華の茶会の赤い華。
午後の茶会は驚くほど見事にほとんどが女性だった。
会場となったのは迎賓館の向かえにある、整備された中庭だ。
赤や青、黄色に白、紫に緑、色とりどりの花が咲き乱れるなかで、それに負けないほど色とりどりの華達が美を競うように咲き乱ている。
その華達に囲まれたテーブルで、フェラルドは優雅に椅子に腰かけ、長い脚を気だるげに組みかえていた。
その姿は、美麗な芸術彫刻のように麗しく、されど美しいだけで無く、男らしい精悍さも絶妙に配合されていて、まさに神話の中の美麗な戦神といった風体だ。
後ろに控えているイーゼルトも、その甘い王子様マスクで夢見る乙女の心を、自身の弓の腕同様、スパン、スパン撃ち貫いていた。
そんなフェラルド達を、華達はうっとりと見つめ熱い溜め息をそこかしこで漏らしている。
「はぁ、素敵ですわ〜」
「本当に。でももうご結婚されてるなんてショックよねぇ」
「フェラルド陛下ね。確かうちの国の末姫リーナさまと和解のさいに政略結婚をされたのよね」
「リーナさまかぁ。あの方可愛いものね、妖精姫なんて言われてるんでしょう?」
「ええ、ギルバート国王様の一人娘で目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりだそうよ。確か今年十六になったばかりのはずよ」
「えっ?まだ十六歳なの!?まだ子供じゃない」
「確かにねぇ。可愛いけど、ちょっとまだ大人でわなくてよねぇ。でもあなただってまだ十八じゃなくて?あまり変わらないじゃない」
「しっ!ダメよ、あなた方声が大きいわ。聞こえてしまったら大変よ」
「ごめんなさい、つい。でも随分年が離れてるのね夫婦というより……」
「そうね。まるで年の離れた兄妹ってところかしら?」
「なんだかフェラルド様、お可哀想だわ。あんなに素敵な大人の魅力をお持ちな方なのに、政略結婚とはいえ幼妻なんて貰い請けてしまって。きっと夜もご不満に違いないわ」
「そうよね。ああ、私が変わって妻になってさしあげれたらいいのに。そうしたら素敵な夜を………」
「あなたじゃ陛下を満足させるのは無理よ。私くらい大人の女性になってから言いなさいな」
「なによ!ちょっと胸が肥えてるだけじゃない。陛下は巨乳なんて好きじゃなくてよ」
「巨乳って、あなたねぇ。失礼じゃなくて?」
「まぁ、まぁ。ねぇ。あなた方、でもまだ諦める事も無くてよ」
「どうゆう事?」
「実はね、あまり知られて無いらしいのだけど、ジルンタール国は一夫一妻制でも、王族だけは一夫多妻制らしいのよ。西の果ての砂漠国と同じようにね。これは記録簿庫に勤めるお祖父様に聞いた話だから確かよ」
「それ本当なの!?力ある大国や王族ではそういうところも多いらしいけど、ジルンタールで第二王妃なんて聞いた事ないわ」
「あ、でも私それっぽい話聞いた事あるかも。遙か昔にジルンタールでは後宮があったとか。でたらめだと思ってたけど本当だったのね」
「それに、今回やたら適齢期の令嬢が多く集められたのは、実はそうゆう意図もあるらしいわよ」
「そうゆう意図って?」
「………第二妃さがし」
「「「「キャーーッ!!」」」」
「五月蝿い女共だな」
華達の噂の渦中である当人は、眉根を軽く顰め艶やかな低音でボソッと悪態をついていた。
「陛下、ことば。気をつけて下さい!どこに耳があるか分からないんですから!」
すると後ろに控えるイーゼルトに小声で嗜められた。
フェラルドは分かっている、とばかりにふん!と鼻をならしてみせる。
先程からひっきりなしに来る令嬢達の挨拶にうんざりしたフェラルドは、近寄るなよオーラを発動させ、人気の空いたティーテーブルに避難したのだが、恋する盲目乙女はそんなオーラには負けなかった。
瞬く間にまた女性達に囲まれてフェラルドは内心心底不機嫌でいた。
さすがにあのオーラで、声を掛けれる強者はおらず、彼らから半径三メートルを空けたドーナツ状に固まってピンクな視線と黄色い小声をあげていた。
意外にも綺麗な手をしたフェラルドは、紅茶カップをさり気なくソーサーに置くと、軽く茶会の場を見渡し息をついた。
「しかし何故こうも年頃の令嬢ばかり何だ?」
「本当ですね。男性もいる事はいる様ですが、明らかに女性の比率のほうが多いですね。確かギルバート王の話では、陛下に会いたい若い男性も多いような事を仰っていた筈ですが、茶会だからでしょうか?」
二人は、読唇術でも使うかのように、恐ろしく小声で会話する。
「……………さあな。話たいなら茶会でも良いだろうと俺は思うが」
こちらをチラチラ見つめてくる女性達と視線を合わせない様にフェラルドは周りを探っていく。
そんなフェラルドをイーゼルトはちらりと窺うと、声をかけた。
「……………陛下」
「何だ?改まって」
フェラルドは周囲から視線をイーゼルトに向けた。
「先程のリーナさまの部屋での事ですが…………」
「…………………………」
「少し当たりが冷た過ぎませんでしたか?」
「何が言いたいんだお前は?」
「いえ、陛下にしては珍しいなと。何にあんなに拗ねたのかはおよそ見当がつくので聞きませんが、あんなに可愛い嘘一つくらいで少し大人げが無さ過ぎませんか?こんな他愛ない事で怒るような貴方では無いでしょうに」
「……………わかり合い過ぎるのも考えもんだな。お前には関係ない。」
この話はもう終わりだ。とばかりにフェラルドはフイっと顔ごと視線を外す。
「まあ、確かにそうなんですがね……………」
(でも、美少女のあんな顔はもう見たくないものだね)
はあ、とイーゼルトは小さく息をついた。
その時、ふいに横から気配を感じ二人は同時にそちらへ振り向く。
振り向いた先には、一人の令嬢が凛と顔を上げ、ドーナツ状の令嬢の輪からこちらに向かってくるところだった。
艶やかな赤毛にゆるくカールをかけ頭高くで一つに纏めた女性は、フェラルドでさえその美貌を認めざるえない程の麗しい令嬢だった。
スラリと高い身長の体は豊満な胸が品良く踊り、大人の色気と気品と知性をふわりと醸し出していた。
「また、これは……随分と極上の御令嬢ですね」
「ほお。イーゼルト、お前の趣味はああゆうタイプか。まぁ確かに美人なのは否定しないがな」
「しかし、この陛下の近寄るなオーラに挫けないなんて、なかなかに肝の座った強者ですよね」
「何だそのオーラは?」
二人がボソボソと話しているうちに赤毛の美人は二人の前に到着した。
「フェラルド陛下。こちらの席、宜しいでしょうか?」
ニッコリと妖艶に笑んだ赤毛の美人は、フェラルドの隣の席を求めた。




