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舞踏会の煌く美男子の恋模様。

リーナは、迎賓館と本城を繋ぐ回廊を渡り、城のもっとも奥にある豪奢な扉の前に来ていた。


「……あの、お父様……リーナで…」


す、を言う前に目の前の豪奢な扉は勢い良く開いた。


「おおっ!リーナ!良く来たな、先程からいつ来るのかと待ちわびておったのじゃぞ?

あんまり遅いから、あの男が伝えなんだのでは?と思っていたが、どうやらちゃんと伝えたようだな。」


「?」


残念ながら意味が分からないリーナは、きょとん。とするしか無い。


実際にフェラルドはギルバートの伝言などどうでも良く、色々ありすっかり忘れていて伝えていないのだから当然である。


「さあ、そこに座りなさい。今お茶を持ってこさせよう。お前のお気に入りの茶葉を取り寄せておいたのだ。おい、誰か……」


「あのっ!お父様……」



「ん?何じゃ?どうしたリーナ?」


「……今夜の夜会なんですけど……お父様にエスコートして貰え無いでしょうか?」


「それは……大いに構わんが、婿殿は欠席か?」


「………いえ、そういう訳では……。」


「………では、喧嘩でもしたのか?」


「………………」


しょんぼりと俯く愛娘を見て可哀想になり、ギルバートは頭を優しく撫でてやる。と、同時にしめしめと、心中でほくそ笑んだ。


「……まあ良い。無理してあんな男の側にいる事は無い。だが、丁度良いわ」


「丁度良い?」


「いや、こちらの事よ。おまえは気にせずとも良い。」


(そう、丁度良い。今のうちにもっと仲違いさせ、あの生意気な小童からリーナを手元に取り戻してやる!)



「おお、そういえばリーナ、おまえに挨拶したいと申している者が何人か居る。会ってやってくれぬか?」


「?はい。分かりました」


「それにしても、今日はまたずいぶんと大人っぽいドレスだな。」


リーナの姿にようやく気付いたギルバートが、娘を眺める。


「似合わない……でしょうか?」


思わず不安が口から溢れる。

ライラには似合うと言われたが、彼女は侍女だ。別に嘘を言っているとは思わないけれど、フェラルドからは似合わないと、ハッキリ言われた。


優しい彼が着替えろとまで。それはよっぽど、一緒に歩くのも躊躇われるほど、私の姿が恥ずかしく、みっとも無いものだったに違いないわ。

だからきっと、私が笑われる前に止めてくれたんだわ。


彼は優しい人だから。

それなのに、私がくだらない反抗をしたから、彼を本当に怒らせてしまった。



(セルジオ様のお姉様の真似して、こんな格好するんじゃなかった。


私なんかが、こんな格好しても似合うはずが無いのにね。


あんなに美人でも無いし、色気も無いし、身長だって低いし、どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう。)


でもこれで、フェラルド様は私の事なんて、完全に呆れて嫌いになったに違いないわ。


だってはっきり言われたもの。誘惑するのは一人だけだって………。



ズキンッ!



(っ痛!……まただわ)




「リーナ!これ、聞いておるか?」


その時、太い声がして、沈み行く思考の渦からリーナを救った。


「あ、はい。ごめんなさいお父様、もう一度お願いします。」


「何をぼーっとしておるのだ。まあ良い。良く似合っていると言ったのだ。お前は亡くなった我が最愛の妻レイラに本当にそっくりだ。そんな美しいお前に、似合わない衣装など無い。そもそもお前に似合わなければ、誰一人似合わないだろうから、そのドレスが駄作なのだ。」


恥ずかしげも、惜しげも無く、ベタ褒めして似合うと断言する父親の愛情に、リーナは感謝した。


勿論、父親だから、褒めて貰った言葉をそのまま受け取る事はできないが、ギルバートの、さも当たり前だろう!とい言いきる姿は、少なからず先程よりはリーナの沈んだ心を浮上させた。


