいだけど――その程度の網で捕らえられると思わないで頂戴」


――ドガァァァァン!!!!


 彼女の《鴻鵠の志》を乗せた不屈の一撃が、突風をぶち抜き、敷体大のゴールネットを無慈悲にブチ抜いた。


 ――ピ、ピ、ピーーーッ!!!!


 直後にスタジアムへ響き渡る、試合終了の長いホイッスル。

 全力を出し切ってピッチに倒れ込む仲間たちと、その中心で、一歩も動かぬまま最高の笑顔を浮かべる鳳凰の姿がそこにあった。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました……!


 そして皆様の温かい応援のおかげで、ついに記念すべき【第100話】の大台へ到達することができました!心から感謝申し上げます。

 一ヶ月の地獄特訓の果て、春一番の砂煙が舞うピッチで繰り広げられた、敷島体育大学との激闘。あやめが手繰り、八々花イレブン全員で繋いだ『花合フォーメーション』の全貌、そして鳳桐子が仲間たちと紡いだ「わずか5分間の贅沢」と、柳の死角から放たれた不屈の一撃。

 100話の節目にふさわしい、彼女たちの執念と誇りを見届けていただけたなら幸いです。


「桐子さん格好よすぎる……!」

「柳さんとのコンビネーション鳥肌立った!」

「ていうか不破美湖監督、ファミコンwww」

などなど、皆様の感想をコメント欄で教えていただけると嬉しいです!


★【第100話記念!読者参加型・人気投票イベント開催!】★

 大台到達を記念して、本日より「第1回キャラクター人気投票」を開催いたします!

 見事【1位】に輝いたキャラクターには、そのキャラが最高に輝く『単独主役回(センター回)』の執筆を完全確約いたします!

 主人公の菊鞠や幼馴染みのあやめ、あるいは猪鹿蝶の三人や五光のメンバー、そして後ろから支えるカスミやまつり、あるいは三芳野先生や天堂総監督など。

 全員が主役の八々花イレブンの中で、皆様の心を最も震わせた「推し」に、ぜひ全力の1票(コメント)を投じてください!

 投票は、この下の【コメント欄】に推しの名前を書き込むだけでOKです!

 「鳳桐子ちゃんに1票!」

 「今日の燕返しが最高だったので、道風柳くんで!」

 「満月ちゃんのお団子頭に一票www」

 「カスミ」

などのように、名前だけでも、本編の感想や熱いパッションを添えていただいても大歓迎です!


【投票締め切り】:第105話の更新まで!


 集計は作者が責任を持って、コメント欄を一つずつ愛を込めて数え上げます。

 皆様の熱い一票(と、キャラクターへの愛あるツッコミ)、心よりお待ちしております!


 100話まで一緒に走り抜けてくださった皆様、もしよろしければページ最下部にある【☆☆☆☆☆(星ボタン)】や【ブックマーク】で、これからの彼女たちの往く道を応援していただけると、執筆の何よりの爆速エネルギーになります!


 次回、第101話【「いえ別に。これで蹴鞠保――サッカー同好会への入会が増えるなら、安いものですよ」】もどうぞお楽しみに!――


【今後の更新ペースにつきまして(作者よりお知らせ)】


 いつも温かい応援をいただき、本当にありがとうございます! お陰様で大台となる第100話の大決戦を無事に描き切ることができました。


 ここから始まる新章『二年生・インターハイ予選編』は、彼女たちの物語のクライマックスへ向けた、文字通り最後の熱い夏、そして全力のラストスパートとなります。


 これまで以上の熱量と、1行の妥協もない最高のクオリティで彼女たちの往く道を最後まで書き切るため、明日9月3日(木)はお休みをいただき、以降は少しだけ更新頻度のペースを調整しながら、じっくりと最高の原稿を届けていく形を取りたいと思います。


 次回の第101話(新章開幕!)の更新は、【9月4日(金)】を予定しております!


 人気投票で推しの名前を叫びながら、八々花イレブンの最後の戦いを、ぜひ最後まで一緒に見守っていただけましたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。