妖精姫は意図せずより拗らせてしまう。
遅くなりました。すみません。
頑張ります!
胸の内は複雑なまま、気鬱なリーナは父親に伴われ、大ホールの王族の席に着いた。
するとすぐに見覚えのある青年が近寄って来る事に気付く。
(あら?あの方は………)
リーナは正面からこちらへと向かって来る美青年をぼーっと見る。
優しい微笑みを浮かべながらも、堂々とした足の運びは男らしい。
グレーのスーツに青いクラヴァットを纏う青年は、すらりと身長が高く、均整のとれた筋肉で引き締まっているのが服の上からでも見て取れる。
金髪に赤を混ぜた明るい色の髪は、夜会仕様なのか軽く後ろに撫で付けてあり、それが妙に艶っぽい。
だが微笑んで細められた茶色の瞳は、人懐っこく優しいもので、女性の警戒心を容易く溶きほぐす魔法のような力を秘めていた。
リーナ達の目の前に辿り着いたセルジオは、壇上の一段下に跪いて、まずギルバートに恭しく挨拶をした。
彼と二言三言ことばを交わして、リーナへと向き直る。
セルジオはにっこりと微笑んで、跪いたままリーナの白く細い手をそっとすくい取ると、それを軽く掲げ持ち、そのまま魅了されたようにリーナをじっと見つめる。
彼の人懐っこい優しい瞳の奥には、常とは違う熱いものが見え隠れしているが、そんなものは当然リーナには読みとれない。
「今宵また貴方に会えて嬉しいです。リーナ姫……」
セルジオは掲げ持っていたリーナの華奢な手を軽く引き寄せると、そのたおやかな白い陶器のような手の甲に、彼の形の良い薄い唇をそっと付けた。
「あっ!……」
リーナは驚いて、思わず手を引きそうになった。だがすんでの所でこれは紳士の挨拶なのだと思い出して、動かさずにいれた。
挨拶にしてはやや長めのキスをしていたセルジオは、ちゅっと軽く音を立てて漸く唇を放すと、名残り惜しげにリーナの手を解放した。
「貴女がまさかあの噂の、麗しの妖精姫だったなんて·····知らなかったとは言え、大変失礼しました。」
「こんばんわ、セルジオ様。あの、そんな畏まらないで下さい。先程と同じように話して下さって構いませんからっ」
リーナはセルジオの急にかしこまった恭しい態度に苦笑する。
出会った時の彼の印象が明るく親しげなお兄さんという印象だったので、いまいちピンとこないし、落ち着かないからだったが、通常公の場での王族への態度にソレは無理だが、今日はそれほどお固い舞踏会ではない為、リーナはいいだろうと思ったのだ。
「お父様、セルジオ様は先程、庭であぶない所だった私を助けて下さったのです」
「あぶない所?リーナよ、まさかお前はまた迷子になったのか?」
「ち、ちがいますっ!ちょっとお顔から転びそうになっただけですわ」
リーナは顔を赤らめ慌てて訂正を入れた。
「何っ!顔から!?そうか、それは良くぞ助けてくれた。世も父親として礼を言おう」
顔と聞いた瞬間、ギルバードは過剰なほどに反応していた。
亡き愛しの妻にそっくりな、リーナの無垢な美貌に彼は擦り傷ひとつ付けたく無いのだ。
「勿体無いお言葉でございます。麗しい妖精姫をお助け出来たというのならば、私の方こそ素晴らしき僥倖にございます。感謝の言葉もございません」
恭しく頭を垂れるセルジオに、ギルバートは鷹揚に返す。
「何、謙遜せんでいい。本当に良くぞ助けてくれた、セルジオよ。お前にはこれからも色々と期待しておるぞ」
「……はい。勿体無いお言葉です。」
その時、会話の頃合いを見計らっていた侍従長が、ギルバートに次の挨拶の者が待っていると、そっと耳うちしてきた。
それを機にギルバートは一度セルジオに鷹揚に頷くと、話を切り上げて次の者を迎え入れた。セルジオは邪魔になら無いよう、素早くその場所を次の者に譲り渡し、これまた素早い自然な動きでリーナの席の隣りに立った。
勿論王族の席なので、数段高い。すなわち会場の何処からでもその様子は見えるという事だ。
隣国に政略の為とはいえ、嫁いだ人妻の隣りに、彼は何の躊躇無く陣取ったのだ。それは本来ならフェラルドの位置と言ってもおかしくない程に、親密に見える近い位置であった。
「今日のドレス、とても素敵だね。すごく良く似合ってるよ。綺麗だ·····」
セルジオは艶やかに微笑みながらストレートにリーナの装いを賞賛した。
その言葉を待ち望んでいたリーナだが、それを一番言って欲しい人はこの場には居ない。
「ありがとうございます········セルジオ様」
(えっ……と…ちょっと近くないかしら?)
流石のリーナも若干の戸惑いを感じたが、しかしその戸惑いはすぐに霧散した。
不意に見渡した会場内で、今自分の目に飛び込んで来た衝撃的な映像によって。
「フェ····ラルド·····さま·····?」
リーナが見たのは妖艶な美男美女が寄り添うように立ち並び艶やかに微笑み合う姿だった……。美男は他の者と間違いようが無い程のオーラを放っていて、美女も豊満な身体から出る色気を惜しげ無く振りまいていた。
この映像は知っている。リーナはつい先ほども同じものを見たのだから··········。
そして次の瞬間、激しい胸の痛みと悲しみが彼女に
襲い掛かった。
リーナは痛む胸の辺りを握りしめながらも、目が離せられ無かった。