「ありがとうございます。お父様」


「そのドレス姿を今宵、皆に見せてやれば良い。あまりの美しさにきっと皆呆然とするに違いない。」


えっ!?と着替える気満々だったリーナは父親の言葉に目を剥く。


気遣って褒めてくれたのは、嬉しいが、流石にフェラルドにあれ程止められたドレスで舞踏会に出席するのは躊躇われた。

これ以上フェラルドに嫌われたくは無い。


「あ、お父様っ私着替えようかと……」


「そろそろ時間だな。では、行くぞリーナ!」


リーナの言葉を気付く事無く、でかい声で揉み消すと、白く細い手を取り、ギルバートは久々の愛娘のエスコート役に心躍らせ、悠々と歩き出してしまった。





✤✤✤✤





今宵、メイスィルのヴェーゼル城の豪奢な大ホールには、綺羅びやかに着飾った紳士淑女がずらりと勢揃いしていた。



最終日の王家の秘宝お披露目会は勿論だが、それまでの一週間も、宝石の展示や販売などが茶会や夜会で、昼夜とわず行なわれる。


その買い物や秘宝目当ての者も大勢いるが、やはり元敵国だが穏やかに終戦に導いた、若き賢王と名高いフェラルドが目当ての者も(女性)数多くいた。



そして、あまり姿を見せない妖精姫と名高い美しい姫を、一目見る事を目的に集まった者も(男性)、同じく多かった。





大ホールの天井画に描かれた青年神より、よほど美しい男達二名は、優雅に気品溢れる立ち姿で大ホールに入場した。


途端に彼らの周りは色めき立つ。

その美しさは勿論だが、色男二人がパートナーを連れずにやって来た事もだ。



「やっぱり美男子がパートナー無しは目立ちますね。」


周囲の乙女に軽く手を振り微笑みながら、イーゼルトはフェラルドに話しかける。



「言ってろ。別にお前だけでもパートナーを作れば良い。お前なら今からでも簡単に、選り取りみどりで見つけれるだろう。」


フェラルドは相変わらずじゃがいも……もとい、女性に愛想無く、前を見据えて只優雅に歩く。


「まあ、そうかも知れませんが、陛下だけ一人には出来ませんしね。可哀想でしょう?」


「全く気にするな。何なら俺が頼んでやるぞ。誰か気に入った娘はいないのか?お前は昔から、色っぽい年上系が好きだったよな?」



いつもの他愛ない従兄弟のやり取りをしていた二人だが、話の流れは思わぬ方へ向かって行った。



「………最近は……そうでもないですよ。」


フェラルドの足の運びが一瞬止まる。



「……………」



だが物想いに軽く瞳を伏せたイーゼルトは、それには気付かない。


「最近、自分のタイプが大きく変わったみたい何ですよね」


「………ほう、例えばどんな?」


「例えばか……そうですねぇ、白が良く似合って……天使かと思うほど愛らしく、かと思えば女神の様に美しい。妖精のように可憐で、控えめな様で、お転婆で……でもか弱くて危なっかしいから……放っとけない。そんな可愛い小動物みたいなコロコロした子……ですかね」



「!…………………」



フェラルドは軽く目を見張ると、横でまだ瞳を伏せているイーゼルトを、じっと見据えた。

だがすぐに視線を逸して、素気無く返す。


「諦めろ。そんな女はこの世にいない」


「はは、確かに。他には居ないですよね……きっと。」



イーゼルトの憂いた苦笑に、遠巻きに見つめる美女達はうっとりと夢見ごこちになっているが、フェラルドは違う。


嫌な予感が確信に変わりつつあり、苦く複雑な思いだった。


「……………」





その時だった。聞き覚えのある艷やかな声が二人に掛けられる。



「あら、フェラルド様っ!と………お付の方!」


「イーゼルトっ!!イーゼルト・サーベラードです!ミランダ嬢!陛下の従兄弟で親衛隊長と伯爵を兼任しております。以後お見知りおきをっ」


カチンと思わず突っ込んだイーゼルトだったが、ミランダはそよ風の如くするりと受け流す。


「そうですか、それは失礼致しましたわ、サーベラード伯爵。ところでフェラルド陛下、パートナーである奥様はご一緒ではありませんの?」



(この女狐!つくづく性格悪いな、俺の存在を思い切りスルーしてくれちゃって、完全に陛下狙ってるじゃないか。こういう肉食の可愛げの無い女が、俺は一番嫌い何だよ)


イーゼルトの心中を知ってか知らずか、はたまたどうでも良いのか(たぶんコレ。)ミランダはフェラルドに妖艶な美貌で微笑む。



ミランダの今宵の姿は、深い紫に宝石と紅い薔薇を随所に散りばめた、とても瀟洒で妖艶なドレスだ。


上半身の露出が多く、ほとんど胸元しか隠れていない。

その豊満な胸も、リーナ達など可愛く思えるほど、襟の開きは尖端ギリギリの艷やかさだ。


それでも下品に感じ無いどころか、高貴な品が漂って見える。

艷やかな麗しい容姿で、周りの男性の熱い視線をミランダは難無く攫っていく。



フェラルドはそんなミランダの問い掛けに苦笑する。


「ええ、まあ……。少し事情がありまして」


するとミランダはさり気なくフェラルドに近寄ると、上目線で声を落として鋭く斬り込む。


「あら?喧嘩でもされたのですか?」


「いえ、そういう訳では………」


「ダメですよ陛下。若い奥様をいじめちゃっ」


ミランダは大人の女の余裕を見せ、瞳を細め艷やかに微笑む。



(何がいじめちゃっ♡だ!ふざけた女だな!もとはといえば、あんたが元凶だろうが。大体、距離が近くないか?まるで自分が陛下のパートナーだとでも言いたげだな。端から見たら完全にそう勘違いして見えるに違いない。)



冷たい無表情で、イーゼルトはじとー。っとミランダを眺める。

しなりと、フェラルドに寄り添うように隣りに立つ彼女は、自身の魅力をよく理解しているのだろう。


美貌のフェラルドの隣りに立っても全く引けを取らない。

それどころか、美男美女で誰もが納得してしまうほどだ。




「苛めたつもりは有りませんが、そうですね。肝に命じます」


フェラルドは先程のリーナとのやりとりを思い出すと、最近の自身の独占欲の強さを改めて感じて、自嘲の苦笑を浮かべた。




「あらっ?噂をすれば、あれは奥様ではなくて?」


ミランダの視線が示す先、遠くの1段高い王族の席に、ギルバードとギルバードに付き添われたリーナがしずしずと入場して来た。



宝石祭り開催の合図でもある最初の舞踏会だ。


富裕層の貴族達がこぞって、城に招かれた宝石商達に金を落として行く。

その売り上げの一部を、国が城での宝石祭り期間限定の商売の権利、場所代として商人達から頂く。ごっそり、いやしっかり。


その為、堅苦しくして場に水をさし購買意欲を削ぎたくない。

そんなギルバードの意向もあり、規則など取っ払った無礼講的な宴となっていた。


その為、王族入場の先ぶれなどは無いし、フェラルド達も畏まって王族の席に並ぶ必要も特に無かったので、二人は普通に招待客と同じ入口から入場したのだった。






「リーナ……」


フェラルドは席に着いたリーナの姿を見つけて、思わず名を呼んだ。

リーナは先程と同じ艷やかなドレスだった。


大ホールの男性達の視線が壇上の麗しい女神に集り、釘付けになっている。


フェラルドはまた、嫉妬心が爆走しそうになったが、先程反省したばかりで、流石にそれは耐えた。




(着替え無かったのか……。そんなにあの服が気にいっていたのか?


リーナが、俺みたいな歳の離れた夫を持ったせいで、何となく、(大人)に前からこだわっていたのは知っている。


若く輝いている今の自分を、否定するような発言も聞いた。

俺の歳に合わせようとしてくれている健気な姿がいじらしく思えたものだ。


でも俺は、十分に女として見ているし、むしろリーナしか女と思っていない。

それをこの間、リーナには伝えたはずだ。彼女も分ってくれていたと思ったが、もしやまだ気にしているのか?


それとも、違う理由なのだろうか?)





その時、リーナの側に一人の青年が寄って来た。まずギルバードに挨拶をした後、リーナに嬉しそうに話し掛けている。


遠目からで、よく分からないが二人とも初対面とは思えないほど、親しそうに見える。

フェラルドとイーゼルトの二人は、それを見て思わず眉間にきつく皺を寄せる。


「「…………!!」」


「あら?あれは……セルジオじゃない」


ミランダの言葉に二人は直ぐに反応する。


「お知り合いですか?」


先に口を開いたのはイーゼルトだった。

フェラルドも、誰だあのクソ野郎は!と殺気に満ちた目でセルジオを射殺す勢いで見つめる。心中ではとっくにもう50回はゆうに殺っちゃている。



美男子二人のあからさまな殺気にも怯むことなく、ミランダは楽しげにのんびりと受け答える。


「お知り合いというか、弟ですわ。セルジオ・クラーデル。わたくしの二歳下で今は二十一歳です。でも珍しいわね、いつもは良い年して男ばかりとつるんでいて、女性と一緒にいた所なんて見た事が無い子なのに。


リーナ様とお知り合いだったなんて、全く知らなかったわ」


「「……………」」



****


ミランダの言葉を受け、イーゼルトはハタと気付く。


(そういえば、あの男何処かで見たと思ったら、薔薇園でリーナ様と一緒にいた奴じゃないか。一体二人はどういう関係なんだ?ライラなら知っているか?)


イーゼルトは思いたったが直ぐに、恐ろしい殺気を揺らめかせているフェラルドに一言断りを入れて、大ホールを出た。



本当は二人だけで残していくのは躊躇われたが、ライラに確認したい事もあったので、イーゼルトは直ぐに戻って来るならばと、フェラルドを肉食女豹(ミランダ)の側に置いたまま、二人から離れた。


それにより、二人きりとなったフェラルド達が端から見ればどう映るかなどは簡単な事だった。


美男に撓垂れ掛かる美女の妖艶な微笑み。それに時おり返す美男の艶やかな薄い苦笑…。まさにベストパートナーに見えてしまうのは自然な事である。


それはイーゼルトが心配した以上だった。







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